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日本の地方自治体がベトナムに熱い視線 - ユニークなアプローチをする2つの自治体の事例

中安 昭人

オリザベトナム株式会社代表

プロフィール詳細

アジア・オセアニア|ベトナム|2016年05月02日

日本の地方自治体がベトナムで開催するイベントが増加中

日本の地方自治体からベトナムへのアプローチが急増している。そのさきがけとなったのは、根室のサンマだろう。根室市が、ベトナムへの輸出に乗り出したのは5年前。市はベトナム人職員を雇い、訪問団を現地に派遣し、ホーチミンの人気日本料理レストランと提携して、「根室のサンマフェア」を定期的に開催するなどしてきた。この結果、2010年度に6.7トンだった冷凍サンマのベトナムへの輸出量は、3年で10倍に増えたという。以前だと、こういうイベントは両国政府レベルで行われることが多かったが、地方自治体からベトナムへ、直接売り込みをするイベントが増えているのが最近の傾向だ。

例えば2016年に入ってから、1月には青森県の八戸市と弘前市、おいらせ町が主催する、一般向けの物産展「ジャパン青森フードフェア2016」、2月には「九州ベトナム経済交流ミッション 2016」という商談会、3月には2年目の開催となる商談会「北海道フードビジネスマッチング・イン・ベトナム2016」と、日本の地方自治体が主催する大型のイベントが、立て続けに開催されている。

このように、地方からベトナムへのアプローチが増える中で、注目すべき動きを2つ紹介したい。

流通会社と組んでベトナムへアプローチする和歌山県

食材を楽しむ会の会場には、和歌山県の特産食材が置かれていた

食材を楽しむ会の会場には、和歌山県の特産食材が置かれていた

1つは和歌山県とヤマトロジスティクスベトナム社による取り組みである。

日本の企業や地方自治体が、自社製品や特産品を持ち込んで行うイベント自体は、決して珍しくない。会場には多くのベトナム人がつめかけ大いに賑わうが、後が続かず一過性のものに終わってしまう場合も少なくない。その理由の一つは「流通手段が確保されていないから」だろう。例えばベトナムの小売業者や飲食業者が、イベントに出された商品を気に入り、いざ仕入れようとしても、これが簡単ではない。国をまたいだ物流には、関税をはじめ、国内の物流とは異なる障害がたくさんあるからだ。

そこで和歌山県は、2015年11月23日にホーチミン市で「和歌山県産食材を楽しむ会」を開催する際、ヤマト運輸のベトナム現地法人であるヤマトロジスティクスベトナム社をパートナーとして選んだ。どうしてヤマトだったのか。

日本のヤマト運輸は、日本国内において「プロジェクトG」という事業を推進している。GはGovernmentの略で、地方自治体のこと。日本のいろいろな地方自治体と提携し、地方の優れた農産品の販促支援を行うというのが、その事業の中身だ。和歌山県、三重県、高知県、愛媛県、宮崎県、熊本県といった地方自治体と協定を結び、地方の活性化を物流の面から支援している。さらに、クール宅急便サービスを海外でも展開しており、香港、台湾、そしてシンガポールにおいて業務を行っている。つまり地方の特産品を集めるインフラも、それをアジアに届けるインフラも持っているのだ。ベトナムにおいても、2015年3月に現地法人を立ち上げ、業務を拡大しつつある。

イベントには、ベトナムのメディア関係者および在住日本人など約60人を招いて、和歌山県から持ち込まれた39キロのマグロの解体ショーを行った他、和歌山県の企業5社が参加し、同県産の食材をアピールした。

イベント会場において、ヤマトロジスティクスベトナム社の松田弘社長は取材に応え、「地方の特産品の場合、全国に流通しているナショナルブランドと異なり、取扱量は少ないが、それだけに小口配送に関して高いスキルを持っている弊社の強みが発揮できる分野。今回は、和歌山県の特産品を紹介したが、これに引き続きいろんな地方の特産品を、ベトナムの方々にお届けしたい」と語った。日本の食材をベトナムに輸出したいと考えている自治体は多く、「弊社では、既に和歌山県に続く自治体からのお問い合わせも頂いている」(松田社長)とのこと。

「マーケットリサーチのための商談会」から、物流会社と提携することで「流通させるための商談会」へと、より具体性の高いイベントになった例だと言えるだろう。

和歌山県食材を楽しむ会で行われたマグロの解体ショー

和歌山県食材を楽しむ会で行われたマグロの解体ショー

ベトナムで人気のサッカーを切り口にする茨城県

12月23日の調印式には50人を越すベトナムのメディアが集まった

12月23日の調印式には50人を越すベトナムのメディアが集まった

地方自治体からベトナムへのアプローチで、もう1つ注目されるのは、茨城県の事例である。

同県水戸市を本拠地とするサッカーJ2・水戸ホーリーホックに、ベトナムサッカー界を代表する選手であるグエン・コン・フォン選手(20歳)が1年間の期限付きで移籍することになった。ベトナムにおいてサッカーは、「国技」と言っていいほど、他を圧倒的に引き離して支持されているスポーツだ。それだけに2015年12月23日、ホーチミン市で行われた調印式には、50人を超えるメディアが取材に訪れた。その後も、2月17日に水戸で練習を開始したフォン選手の様子や、3月28日に茨城県の橋本昌知事により、フォン選手が「いばらきベトナム交流大使」に任命されたことなど、フォン選手の一挙手一投足がベトナムで報道されている。ベトナムにおける茨城や水戸の知名度は一気に上がったことだろう。

中央のフォン選手をはさんで、左が沼田邦郎社長と、右はフォン選手が所属するクラブのグエン・タン・アイン代表

中央のフォン選手をはさんで、左が沼田邦郎社長と、右はフォン選手が所属するクラブのグエン・タン・アイン代表

茨城県では、2014年10月には橋本知事がベトナムを訪れるなど、以前からベトナムとの関係強化を進めてきた。今回のフォン選手の移籍でそれに弾みをつけたい考えだ。調印式において、スピーチを行った水戸ホーリーホックの沼田邦郎社長は、「これがきっかけとなって、ベトナムと茨城県との関係が深くなって欲しい。」「フォン選手を応援するために、ぜひ水戸まで来て欲しい。」「ベトナムでは日本の牛肉の人気が高いと聞いている。茨城には常陸牛という、非常においしい牛肉があるので、ベトナムの皆さんにも味わって頂きたい」などとアピールした。

ちなみに今回の期限付き移籍は、Jリーグが取り組んでいるアジア戦略の一環だ。タイ、インドネシア、ベトナムなど東南アジア6か国のリーグと提携して、これらの国から選手を獲得することに力を入れている。戦力としての期待よりも、その目的は経済効果にあると言っていいだろう。

ベトナムの庶民の間では、「日本」というと、まだ「東京・京都・大阪」の名前しか上がらないことが多い。しかし、日本の地方都市は、これらの有名都市に勝るとも劣らない魅力がある。観光資源もそうだし、ご当地の食材もそうだろう。そういった魅力がベトナムの人に伝えられるかどうかは、素材の良さだけではなく、和歌山県や茨城県のように、「ちょっとした工夫」をするかどうかにかかっていると思う。

中安 昭人

オリザベトナム株式会社代表

ベトナム在住

 
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