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ポル・ポト時代の歴史資料を公開したアプリが登場 ― 記憶の風化は止められるか

矢羽野 晶子

カンボジア在住10年

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アジア・オセアニア|カンボジア|2017年10月10日

ポル・ポト時代を描いた映画『最初に父が殺された』

 今年2月、アンジェリーナ・ジョリーが初監督を務めた映画『最初に父が殺された』(原題:First They Killed My Father)のプレミア上映会が、カンボジアのシェムリアップ、アンコール・トム遺跡にて開催された。同作品は1970年代のポル・ポト政権下の虐殺を子供の視点から描いたもので、上映会には招待客の他、アンジェリーナと彼女の家族、カンボジア国王のシハモニ王も招待された。

今も生き続けるポル・ポトの悪夢

プノンペン郊外にあるキリングフィールドに建つ慰霊塔。1万人近くの遺骨が納められているという。

プノンペン郊外にあるキリングフィールドに建つ慰霊塔。1万人近くの遺骨が納められているという。

 1975年より約3年半の間、カンボジアの政権についたポル・ポト率いる民主カンプチアは、急進的な共産主義政策で国内を混乱に陥れた。自由経済の禁止、地方キャンプへの強制移住と過酷な労働、知識階級や政権に歯向かうものへの容赦ない粛清。カンボジア全土に「キリング・フィールド」と呼ばれる粛清場があり、餓死を含めたこの期間の死亡者は200万人以上にのぼると言われている。
 ポト派が政権を降りてからもカンボジアの内戦は続き、実質の内戦終結は1998年頃になる。ポト派兵士や虐殺された被害者家族は今も存命しており、現政権(カンボジア人民党)も深いかかわりを持つ。それゆえに非常にセンシティブなトピックであるといえる。
 内戦を含むカンボジアの現代史は、学校教育では一貫性がなく、時代によって触れたり削除されたりを繰り返している。そのため今の若い世代はアンコール時代については知っていても、ポル・ポト時代含む内戦で何が起こったのかを、きちんと知らない人が多い。実際に経験した40代半ば以上の親世代も、トラウマがあるのか子供たちに語ることは稀だ。

歴史資料を公開したスマホアプリ「クメール・ルージュ・ヒストリー」

アプリのインターフェース。画像、映像と文章で当時の様子を伝えている

アプリのインターフェース。画像、映像と文章で当時の様子を伝えている

 そんな中、今年7月にポル・ポト時代の映像や画像をまとめ、公開するというスマートフォンアプリ「クメール・ルージュ・ヒストリー(Khmer Rouge History)」が登場した。当アプリはプノンペンにあるボパナ視聴覚リソースセンター(Bophana Audiovisual Resource Center)が製作。センターが保有する1300枚以上の写真と動画65本で構成され、コンテンツは今後も随時追加していくという。
 アプリはiPhone、Android両方より無料ダウンロードでき、言語はクメール語と英語の2カ国語の選択式。写真や映像は8つの章に分類され、それぞれに時代背景などの解説がついている。第1章はクメール・ルージュ創成期(彼らがいかに権力を掌握していったか)、第2章がプノンペン陥落…と時系列に続き、第8章で現在のカンボジア特別法廷などといった構成になっている。アプリ製作にあたっては、EUヨーロッパ連合やカンボジア教育省などが協力している。

 ボパナセンターは、ジョリーの映画に製作として参加したカンボジア人映画監督リティ・パニュ氏が設立したもので、国内外から収集したカンボジアの視聴覚資料を保存・公開している唯一の団体だ。パニュ氏自身も両親をポル・ポト時代に虐殺された経緯がある。
 パニュ氏はアプリについて「歴史の善悪を判断するためではない。事実を提示しているだけ」と述べている。また同センター事務局長のチア・ソピアップ氏は「これまでポル・ポト時代の歴史は外国人によって書かれてきた」とし、「カンボジアの若い世代は、この新しいツールによって、自分の両親や祖父母がどんな人生を辿ってきたのかを知ることができるだろう」としている。

ボパナ視聴覚リソースセンター

ボパナ視聴覚リソースセンター

いかに次世代に語り継いでいくか

 昨年11月、ポト派幹部の生き残りを裁くカンボジア特別法廷が10年越しに結審し、元最高幹部の2名に対して終身刑が言い渡された。判決に対しては様々な意見があるが、クメール・ルージュ問題についてのひとつの区切りがついたことは間違いない。
 今後さらに時が経ち当時を知る者が世を去れば、人々の記憶も風化していくだろう。一方、前述のジョリー氏の映画やこのアプリなど、新たな手法で語り継ぐための試みが行われていることも確かだ。次世代が過去の過ちを繰り返さず、よりよい未来を選びとるためには何ができるのか。カンボジアが抱える重大な課題だ。

※映画『最後に父は殺された』は9月15日よりネットフリックスにより全世界一斉配信

出典

・Khmer Rouge History app to assist students
http://www.phnompenhpost.com/national/khmer-rouge-history-app-assist-students

・ボパナ視聴覚リソースセンター
http://bophana.org/

矢羽野 晶子

カンボジア在住10年

現地情報誌『クロマーマガジン』元編集長。

 
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