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開発優先、消えるヤンゴンの歴史的建造物

板坂 真季

ミャンマー・ヤンゴン(在住歴5年)

プロフィール詳細

アジア・オセアニア|ミャンマー|2018年11月06日

 建築好き以外にはあまり知られていないが、ヤンゴンは世界でもずば抜けてコロニアル様式の建物を残す街だ。ヤンゴンの歴史的建造物を保護する目的で設立されたヤンゴン・ヘリテージ・トラスト(Yangon Heritage Trust/YHT)によれば、ダウンタウンを含む9つの地区だけで6000近くの歴史的建造物が残っているという。しかし、この「コロニアル建築の宝庫」にも変化の波が押し寄せつつある。

軍政下、残ったコロニアル風街並み

 ミャンマーはイギリス植民地時代、ガーデン都市構想のもとに殖民政府が都市計画を立てて造成した街で、デザインやインフラ設備において、当時としては域内最高水準を誇っていた。その後、軍事政権のもとでの経済停滞の結果、図らずも当時の街並みが取り壊されることなく残ってきた。
 しかしここ数年の民主化が急速な経済成長をもたらすと、建て替えや改修が進んでしまった。中でも、屋根の縁のレース装飾が美しい木造建築は次々と姿を消している。

日本大使館近くにあったブリティッシュコロニアル様式の木造家屋

日本大使館近くにあったブリティッシュコロニアル様式の木造家屋

 これは日本大使館近くの一等地にあった家屋で、長く放置されている様子からいずれ取り壊されることを危惧していたが、2016年には土台を残すのみとなった。

物議かもす大規模開発、中国企業が関与

 ここ数カ月間、ヤンゴンで高級住宅街が広がるバハン地区での開発計画「ニューワールドプロジェクト」が物議をかもしている。緑が覆う丘の半分ほどを占める軍所有の14エーカーのホテル跡地に、オフィスやマンション、ホテルなどが入った高層ビルを建てようという計画だ。
 しかし、問題が噴出。当初の発表では中国企業と地場の大手建設会社ゼイガバー社の共同事業となっていたが、合弁の許可を当局から取っていなかったことが判明した。また、建設予定地に隣接して同エリア一帯の水源となっている貯水槽があり、工事で広範囲にわたり樹木を伐り払ってしまったため地滑りが懸念され、水源を破壊する恐れが指摘する声も出ている。さらに、日本人の感覚では信じられないが、工事予定地内にあった歴史的建造物2棟を勝手に取り壊してしまったのだ。

望まれる法的保護

今はなきマウントプレザントの市長邸

今はなきマウントプレザントの市長邸

 実は建設予定地はイギリス植民地時代に「マウントプレザント」と呼ばれ、殖民政府高官たちの邸宅が建ち並んでいた地区で、現在までいくつかの当時の建物が残っていた。そのうちの市長邸と市長のゲストハウスを同プロジェクトは破壊。両建物ともに、2015年にYHTが作成したヤンゴン歴史遺産リストに登録済みだった。

市長邸の内部。プロジェクト開始前はホテル関連施設として使用していた

市長邸の内部。プロジェクト開始前はホテル関連施設として使用していた

 建設会社側は「2008年にサイクロンが襲来した際、破損部分を大きく修繕したので既に歴史遺産ではない」との主張を繰り広げており、現行法にも、YHTによる歴史遺産リストにある建造物の破壊を防ぐ法的根拠はない。
 破壊された市長邸はヤンゴンで最も保存状態のよい木造コロニアル建築のひとつと思っていたので残念でならない。今回のような有名建造物以外にも、ヤンゴンでは次々と歴史的に価値が高い建造物が開発の名のもとにどんどん消えていっている。歴史的建造物保護のための法律の早急な法整備が望まれる。

関連ページ

・缶ビール43円、卵10個39円~ミャンマーの物価情報
https://gmc.nikkei-r.co.jp/research_detail/id=1012

・手巻き煙草や噛み煙草から煙草へ。変わり行くミャンマーの喫煙風景
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/overseas_detail/id=996

・【世界の統計局】ミャンマー
https://gmc.nikkei-r.co.jp/stat_area/?search_ext_col_01=01&topics_ext_options_search=1#area294

・ミャンマーとカンボジアの日系企業の給与事情
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=981

板坂 真季

ミャンマー・ヤンゴン(在住歴5年)

ミャンマー在住6年目の編集・ライター&取材コーディネーター。著書に『現地在住日本人ライターが案内するはじめてのミャンマー』(徳間書店)など。

 
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