トップ > プログラム > 世界の街角ライブラリー > イギリスの春、ブルーベルの森へ
3月の最終日曜日に時計の針を1時間進めて夏時間に入ったイギリス。日が長くなり、春の花も咲き揃って、春爛漫の趣だ。この時期、イギリスの人々がその開花情報に特に関心を寄せ、遠出をしてまで見に行こうとする花は、森の中の群生のブルーベルだ。
森が一面、紫色に
4月から5月にかけて開花するブルーベル。自宅の庭に植えて愛でる人も多いが、やはり森の中を一面紫色に染めるイングリッシュ・ブルーベルの群生こそ、新緑と相まって忘れがたい景色で、イギリス人が昔からこよなく愛する春の原風景だ。日本人が桜の開花を待ち望むように、イギリス人は森のブルーベルの開花を心待ちにしていて、ローカルニュースや新聞記事でも春の話題として取り上げられるのが常だ。

ブルーベルの森(北東ロンドンのWanstead Parkにて)
イングリッシュ・ブルーベル vs 外来種
イギリス原産のイングリッシュ・ブルーベルは、ラベンダーブルーの釣鐘型の花に独特の甘い香りがあり、20~30cmの花茎の先端が花の重みで湾曲して下に垂れているのが特徴。一方、花茎が直立で花の色の青みが強い外来種のスパニッシュ・ブルーベルは香りがなく、ガーデン用に植えられることが多いが、その繁殖力の強さからイングリッシュ・ブルーベルとのハイブリッド種が近年増えつつあり、森林の自生のイングリッシュ・ブルーベルへの影響が懸念されている。
ブルーベル・ウォッチ
イギリス最大の森林保護慈善団体、ウッドランド・トラスト(Woodland Trust)では、“The Big Bluebell Watch”と題してブルーベルの分布調査ページをサイトに設け、毎年4~5月末にイギリス各地のブルーベル情報(2017年は48,200件)を募っている。ブルーベルを見かけた場所と、原生種か外来種かを入力すると、同ページの地図に表示されるようになっていて、今春も各地からの情報が寄せられている。原生種と外来種の割合など集計結果は後日同ページで報告されるが、この調査結果を元に、同トラストでは森林のイングリッシュ・ブルーベルの保護対策を講じているそうだ。
この他、歴史的名所や自然景勝地の保護団体、ナショナル・トラスト(National Trust)でも、同団体が管理するブルーベルの森の情報や保護の状況をサイトで紹介している。
人気のブルーベル商品
長年人々に愛されてきた花なので、イギリスにはブルーベルを原材料やモチーフにした商品が少なくない。たとえば、ナショナル・トラストのショップでは、ブルーベル柄のスカーフやバッグ、食器などオリジナル商品を販売。1870年創業で英国王室御用達の高級香水店、ペンハリガン(Penhaligon’s)では、ブルーベルのオードトワレとバスオイルが定番商品だ。スーパーでも、ウェイトローズ(Waitrose)がオリジナルのブルーベル・ハンドウォッシュ(£1)を販売している。こうした商品からも、イギリス人のブルーベルへの愛着の程が伺える。
春に訪英の機会があれば、イギリスの春の風物詩であるブルーベルの森に足を運んでみていただけたらと思う。
出典
・ウッドランド・トラストのブルーベル・ウォッチ
https://www.woodlandtrust.org.uk/visiting-woods/bluebell-watch/
・ナショナル・トラストのブルーベルの森情報
https://www.nationaltrust.org.uk/lists/bluebell-woods-near-you

峰松 愛
イギリス・ロンドン(在住歴23年)
東京で出版社勤務後、渡英。編集やライターの仕事の傍ら、ロンドンのオフィス街で日本語教師として活動。