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インド人の時間感覚との付き合い方(後編)

水洗 満美

インド・ニューデリー(在住歴13年)

プロフィール詳細

アジア・オセアニア|インド|2021年04月21日

 筆者はインド人が率直に伝えてくれない理由をこう考えていた。

・可能性が完全に潰えるまでは、利益を得られる可能性を残しておきたいから
・利益が関係なくとも、可能性が完全に潰えるまでは「考えられる中で最もラッキーな場合」について答えたいたちだから

それも一定の正解ではあると思う。しかし、想像していない「理由」がもうひとつあった。

率直に伝えない理由

 居住用物件の案内をしているとき、私が日本人顧客にこう説明した。
 「この物件の台所の、この木材はシロアリが好むタイプなので、シロアリ発生のリスクが少し高いです」
 デリーに完璧な住まいなど存在しない。インドに駐在する顧客も、そんなことは百も承知である。「シロアリ発生のリスクが高い」という情報が、「この物件はやめておこう」という顧客の判断に直結するわけではない。それぞれに異なる良い点、悪い点を比較検討するために、また、今後の心構えのために、経験豊富な不動産業者による見立ては必要なのだ。

 そのとき、前述のインド人同僚が私を叱った。
 「なぜお客さんにそんなことを言うんだ。シロアリは来ていないじゃないか」
 私は怒りをおぼえた。心の中で「リスクが多少なりともあるなら、伝えたほうが親切だ。良い話だけを並べ立てて契約さえさせてしまえばいいと考えているのか! それは間違っている!」と考え、それを口に出そうとした。

 しかし、インド人は悪人を見るような目つきで私を見つめ、こう続けた。
 「彼はそんな話を聞かされたら、不快な気持ちになってしまう。気分が悪くなってしまう。そんな、"よくないこと"を君はどうして平気でやれるのだ?」

 インド在住10年目の出来事だった。私はぽかんと口を開けた。
 (「いま」確定していない悪い出来事は確定してから困ればよいと。幸せに過ごしている「いま」の気持ちを台無しにするほうが”よくないこと”だというわけか……)

 日本人が遅刻や遅延を避けようとしたり、遅延状況を正しく伝えようとしたりするのは、他人に迷惑をかけぬため、というのが大きいだろう。だから、一部のインド人の「遅延状況すらまともに伝えてくれない行動原理」について、私は単純にその反対、つまり「他人に迷惑をかけても平気なんだ」と思っていた。だが、少なくともこのインド人同僚の数々の理解困難な言動は「他人の気持ちを慮ったゆえ」のものだったのだ。

我々にできる対策

チャーイを飲みながら談笑する学生たち(デリー、2019年撮影)

チャーイを飲みながら談笑する学生たち(デリー、2019年撮影)

 そうはいっても、困るものは困る。遅延するなら遅延すると伝えてもらえれば助かることは多い。「なぜ困るのかを丁寧に説明し、話し合えばよい」と思われるかもしれない。しかし、筆者の経験上だけの話で恐縮だが、時間を守るインド人は最初から時間を守るし、時間を守らないインド人はどうやっても変わらない。
 そのため、こちら側でできる対処方法を考えることになる。筆者の経験、および、日本人から聞いた話をまとめる。

(1)業務の遅延によるトラブルを回避するには

①納期を前倒しして伝える
 実際のデッドラインよりもかなり早めの日程をデッドラインとして伝える。

②日本人顧客に対しては、楽観的な予測に基づいた報告をしない
 部下から「水曜に終わる」と自信満々に言われたのを鵜吞みにして顧客にそのまま伝達すると、顧客もそれに基づいて行動してしまい、遅延時の被害が拡大する。

(2)業務の遅延状況を正確に把握するには

①対面で会う
 電話・メール・メッセージではなく、実際に会い、こと細かに話してもらう。
 こちら側の「許容する雰囲気」を確認しながら説明できるからなのか、それとも対面することで優先度を上げたい気持ちになるのかは不明だが、実際に対面したほうが正確な情報を出してもらいやすい実感がある。心なしか、そのあとの進行もスムーズになる。

②きわめて具体的に進捗を確認する
 「進んでいますか?」「できていますか?」「どこまでできましたか?」ではなく、「Aの表のBタブの入力は終わりましたか?」「Cさんへの電話はしましたか?」と、具体的に確認する。

③穏やかに接する
 激しく追及すると、パニックになることがある。具体的な進捗を穏やかに尋ね、寄り添うことで、多少の本音が引き出せることがある。

(3)客先に遅刻させないためには

カフェの様子(デリー、2017年撮影)

カフェの様子(デリー、2017年撮影)

①待ち合わせ時間を10分ずらす
 自社社員に伝える時間と顧客に伝える時間を10分ずらしておく。

②早く来るメリットを作る
 「待ち合わせ場所に30分早く行ってコーヒーを飲みましょう。おごります」。これで20分早く来る。コーヒー1杯の出費でストレスフリーだ。

 多様なインドにおいて、一般化させた論を展開することは困難だが、「デリーで働くいち日本人の視点」というひとつの事例として、なんらかの参考になることがあれば幸いである。

※写真は執筆者が独自に撮影、または所有しているものです。記事の内容は執筆者の見解に基づくものです。

出典

・From Switzerland to Nigeria, here are the most and least punctual countries
https://www.businessinsider.com/here-are-the-most-and-least-punctual-countries-2015-2

・These 8 Scales Reveal Everything You Should Know About Different Cultures
https://www.businessinsider.com/the-culture-map-8-scales-for-work-2015-1

・It's Frustrating How Bad Indians Are At Time Keeping
https://www.bingedaily.in/article/it-s-frustrating-how-bad-indians-are-at-time-keeping

・Why are people in India always late for their appointments?
https://www.quora.com/Why-are-people-in-India-always-late-for-their-appointments

関連ページ

・インド人の時間感覚との付き合い方(前編)
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/overseas_detail/id=1220

・インドネシアでワクチン接種始まる~インフルエンサーを優先
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/overseas_detail/id=1221

・香港をめぐる米中の駆け引き-米国香港自治法と香港国家安全法-
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=1219

・【世界の統計局】インド
https://gmc.nikkei-r.co.jp/stat_area/?search_ext_col_01=01&topics_ext_options_search=1#area246

水洗 満美

インド・ニューデリー(在住歴13年)

不動産仲介やイベント運営など日本人サポート業務を主に行う

 
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