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デリーでの「食べる」「飲む」、与え合うのは当然

水洗 満美

インド・ニューデリー(在住歴14年)

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アジア・オセアニア|インド|2021年12月06日

3種類の人が訪れる食堂

 オールドデリーの一角、Jama Masjid前の通りには、イスラム教徒向けの食堂が多数ある。それらの中に「3種類の人が訪れる食堂」がある。

「3種類の人」とは?

1. 自分でお金を払って食べる人
通常の客である。普通に着席して食べ、代金を払って去る。

2. 誰かが食べさせてくれるのを待つ人
食堂の前の道に座って待っている。

3. 食べさせる人

この「食べさせる人」の役割を担う場合、このようにする。

(1)食べさせたい人数分だけ、食堂の人にお金を渡す。
 この食堂の場合、1人あたり25ルピー(約38円)の設定だ。首都デリーにおいて、ふかふかのローティー2枚に肉までついて25ルピーというのは破格である。

200ルピー(約306円)を渡すと、8人に食事が配られる。順番に8人区切り、9人目は食堂の人に手で押しとどめられた

200ルピー(約306円)を渡すと、8人に食事が配られる。順番に8人区切り、9人目は食堂の人に手で押しとどめられた

この食堂ではローティー2枚と肉入りのカレーが渡される

この食堂ではローティー2枚と肉入りのカレーが渡される

(2)食事が配られるのを目視確認する。
 配り終わる前に去ろうとすると、食堂の人に止められる。「不正がないように、ちゃんと見届けていってくれ」と。

(3)お金を出した人は食堂から飲み水をもらえることがある。
 これでおしまいである。今回は1人が感謝の仕草をしてきたが、それを除けば、これまでに一度も施しを受けた人々から感謝の仕草をされたり感謝の言葉を言われたりしたことはない。

ヒンドゥー教徒やサイババ信者にも同様の習慣

 前述の例は、イスラム教徒の街における仕組みであったが、ヒンドゥー教徒のお寺の周辺にも同様の食堂があるそうだ。暑い日などには個人や店舗などが自主的にテントをたてて飲み水を配ることもある。

ある夏の日、筆者の自宅前にも唐突にテーブルが設置され、ローズミルクとサモサが配布された。ここでも、受け取る人が特にお礼を言うことは基本的にないようだ

ある夏の日、筆者の自宅前にも唐突にテーブルが設置され、ローズミルクとサモサが配布された。ここでも、受け取る人が特にお礼を言うことは基本的にないようだ

 自宅に修理業者などを呼んだ際、業者が飲み水またはミネラルウォーターのボトルを要求することはよくある。筆者の経験では、ミネラルウォーターのボトルの場合、「サンキュー」を言われることもあるが、言われないことも多い。浄水器からの飲み水の場合、ほぼ言われない。

飲食提供にお礼なし

 「こんにちは。いいお天気ですね」に相当する現地語をひとつ選ぶとすれば、「こんにちは。ご飯は食べましたか」である。定型の挨拶文に「ご飯は食べましたか」があるほど、インドの(少なくともデリーの)人にとって、飲食物というのは万人に与えられるべき当然のものであり、飲食に関することはお互いに(富めるものが貧しいものに対しては特に)気遣い合うのが当然のことだと考えられている、と筆者は解釈している。

 「水をあげたのに、お礼を言われない。お礼を言うのは人としての基本だろう」と憤慨する日本人が散見されるが、インド人にとっては命の水を当然与え合うことこそが人としての基本なのかもしれず、ここは、インド人が飲食を大切にしていることを逆手にとった行動をとるほうが賢い。「水だね。冷たいのがいい? 常温がいい?」と尋ねてあげたり、昼食時間に運転手と別れる際に「このあたりに(あなたが)食べられるものはありそう? 大丈夫?」と一言添えてあげたりすれば、「気遣いのできる雇用主」の姿を効果的にアピールできるであろう。

※写真は執筆者が独自に撮影、または所有しているものです。記事の内容は執筆者の見解に基づくものです。

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水洗 満美

インド・ニューデリー(在住歴14年)

不動産仲介やイベント運営など日本人サポート業務を主に行う

 
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