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2019年大統領選に向けた動きが活発化してきたインドネシア

川村 晃一

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アカデミック|アジア・オセアニア|インドネシア|2018年04月23日

 2019年大統領選の立候補受付まで4カ月となり、インドネシアの政局も動きがますます活発化してきた。まだ正式に出馬表明をした候補者はいないが、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が二期目を目指して立候補するのはまず間違いない。ジョコウィ陣営の焦点は、共に立候補する副大統領候補を誰にするかという点にすでに移っている。
 一方、ジョコウィが選挙で戦う相手が誰になるかは、まだ確定していない。第三の候補を擁立しようという動きもまだある。本稿では、次期大統領選に向けたインドネシア政局の最新の動きを報告する。

ジョコウィのパートナーは誰になるのか

 2019年4月に予定されている大統領選の立候補受付は、今年の8月に行われる。9月には選挙管理委員会による候補者の資格審査が終わり、早くも選挙戦が始まる予定である。大統領選に出馬するためには、現在の議会で20%以上の議席を有している単独もしくは複数の政党の連合、または前回の選挙で25%以上の得票率を得た政党・政党連合の支持が必要である。無所属の立候補は認められていない。
 現職のジョコウィ大統領は、最新の世論調査でも支持率が70%を超え、圧倒的に有利な立場にある。まだ正式な立候補表明はしていないが、現在の連立政権に参加する7政党のうち、すでに5政党がジョコウィ支持を表明している。その中の3つの小政党(開発統一党、ナスデム党、ハヌラ党)は早々とジョコウィ支持を打ち出し、議会第二党の有力政党であるゴルカル党は、2016年に野党から与党に鞍替えをした時点ですでにジョコウィ再選を支持すると表明していた。このゴルカル党は、2017年12月に当時の党首が汚職疑惑で逮捕されて交代したが、同党のジョコウィ支持の姿勢は変わっていない。この5政党で、議会での議席占有率は52%に達する。
 ジョコウィの出身政党である与党第一党の闘争民主党(PDIP)も、3月に正式にジョコウィを党の大統領候補とすることを決定した。ジョコウィは闘争民主党に所属しているが、党所属議員としての経験はなく、党幹部でもない。党の実権は、同党の前身となる組織をオランダ植民地期に設立した、独立の父スカルノの長女、メガワティ・スカルノプトゥリ元大統領と、その周辺が握っている。前回2014年の大統領選では、党内に有力な党人候補がいなかったため、ジャカルタ州知事として国民的人気のあったジョコウィを自党の候補として擁立したが、党内にはスカルノ家以外の人物が立候補することに反対する声も大きく、同党がジョコウィ擁立を正式決定したのは選挙直前であった。しかし今回は、現職大統領の実績と人気を考えればジョコウィ擁立以外の選択肢はなく、党内から強い反対の声があがることもなく比較的スムーズに党の候補者が決まった。
 ジョコウィ陣営にとって目下の課題は、副大統領候補を誰にするかである。インドネシアの大統領選では、大統領候補と副大統領候補が一組となって立候補し、選挙戦を戦う。現職の副大統領ユスフ・カラは、2009~2014年のスシロ・バンバン・ユドヨノ第一期政権で副大統領をすでに務めており、「正副大統領への就任は2回まで」という憲法の規定があって、立候補の資格がない。そのため、ジョコウィには新しいパートナーが必要だが、複雑な連立方程式の解を見つけるがごとく、実は容易な作業ではない。

前回の選挙の様子

前回の選挙の様子

 パートナーを見つける第一の解き方は、ジョコウィ擁立に参加する政党から副大統領候補を出してもらうというやり方である。しかし、どの政党から候補を出すのかは、各政党のエゴがぶつかり、調整は容易ではない。ジョコウィとしては、どの党からも等距離にいる方が政党間の関係をコントロールしやすいからだ。どの党にも有力な候補者がそもそもいない、という根本的な問題もある。
 そうすると、党派に関係なく、広く政党人以外にも選択肢を広げて候補者を探すことも必要になる。ただしその際も、何を選択の基準とするかが問題になる。そこで、選挙での勝利を最優先に、ジョコウィに対する支持が最も脆弱な「敬虔なイスラーム教徒」の支持が得られる候補者を選ぶ、というのが第二の解決方法である。2017年のジャカルタ州知事選で表面化したイスラーム保守派の政治的影響力の高まりは、ジョコウィとしても等閑視できるものではない。「イスラーム教徒に冷たい」と見なされないように、イスラーム信仰が厚いと認識されている人物や、イスラーム組織からの支持がある人物をパートナーに選ぶことは、ジョコウィの選挙戦略として非常に重要である。
 第三の解き方は、退役軍人から候補者を探すやり方である。民主化後の国軍は、制度的には政治の表舞台からは退いているが、治安・安全保障問題の重要性から政治的影響力はいまだに無視できない。また、現役軍人は選挙権・被選挙権ともに持っていないが、退役軍人や現役軍人の親族からの支持を選挙で得ることは、ジョコウィの戦いを有利にする。
 第四の解き方は、選挙で勝利した後の政権運営を考えて、専門家を起用するという手である。これは、ユドヨノ前大統領が二期目にとった方法である。そのときのユドヨノは、自らが率いる民主主義者党が単独で正副大統領候補を擁立できるだけの議席を持ち、選挙でも圧倒的に有利な立場にいたということもあり、政権担当後の実績作りを考えて経済テクノクラートをパートナーに選んだ。現段階では選挙戦で有利な位置にあるジョコウィも、「歴史に名を残す大統領」となるために、二期目での実績作りを考慮して専門家を選ぶという手もある。しかし、政党、イスラーム組織、国軍といった政治的・社会的支持基盤を持たない専門家を、副大統領という政治職に任命することの政治的リスクの大きさを考慮する必要はある。
 以上のような解き方の巧拙を考えると、第二もしくは第三の解き方が可能性としては高そうである。ただし、現職大統領として有利な立場にあるジョコウィは、焦ってパートナーを決めるつもりはない。側近や前回選挙でも裏方として支えてくれた市民社会組織の意見などを聞きながら、慎重に副大統領候補選びを進めることになりそうだ。

