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ミャンマー、消えゆく“町の貸本屋”

板坂 真季

ミャンマー・ヤンゴン(在住歴5年)

プロフィール詳細

アジア・オセアニア|ミャンマー|2020年09月23日

 ミャンマーに初めてやってきた2008年。街のあちこちに貸本屋があった。間口1間ほどの小さな店に、ざらざらした紙のページの束を糸で繕い、手描きの背表紙をつけた、いかにも年季の入った薄い冊子が積み重ねられている光景をよく見かけた。その時はただ、「紙やインクを輸入に頼っていて、印刷物が高価なのだろう」くらいの感想だった。

検閲制度がもたらした貸本文化

 2014年に本格的に移住してきて最初に住んだのは、ヤンゴンの5階建ての古びた建物が何棟も並ぶローカル団地だったが、数棟に1軒は貸本店があった。挿絵から察するに、ほとんどは冒険活劇か恋愛小説、そして漫画のようだった。
 実はミャンマーでは、厳しい検閲を課してきた軍事政権のもとで新たに出版物を出しにくい状態が長く続いていた。その上、情報が行きわたるのを嫌った政府によって、庶民はインターネットから遠ざけられていたため、娯楽の種類が限定的だった。こうした事情が、貸本店の盛況をもたらした、と考えられていた。

カチン州プータオの貸本店。地方にはまだこうした店が残っている

カチン州プータオの貸本店。地方にはまだこうした店が残っている

ネット普及で娯楽が多様化、独自路線で生き残る貸本店も

 しかし民主化が進み、2012年には検閲が廃止。2014年には海外の携帯電話会社にミャンマー参入を認めたことと、中古スマートフォンの国内市場への流入で、インターネット文化が一気に普及した。
 これにより、数百もの本の内容をデータ化してメモリースティックに詰め込み、2万~3万チャット(約1600~2400円)ほどで販売するといった違法行為が横行するようになる。さらに影響が大きかったのは、娯楽の主役が、インターネット上で提供される動画やゲーム、SNSになったことだ。こうして、急速に貸本店は姿を消していった。

 そんな中、たびたびメディアに紹介される“生き残った”貸本店もある。住宅街の一角にある「ティンポー」は2004年のオープン。当初700冊だった蔵書は、今や2万冊を超える。本好きのオーナー夫妻が隣人や知人に自分の蔵書を貸していたのが、商売へと発展していったのだそうだ。
 消えていったあまたの貸本店との大きな違いは、蔵書内容にある。手軽な読み物はほとんどなく、本格小説の大作や人気作、図版の美しい専門書など、オーナーの趣味を色濃く反映したラインナップで、根強いファンが遠くから通ってきている。貸本店というよりも、読書クラブに近いかもしれない。
 本を借りる際はデポジットとして本の定価を払い、1週間後の返却時に定価の1割相当のレンタル料を払う仕組みだ。ほとんどの本が、200~500チャット(約20~40円)ほどで、1週間借りることができる。

ブックカフェは増加傾向

 インターネットの普及とともに、消え去るかに思われたミャンマーの読書風景だが、ここ1、2年でブックカフェが増えてきている。客層は若者が多いようだ。ひと通りネット娯楽を楽しんだ若者の一部が読書へ回帰してきたのか。それとも、インスタ映えするスポットとしての人気なのか。結論を出すのは、まだ少し早そうだ。

※写真は執筆者が独自に撮影、または所有しているものです。記事の内容は執筆者の見解に基づくものです。

出典

・Htin paw, the last surviving rental book store Sanchaung?
https://www.mmtimes.com/news/htin-paw-last-surviving-rental-book-store-sanchaung.html

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板坂 真季

ミャンマー・ヤンゴン(在住歴5年)

ミャンマー在住6年目の編集・ライター&取材コーディネーター。著書に『現地在住日本人ライターが案内するはじめてのミャンマー』(徳間書店)など。

 
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