トップ > プログラム > 世界の街角ライブラリー > ミャンマー観光の新スポット、西部チン州に空港がオープン
「ザ・グローバルニューライト・オブ・ミャンマー」は政府系新聞のため、政府批判の類を扱う記事や扇情的な娯楽記事に紙面を割くことはなく、農作物の収穫量や漁獲高、貿易収支、進行中の都市計画などが記事の中心となっている。面白いのは、毎日読んでいると、その時その時に政府が国民に広報したいことが何なのかが読み取れることだ。このところ目につくのは、チン州の開発計画を扱う記事だ。

チン族の民家。水牛などたくさんの動物の頭蓋骨を入り口に飾ってある
政府が力を入れる少数民族居住エリア
ミャンマーは135もの民族が暮らす多民族国家だ。第二次世界大戦後の独立時から、民族問題はいつも政治の中心にあった。民主化後は民族融和を実現する目的もあり、「政府はこんなに少数民族が住むエリアの開発に力を入れていますよ」ということを強調する記事が多くなっている。2020年は11月に総選挙があったこともあって、その度合いが強かった。チン州についての記事の、当該エリアに住むチン族へのアピールの意味もあったかもしれない。
チン州はミャンマー西部のインド国境に接するエリアに位置する。ヤンゴンから遠く離れた山深いエリアのため開発が行きとどかず、空港や道路があまり整備されてこなかった。ミャンマー全土で最も秘境に近いといえる。
そのチン州のファラムで開港を控えているのがスルブン空港だ。10月27日にテスト走行を行ったと政府は発表している。海抜1828mの山頂に、約28.5億円をかけて造成した滑走路は約1.8km。ミャンマーの国内線で一般的な、客席数72席のATR72-500機などが発着可能だという。これにより、国内はもとより海外からの観光客も呼び込むことを狙っている。
独特の文化と希少な自然資源
チン州はアクセスの悪さから、これまで観光客が訪れるのが非常に困難だったが、実は多くの観光資源を擁している。
まず挙げられるのは、チン族の文化そのもの。これまでに屠った動物の頭蓋骨を戸口にずらりと並べる家屋や、ミャンマー全土で人気が高い手織り物、珍しい鼻笛、顔一面に細かい入れ墨を入れた女性たちなどで知られる。自然も豊富で、山茶花が咲き誇る3000m級のビクトリア山を筆頭に登山やトレッキングを楽しめる山々、貴重な植物や野鳥、昆虫が豊富な国立公園などがある。
中でも人気が高いのは、ハート型をしていることで有名なリー湖だ。標高900mに位置し、広さは3.4km²。伝説によれば、継母の謀略で父親によって殺されそうになった娘を精霊がリー湖に変えて助けたという。チン族の人びとの魂が天国に向かうとき、必ず魂はこの湖を通るのだそうだ。リー湖はインドでもよく知られており、インド人観光客も期待できそうだ。
ミャンマーは眠れる観光立国
近代化に後れを取ったミャンマーには、豊富な観光資源を持ちながらも、アクセスの悪さや民族紛争が原因で簡単には到達できないエリアが多い。言い換えれば、隠れた観光資源がまだまだある、眠れる観光立国といえる。民族融和を図り、観光立国を目指すミャンマー政府としては、さらに開発に力を入れるだろう。今後の展開を期待したい。
※写真は執筆者が独自に撮影、または所有しているものです。記事の内容は執筆者の見解に基づくものです。
出典
・Hilly region of Chin nationals beginning to brighten from darkness
https://www.gnlm.com.mm/hilly-region-chin-nationals-beginning-brighten-darkness/
・Chin State's first airport commences test run
https://www.mmtimes.com/news/chin-states-first-airport-commences-test-run.html
関連ページ
・ミャンマー、消えゆく“町の貸本屋”
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https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/overseas_detail/id=1152
・【世界の統計局】
https://gmc.nikkei-r.co.jp/stat_area/?search_ext_col_01=01&topics_ext_options_search=1#area294

板坂 真季
ミャンマー・ヤンゴン(在住歴5年)
ミャンマー在住6年目の編集・ライター&取材コーディネーター。著書に『現地在住日本人ライターが案内するはじめてのミャンマー』(徳間書店)など。