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インド人の時間感覚との付き合い方(前編)

水洗 満美

インド・ニューデリー(在住歴13年)

プロフィール詳細

アジア・オセアニア|インド|2021年03月25日

インド人は時間を守らないのか?

 「インド人は時間を守らない」。これは、北インドに位置する首都デリーおよびその近郊都市グルガオンにおいて、日本人駐在員が頻繁に口にする言葉のひとつである。具体的には、「業者が遅刻する」「自社担当が客先に遅刻する」「他社からの納品が遅延する」「自社の担当の業務進捗が遅延する」といったものがある。

デリーでお決まりの渋滞

デリーでお決まりの渋滞

多様性には注意が必要

運転手が車を回してくるのを待つ人たち(デリー)

運転手が車を回してくるのを待つ人たち(デリー)

 本件を論じる前に、断っておくべきことがある。

 インドの多様性は他国と比べても大きいと言われる。インド人でなく、インド在住の日本人でも、「インド人は時間を守らない」というステレオタイプな見方を否定する人は一定数おり、そのような話題になったときに「弊社のインド人たちは時間を守りますよ」と反論する日本人もいる。そして、時間を守るインド人が存在することは疑いようのない事実である。

 一方、「インド人は時間を守らない」という言説に、大筋で同意するインド人もいる。Q&Aサイト「QUORA」において「インドの人々はなぜ約束の時間に遅れるのですか」といった主旨の質問を無作為に9問抽出したところ、合計で24名のインド人の回答が収集できた。
 その24名中19名が「(例外は存在するが、)インド人は一般に時間を守らない傾向にある」ということを当然の大前提として回答していた。残り5名のうち2名は「インド人を一般化するな。個人差だ」と言いつつ、「私自身はいつも約束に遅れる」が1名、「会議に遅刻するのはインドでも許されない。会議なら15分以上、パーティーなら30分以上で遅刻だ」が1名。どうも微妙な回答だ。
 また、別の1名は「多くの人は時間の大切さに気づいていないが、インドでも民間企業では会議への遅刻は許容されない」と回答。時間は守るべきだが実際はそうしない人が多い、というようにも読める。残りの2名から、立ち位置が不明な1名を除くと、「インド人は一般に時間を守らない傾向にある」ことを明確に否定したのは、「親や地域からちゃんとした教育を受けてこなかった人が時間を守らないというだけで、それは少数派だ」と回答した1名のみであった。

 本稿ではあえて、「インド人は(国際比較で)時間を守らない傾向にある」という、いささかステレオタイプかもしれない仮説を話の前提とすることをお許し願いたい。

時間感覚に「直線状」と「フレキシブル」の2種類

 INSEADビジネススクールの教授Erin Meyer氏は、計画の遂行に関する時間感覚には「直線状の時間感覚」と「フレキシブルな時間感覚」があると仮定する。

 「直線状の時間感覚」… 物事には締め切り時間が設定されており、予定は予定通りに進む。スイス、ドイツ、日本、スウェーデンなど。
「フレキシブルな時間感覚」… 不測の事態が起こることは当然の前提である。ナイジェリア、サウジアラビア、ケニア、そして、インドが挙げられている。

 Erin Meyer氏は「フレキシブルな時間感覚」の国としてナイジェリアを例にとり、「人の手で農作業をする場合、作業開始が7:00か7:32かというのはさほど問題にならない」「洪水など自然環境に応じて作業を変更していける柔軟性が必要となる」と述べている。
では、インドではどうだろう。

「やむを得ぬ理由」の数々

デリーからグルガオンへ道中を急ぐ車

デリーからグルガオンへ道中を急ぐ車

 インドのニュースサイト「BINGEDAILY」の記事や、前述のQ&Aサイト「QUORA」におけるインド人の回答によると、
・交通渋滞の程度について予測がつかないため
・タクシーアプリ「Uber」の運転手が乗車拒否したり道に迷ったりするため
・自宅で予期せぬ出来事が起こることがあるため
といった、遅刻するに至る「やむを得ぬ理由」が挙げられている。

 これらのトラブルが日本では想像できないくらい頻繁に起こるのは確かだ。
しかし、これらは本当に遅刻や業務遅延を説明しうる「やむを得ぬ理由」であろうか。
 日本人駐在員はこうこぼす。「急な法律改正ですぐにやらないと自分の委託報酬も得られなくなる! なんていうときは驚異の速さでやるんですよ」
 また、インド人も苦笑しながら言う。「自分が飛行機に乗るときは、はやばやと空港に到着できるわけですから」
 では、なぜ遅れるのだろう。何か文化的・習慣的な理由があるのだろうか。

 これには、インド人も一定の回答を出せていないようだ。筆者は「トラブルが頻繁に起こる土地柄ゆえに、よほどのことでなければ未来予測をしない習慣が身についているのかもしれない」と考えている。「個々の効率性を下げることにより、十数億の国民に仕事が行き渡る仕組みだ」という、大きな切り口で理解しようとする人もいる。

遅延することを伝えてくれない

 しかし、私たち日本人にとって問題なのは、到着が遅れる、あるいは進捗が遅れているということを「率直に伝えてもらえない」ということだ。

 筆者はデリーで不動産業を営んでいるが、日本人の顧客に物件の内覧をしてもらっているとき、インド人の同僚の携帯電話が鳴ることがある。私は関与していないインド人顧客からの「約束の時間は過ぎたが、まだか」という電話のようだ。インド人同僚は平然と「向かっているところです。ほんの5分ほど待ってもらえれば到着します」と答え、和やかな雰囲気で通話を終える。
 ちなみに、このインド人同僚がその顧客が待つ場所に5分以内に到着するためには、今すぐ現在の仕事を中断し、ジェット機に飛び乗る必要がある。しかし彼は現在の仕事は続行するし、ジェット機も飛んでこない。30分後に、しびれを切らした顧客から電話がかかってきたら、そのときにまた別の言い訳をするのだ。

 率直に伝えてもらえないのは、なぜなのであろうか。また、対処法はあるのだろうか。(後編に続く)

出典

・From Switzerland to Nigeria, here are the most and least punctual countries
https://www.businessinsider.com/here-are-the-most-and-least-punctual-countries-2015-2

・These 8 Scales Reveal Everything You Should Know About Different Cultures
https://www.businessinsider.com/the-culture-map-8-scales-for-work-2015-1

・It's Frustrating How Bad Indians Are At Time Keeping
https://www.bingedaily.in/article/it-s-frustrating-how-bad-indians-are-at-time-keeping

・Why are people in India always late for their appointments?
https://www.quora.com/Why-are-people-in-India-always-late-for-their-appointments

関連ページ

・デリー、個人宅の料理の宅配が静かなブーム
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/overseas_detail/id=1208

・香港をめぐる米中の駆け引き-米国香港自治法と香港国家安全法-
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=1219

・ロンドンV&A博物館で、欧州最大規模の着物展
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/overseas_detail/id=1218

・【世界の統計局】インド
https://gmc.nikkei-r.co.jp/stat_area/?search_ext_col_01=01&topics_ext_options_search=1#area246

水洗 満美

インド・ニューデリー(在住歴13年)

不動産仲介やイベント運営など日本人サポート業務を主に行う

 
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