トップ  >   プログラム  >   世界の街角ライブラリー  >   変わるカンボジアの農業、富裕層が参入

プログラム|世界の街角ライブラリー

変わるカンボジアの農業、富裕層が参入

多賀 シモン

カンボジア(在住歴7年)

プロフィール詳細

アジア・オセアニア|カンボジア|2019年09月20日

 12世紀、世界最高水準の石造建築として名高い石造建築アンコールワットを建造したクメール人。この時代になぜカンボジアはこれほどまでに隆盛したのだろうか。この問いの答えはいくつかあるが、最も大きな要因は農業の成功だろう。広大な平地とそこを流れる大河メコン、そして大平原の真ん中にメコンの水を湛えたトンレサップ湖がある。湖の水は雨期になると氾濫し、平地をのみ込んで広がった。クメール人はこの洪水を利用して稲作を行い、多くの民を擁する大国へと成長した。まさにこの神が作った自然の灌漑が、カンボジアという国の礎となったわけである。

稲の緑が美しいカンボジア農村の風景

稲の緑が美しいカンボジア農村の風景

農業人口減少の中、都市住民が就農

 時は流れ、20世紀。1970~80年代に起きた内戦の果てに、東南アジア最貧国の1つとなったカンボジアでは農業就業者は1993年に総人口(987万人)の80%(790万人)を占めていた。それが21世紀に入ると、多くの国民が工業やサービス業の従事者に転じたため、農業従事者は最新統計(2017年)では37%(総人口1600万人、農業人口592万人)にまで減少している。多くの国民が工業やサービス業の従事者になった。
 そうした中、最近耳にするのが、都市住民が就農する話である。就農のパターンは大きく2つに分けられる。もともと地方農村から都市部に出てきた労働者が、都市生活に疲れて田舎に戻るケース。そして、今回取り上げる都市富裕層が農村で立ち上げた農業ベンチャーに就職するケースである。

元難民が農業ベンチャーに挑戦

農園に訪れてマンゴーの木の間に植えたカボチャの生育を見るビチェイ氏

農園に訪れてマンゴーの木の間に植えたカボチャの生育を見るビチェイ氏

 この実例としてまずビチェイ氏を紹介したい。同氏は1950年代後半にプノンペンの比較的裕福な家庭に生まれたが、ポルポト時代に強制退去に遭い難民となった。その後1980年代から20年間日本で亡命生活を送り、プレス工や機械工として働いて蓄財。2000年ごろカンボジアへ戻り不動産投資で一財を成した。当初は都市部の土地を転がしていたが、みるみるうちに地価が上がり、投資は地方農村へと移っていった。
 自分が裕福になる中、彼がカンボジアの大地に感じたのは自分の中に流れる「農耕民族クメール」の血であったという。自分の土から野菜を、穀物を、果実を実らせたいという衝動に駆られ、いつしか地元の人たちを雇用して投資先の土地を整地し、隣国タイから国内でまだあまり栽培されていないロイヤルマンゴーの苗木を買い付けて果樹園を作り始めた。ビチェイ氏が栽培しているロイヤルマンゴーは流通量が少なく、1キロあたり1.25~1.5米ドル(一般的なペリカンマンゴーの国内相場は同0.45~0.75米ドル)という高値で取り引きされ、最初は十数ヘクタールだったマンゴー農園の規模は100ヘクタールを超える一大農園へと成長していった。

タイから購入された植物の苗木

タイから購入された植物の苗木

 現在はマンゴー以外にもジャックフルーツ、釈迦頭(バンレイシ)、筍、デーツ、ココヤシ、ニームなど、もともとカンボジアで栽培されている植物でありながら、タイでより生産性や商品価値の優れた品種に改良された植物の苗を導入しており、作付面積は国内各所の合計で200ヘクタールを超えたという。日本やタイの農業技術を学び、地元の人たちと共に実験しながら作物を作ることに、非常に強い喜びを感じていると語った。

スーパーも自社農園を運営

 一方、アンコール遺跡群への観光拠点として知られるシェムリアップで3店舗を展開するスーパー「アンコールマーケット」も、自社農園を作るためにクーレン山の麓に100ヘクタールの農地を購入し、オレンジやグァバ、ロンガン、ドリアンなどの苗木をこちらもタイから輸入して栽培を始めている。
 オーナーであるペン氏は取材に対し次のように意気込みを語った。「カンボジアはこれまで農業インフラや生産技術が未発達で、食品は隣国からの輸入に頼り、店でもそういうものを売ってきた。しかし、隣国からくる食品はあまり安全とは言えないものも多く、購入を控えている人も多い。そんな中、国内の農家で生産されている有機野菜は高くてもよく売れている。今後は食品を提供する立場として農業を学び、自社農園で生産した作物を店頭に出してお客さんに美味しく消費してもらいたい」。カンボジアの農業は変化の時を迎えている。

カンボジア産ドリアン。タイやベトナムから入ってくるものよりも美味しいと評判で高値で取り引きされる

カンボジア産ドリアン。タイやベトナムから入ってくるものよりも美味しいと評判で高値で取り引きされる

出典

・Agriculture and fishing
https://opendevelopmentcambodia.net/topics/agriculture-and-fishing/

・Cambodia - Agricultural Sector
https://www.export.gov/article?id=Cambodia-Agricultural-Sector

・Cambodia Data
https://data.worldbank.org/country/cambodia?view=chart

・【カンボジア】急成⻑を遂げる電⼦決済アプリ「Pi Pay」の今とこれから
https://roboteer-tokyo.com/archives/13841

関連ページ

・カンボジアで急速に広がる電子決済
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/overseas_detail/id=1099

・カンボジアの銀行金利で感じる日本経済の病的状況
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/overseas_detail/id=1081

・デジタル満喫、台北のショッピングモール
https://gmc.nikkei-r.co.jp/research_detail/id=1092

・「インド」らしくない都市バンガロール
https://gmc.nikkei-r.co.jp/research_detail/id=1028

・今が旬、果物の女王マンゴスチン
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/overseas_detail/id=1056

多賀 シモン

カンボジア(在住歴7年)

カンボジア発の季刊カルチャー誌「クロマーマガジン」編集長

 
PAGETOP