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手巻き煙草や噛み煙草から煙草へ。変わり行くミャンマーの喫煙風景

板坂 真季

ミャンマー・ヤンゴン(在住歴5年)

プロフィール詳細

アジア・オセアニア|ミャンマー|2018年08月15日
グロテスクな画像が並ぶ煙草売場

グロテスクな画像が並ぶ煙草売場

 スーパーの煙草売場に行くとぎょっとする。口腔癌に冒された患部のアップ写真がすべての銘柄の煙草パッケージを覆い、その一画だけがホラー映画のようだからだ。
 ミャンマーではこのグロテスクな画像と「煙草を吸うと口腔癌になる可能性があります」という警告文をパッケージに掲載することが義務化されている。

地方で人気の手巻き煙草

 ミャンマーの煙草は1箱600~1500チャット(約60~240)円くらいが多く、スーパーをはじめ街のどこでも簡単に買える。欧米人が多い飲食店だと全面禁煙のこともあるが、大衆的な居酒屋や喫茶店ではスモーカーがまだまだ幅を利かせている喫煙天国、それがミャンマーだ。
 ミャンマーでは普通の煙草のほか、「セポレイ」と呼ばれる手巻き煙草を嗜む人が多い。セポレイは刻んだ煙草の葉や茎にクワ科の植物などを加えて煮込み、乾燥させ、トウモロコシの皮やチークの葉で包んだものである。煙草よりも安く、地方を中心に人気が高い。田舎に行くと、農家の女性たちが太いセポレイをくゆらせながら井戸端会議にいそしむ光景をよくみかける。

トウモロコシで巻いたセポレイを楽しむ老婦人

トウモロコシで巻いたセポレイを楽しむ老婦人

発癌性が高いクーン

 さらにミャンマーで特徴的なのは、日本人には「キンマ」の名の方が比較的知られている「クーン」の流通だ。台湾やベトナムでも広く普及している嗜好品で、ヤシ科の植物「ビンロウ」の実を石灰やスパイスなどと一緒にコショウ科の葉で包んだもので、ミャンマーでは噛み煙草を入れる人も多い。価格は4個入りで200チャット(約15円)ほど。クーンには覚醒作用があるため、ドライバーなど眠気覚ましが必要な職種の人びとが特に好み、大通りでは数十メートルごとにクーンを売る屋台があるほどだ。
 近年になってビンロウが、きわめて強い発癌性のあるアフラトキシンB1を含むことがわかった。ミャンマーでは中年層の口腔癌が非常に多く、原因はこのビンロウを入れたクーンであるとみられている。

進まない禁煙、さらには外資煙草会社の進出も

クーンに入れるスパイス類は購入者の希望でカスタマイズも可能

クーンに入れるスパイス類は購入者の希望でカスタマイズも可能

 クーンについては若者を中心に人気が衰えつつあるが、そのぶん煙草を吸う人が増えているのではないかという声も多い。2018年6月26日付の地元英字紙「ザ・グローバルライト・オブ・ミャンマー」によると、ミャンマーの喫煙率は現在44%、クーンを含めると68%だという。さらに同紙は、13~16歳までの学生を対象とした調査でも男子生徒の26%、女子生徒の4%が煙草かクーンを使用していると報告している。
 政府もこの状況には危機感をもっており、WHOが2003年に採択した煙草規制枠組条約(FCTC)にもいち早く参加。メディアでの煙草広告の規制や、冒頭に紹介したようなパッケージへの警告文や写真掲示の義務化、学校や病院の近くでの販売禁止などを行ってはいる。しかしその一方、日本たばこ(JT)やブリティッシュ・アメリカン・タバコといった、大手の外資系煙草会社の進出も進んでいる。
 ミャンマーでは民主化が進むとともに食や暮らしへの健康志向が高まりつつあるが、その波はまだ、都市部の富裕層にしか及んでいない。クーンの屋台やトウモロコシ製手巻き煙草は旅行者の異国情緒をかきたててくれる格好の被写体ではあるが、こればかりは早急な消滅を望むしかない。

出典

・Tobacco use increasing in Myanmar at alarming rate (Myanmar Times, 26 June 2018)
http://www.globalnewlightofmyanmar.com/tobacco-use-increasing-in-myanmar-at-alarming-rate/

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板坂 真季

ミャンマー・ヤンゴン(在住歴5年)

ミャンマー在住6年目の編集・ライター&取材コーディネーター。著書に『現地在住日本人ライターが案内するはじめてのミャンマー』(徳間書店)など。

 
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