プラボウォは立候補するのか

 ジョコウィの対抗馬となりそうなのは、前回2014年の大統領選でジョコウィと接戦を演じたプラボウォ・スビアントだと思われる。ただし、プラボウォも、まだ正式な出馬は表明していない。自身が創設したグリンドラ党は、党首であるプラボウォが立候補することを求めている。また、保守系イスラーム政党の福祉正義党(PKS)も、公式な支持表明はしていないが、プラボウォ陣営に加わるとみられる。この2政党での議会の議席占有率はかろうじて20%を超える。
 ジャワの王侯貴族の家系に生まれ、父親は閣僚も務めた偉大な経済学者というエリート家庭に育ったプラボウォは、若いときから権力志向が強く、将来大統領になると公言していたという。スハルト独裁時代には、スハルトの娘婿となり、将来を嘱望された陸軍の軍人として頭角を現し、1998年の民主化の際には、混乱に乗じてクーデターで権力を奪取しようとしたといわれている。民主化後に軍を離れた後も権力欲は失われず、2004年の大統領選ではゴルカル党からの立候補の道を探るも、失敗。2009年の大統領選ではメガワティの副大統領候補として立候補したが、ユドヨノに敗れ、2014年にはいよいよ自らが大統領選に立候補するものの、ジョコウィに僅差で敗れた。2019年に68歳になるプラボウォにとって、自らが立候補できる大統領選は今回が最後になるかもしれないということを考えると、立候補の意欲は強いと思われる。実際に、最近は精力的に地方にも足を伸ばし、立候補に向けた機運を盛り上げようとしている。ジョコウィ政権の政策に対する批判的な発言も繰り返しなされている。
 そう考えると、プラボウォは立候補を表明するタイミングを慎重に見計らっている、といえるのだろう。選挙まではまだあと1年あり、公式の選挙戦も半年以上の長丁場である。投票日に盛り上がりの頂点をもっていくために、じっくりと戦略を練っているのかもしれない。一方で、プラボウォには健康不安説が常につきまとっている。また、ジョコウィが大きくリードしている状況で、本当に立候補するのか疑問視する声もある。ペアを組む副大統領候補選びでも、適当な人物があまりいないという現実がある。ジョコウィに対抗するためには、若くフレッシュな人物が必要ということで、2017年10月にジャカルタ州知事に就任したばかりのアニス・バスウェダンを推す声が出ている。プラボウォにとって、選挙までの道のりはそう容易なものではない。

各種世論調査におけるジョコウィとプラボウォの得票可能性

各種世論調査におけるジョコウィとプラボウォの得票可能性

第三の候補の出現はあるか

 いまだ態度を決めていない3つの政党はどうするのだろうか。鍵となるのは、議会第四党で前大統領のユドヨノが率いる民主主義者党である。ユドヨノは、長男のアグス・ハリムルティ・ユドヨノを政治家としてデビューさせたいと思っている。彼は、国軍士官候補として陸軍でキャリアを積んでいたが、2017年2月のジャカルタ州知事選に立候補するために軍を退官し、政治家への道を歩み始めた。州知事選では他の候補に大きく差をつけられて敗れたが、まだ30歳代という若さが売りである。
 しかし、州知事選に参加したことで一定の知名度を得ることに成功したとはいえ、同時に政治経験のなさも露呈したため、国民的な人気があるとはいえない。民主主義者党は単独では大統領選の候補者を擁立できないため他党との協力が必須であるが、わざわざ「負け馬」に乗る政党はないだろう。そう考えると、第三の候補者が出現する可能性はきわめて低いと考えざるをえない。
 そうすると、8月の大統領選の立候補者受付までに注目すべきポイントは、プラボウォがいつ出馬宣言をするのか、そしてジョコウィとプラボウォの両候補が誰を副大統領候補に選ぶのかという点になる。いつも何が起こるか分からないインドネシアの政局だけに、目が離せない日々が続く。

川村 晃一

日本貿易振興機構アジア経済研究所 地域研究センター東南アジアI研究グループ長
主な著書に、『教養の東南アジア現代史』(編著、ミネルヴァ書房、2020年)、『新興民主主義大国インドネシア-ユドヨノ政権の10年とジョコウィ大統領の登場-』(編著、アジア経済研究所、2015年)、『東南アジアの比較政治学』(共著、アジア経済研究所、2012年)など。

 
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