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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

タイ現地法人でのコンプライアンスの進め方

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

プロフィール詳細

グローバルマネージメント|アジア・オセアニア|タイ|2018年07月30日

はじめに

 タイでは生活上はもちろん、企業活動における事件が日本以上に多発しています。その中身は、犯罪組織がからんだ窃盗、横流し、破壊活動などもはや犯罪レベルのものもあれば、社員自身による横領、不正流用、業者との癒着といったレベルまでさまざまです。犯罪行為については、セキュリティー専門会社などと連携してシステム面での対策を講じるのが最良の方法です。他方、社員個人の不正・違反行為も、企業の資産を失うだけでなく、社員のモラル低下や企業イメージを損なうことになるので看過できません。本稿では、このタイプのコンプライアンス問題への対策について、ポイントを述べたいと思います。

ルールの文書化と教育による理解促進

 まず、法令や社内ルールなど、社員に守ってもらいたい内容を徹底的に文書化します。企業理念、行動指針といったざっくりとした方針だけで済ませているケースもあるようですが、「禁止事項」という形でより具体的に「やってはいけないこと」を示すのがポイントです。企業理念や行動指針のような、あるべき姿を示してそれに準じて個人が考えて行動することを求めるのは、社員の考え方にバラつきが大きい場合はハードルが高いでしょう。多様性の大きい組織、例えばタイのように、社員の属する社会階層などバックグランドの差が大きく、中途採用者も多い場合は、禁止事項を細かく明記してそれを守ってもらう方が確実です。それも、できるだけ小さい組織単位で禁止事項を設定し、一冊のルールブックにして配るといいでしょう。

 なお、企業理念と行動指針は日本本社と共通化したり、本社が主導して現地の幹部社員とともに策定すると良いでしょう。一方、ルールブックについては、ケーススタディーでできるだけ実践的な内容にします。現地の管理職を中心にして、研修の中で策定するというのも有効な方法です。その作業を通じて、何がOKで何がNGかの共通認識が形成されますし、管理職にコンプライアンス管理者としての責任感を持たせる上で有効です。

経営トップと現地幹部両者によるコミット、メッセージ発信、KPI

 また、経営トップがコンプライアンスに対してコミットしていることを、メール、社内広報、会議体を通じて繰り返し発信する必要があります。もっとも日本人の経営トップによるメッセージが組織上層部にとどまって、末端組織まで浸透しにくいケースも散見されます。部長などの幹部ポストについている現地社員がいる場合は、経営トップと幹部社員の連名で通達などを出す、コンプライアンス推進担当に選任する、などして現地幹部社員を責任体制の中に組み込むことが肝心です。タイでは部下は上司に個人的にコミットする側面が強いので、上司自身の業績目標(KPI)の一つにコンプライアンス向上を入れることで、部下のコンプライアンスに対する意識はぐっと高まります。

通報制度による牽制

 以上に加えて、通報制度を設置することも有効な対策です。上司を通じて解決することが難しいような問題の所在が、通報制度によってわかることも少なくありません。タイのように上下関係へのリスペクトが強く、目上である上司に反対したり問題点を指摘することに強い抵抗感を持つ社員が多い場所では、通報制度のような迂回経路は有効です。しかし同制度の本当のメリットは、その牽制機能にあります。日本国内を対象にした調査ですが、日経リサーチが実施したコンプライアンス実態調査(※)によると、何かあれば社員が通報制度を利用できる環境にある組織の方が、そうでない場合よりも、コンプライアンスが良好に保たれている、という結果が得られています。さらに、経営トップがコンプライアンスを重視する姿勢を強く打ち出せば、通報制度への信頼は堅固なものになり、コンプライアンス違反を抑制する効果が高まることもわかっています。

職場内コミュニケーション、カギを握る上司部下関係、管理職育成

 さて、以上にあげた対策を行ったとしてもなお、不正や違反の発生をゼロにできるとは限りません。現地法人への権限移譲がこの先さらに進めば、顧客との関係や業績達成をとるか、コンプライアンスか、といった選択に現地の社員がせまられる場面が増えるでしょう。大事なのは、そのようなジレンマに陥ったときや、コンプライアンス問題が実際に発生してしまったときも、問題が小さいうちに社内できちんと議論され対策がうたれることです。それには日頃の職場内コミュニケーション、特に上司部下のコミュニケーションが重要です。職場の上司に相談できる組織では、問題が職場にフィードバックされるタイミングが早く、その分、早期に解決できる可能性が高まるからです。紙幅の関係で詳しくは述べませんが、管理職が部下個人に配慮した職務配置や適正な業績目標を設定するといったマネジメント行動が、上司部下のコミュニケーションの量と質に良い影響を与えますので、管理職の育成もコンプライアンスを高める副次的要因になります。

自社のリスク度を診断する方法~上司に相談できるか?は健全性のバロメーター

 最後に、コンプライアンス問題を発生させる土壌があるかどうかを知る簡便な方法として、「問題が生じた際の相談先」を聞くやり方があります。前掲の日経リサーチの調査では、表1のように、上司・部下、同僚同士のコミュニケーションが活発で、議論する場や雰囲気がある職場では、上司を相談相手に選ぶ人が多く、そうでないと、誰にも相談しないか、家族や社外の友人知人に相談する、という調査結果が得られています。現時点で不正や違反が見つからないとしても、「問題が生じた際の相談先」や、あわせて職場内コミュニケーションの状態、管理職のマネジメント行動をモニタリングしておけば、職場風土の悪化をいち早く察知することができるでしょう。

表1. 上司とのコミュニケーション状況と、コンプライアンス問題の相談先

表1. 上司とのコミュニケーション状況と、コンプライアンス問題の相談先

※日経リサーチ・コンプライアンス実態調査:2016年3月日本にて実施、インターネット調査、全国の従業員規模100人以上の民間企業の18-69歳勤務者 43,072人の分析結果

関連ページ

・タイ人社員のマネジメント~気軽に意見を言い合える職場づくり
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=984

・【世界の統計局】タイ
https://gmc.nikkei-r.co.jp/stat_area/?search_ext_col_01=01&topics_ext_options_search=1#area243

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

オフィスグローバルナビゲーター代表として、グローバルビジネスの組織・人に関するコンサルティングを提供。

 
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