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外国人には珍妙なミャンマーの伝統化粧が海外で再評価

板坂 真季

ミャンマー・ヤンゴン(在住歴5年)

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アジア・オセアニア|ミャンマー|2017年10月03日

 ミャンマーに初めて来た日本人は、多くの女性たちが頬に白い塗料を塗りつけているのを見て驚く。日本人の目から見ればふざけているとしか思えないが、これがミャンマーの伝統的化粧品「タナカ」だ。

日焼け、肌荒れにも効果があるタナカ

顔にタナカを塗った少女

顔にタナカを塗った少女

 タナカはミカン科の樹木(学名:Hesperethusa crenulata (Roxb.) M.Roem)の幹の皮を墨を磨るように石盤で水と磨ったもので、これを顔に塗る。着飾ってパーティーなどに出かける場合は頬に四角く塗るが、市場や工事現場で働く女性は顔中に無造作に塗りたくる人が多い。日焼け止めになるためで、日差しの強い現場だと男性でも塗っている人がいる。ほかにも清涼感を増す、ニキビを治す、シミ・シワを薄くする効果があると信じられている。からだにも良いとされ、家族でタナカを塗り合い、残った汁を子どもの口に含ませる光景もよく見かける。

 産地として有名なのは、ザガイン地方のシュエボやアヤドー、マグウェイ地方のイエナンチャウンなどの、ミャンマーでも比較的乾燥した「上ビルマ」と呼ばれるエリア。シュエボのタナカ畑を訪れたことがあるが、1年目、2年目と、植えた年度ごとに列を変え、伐採する7年目の隣にはまた1年目の苗木と、高さが異なるタナカがずらりと並んでいた。
 このエリアで採れるタナカはパゴックやモンユワ、マンダレーへ集積し、ヤンゴンといった他地域へ流通していく。特にパゴックにはタナカだけを扱う専門の市場が生鮮食料品や日用品の市場とは別に設けてあり、観光名所にもなっている。

 小売価格は直径10cmほどの枝を15cmくらいに切り分けたもので1片5000~8000チャット(約400~640円)くらい。皮の部分だけを磨って使うが、最近は粉にしたタナカを石鹸のように加工して売っているものもある。1個100~200チャット(約10~20円)だが、「磨り残った芯も使うので質が良くない」と言う人もいる。良いタナカとはほんのり爽やかな香りがするとされ、売場では手に試し磨りして香りを確認している女性をよく見かける。

シュエボーのタナカ市場

シュエボーのタナカ市場

韓流が化粧法にも影響

 タナカの歴史は古く、500年前に詠まれた詩に既に登場している。ミャンマーは軍政下で経済閉鎖が続き、一般庶民が海外の文化にあまり触れることができない状態が長かったこともあり、民族衣装をまといタナカを顔に施す文化が廃れることなく続いてきた。

 しかし、ここ5年ほどの民主化の進展と、その少し前から始まっていた韓流の広まりで女性たちの化粧法が変わってきた。特に韓国系の化粧品店の進出度合いはすさまじく、ショッピングセンターには必ず韓国化粧品メーカーのブースがあり、街にも韓国系化粧品店があふれている。そんな中、都市部の女性たちのタナカ率は徐々に下がりつつある。
 「タナカはいずれ消え行く文化」というのが大方の見方だったが、2017年8月15日付の現地英字紙「ザ・グローバルニューライト・オブ・ミャンマー」は、ザガイン地域ではタナカが増産傾向にあると報じた。ある生産業者はインタビューに応えて「タナカ畑を拡張した」と語っている。ちなみにその生産者の村では、タナカ1本の取引価格は1万チャット(約810円)だそうだ。

自然派化粧品として海外で注目

ドゥ・リーフタナカのサイト

ドゥ・リーフタナカのサイト

 こうしたタナカの増産をもたらしたのは海外での需要だと、2017年8月5日付の「ディ・イラワジ」紙の英語ニュースサイトは報じる。中心となるのはタイの美容業界だ。
 タイの化粧品メーカーのエブリデイハッピー社ではタナカを使った製品シリーズ「ドゥ・リーフタナカ」として、石鹸やファンデーション、ボディパウダーなどを展開している。また、この4月には同じくタイのブリティッシュディスペンサリー社がタナカ関連スキンケア製品を新発売。タイはミャンマーとは文化的に近く、ミャンマー人出稼ぎ労働者も非常に多いため、こうしたミャンマーの伝統文化への理解が深いということがあるのかもしれない。
 日本でも、「タナカ」と「化粧品」でネット検索すると、いくつかの自然派製品がヒットする。本国ミャンマーで衰退の道を歩み始めたタナカだが、自然志向の強い先進国を中心に別の形で発展し、いつか逆輸入される時代がくるのかもしれない。

板坂 真季

ミャンマー・ヤンゴン(在住歴5年)

ミャンマー在住6年目の編集・ライター&取材コーディネーター。著書に『現地在住日本人ライターが案内するはじめてのミャンマー』(徳間書店)など。

 
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