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海外拠点で働く人のためのリーダーシップ再入門(3)~駐在員がリーダーとしてパフォーマンスを発揮するための支援~

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

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グローバルマネージメント|グローバル|グローバル|2017年06月05日

 前稿でも述べたが、海外では日本でのやり方とは異なるマネジメント方法が求められる。特に経営幹部として赴任した場合は、目標達成に向けて組織全体をリードする高い次元でのリーダーシップの発揮が必要だ。
 しかし駐在員の多くが本社機構の中では中間管理職であり、経営幹部としての本格的なリーダーシップの経験が少ないままに「一皮むける経験をしてこい」と送り出されるケースが意外と多い。駐在員が試行錯誤を経て一皮むけるまでの現地組織の停滞や混乱を最小化し、着任後速やかにリーダーシップを発揮できるよう、会社としてどのような支援ができるかを考える。

赴任前の準備

 一般的な準備としては、前任者や所属部署による赴任先の人事労務・法務・会計・税務などについてのブリーフィングや人事部による語学研修があるが、次のような施策も重要と考える。

1.リーダーシップ研修
 前稿で説明したように、情報共有、会議運営、部下への配慮など日常的なスタイルはもとより、ビジョン発信、目標設定、意思決定、動機付け、権限移譲に関して自分のリーダーシップのスタイルを調整する必要が出てくる。単に異文化の理解にとどまらず、組織をどう率いていくかを、リーダーシップ研修を通じて考えるのである。赴任先を想定したケースを用いるなどすれば、着任後のリアリティショックにより的確に対処することができる。技術部の課長を生産拠点の経営幹部として赴任させることの多いある企業では、赴任前に技術者に個別にリーダーシップ研修を行い、組織や人のマネジメントについての再教育を行っている。

2.従業員意識調査等の分析
 近年では、海外拠点にも従業員意識調査やコンプライアンス調査を行い、組織の状態を定点観測されている企業も多いだろう。こうした調査の結果は、組織の課題や現地社員の意識を理解する上で貴重な情報源となる。ある企業では、駐在員の異文化理解やパワーハラスメントのない融和的風土については評価が高いものの、情報共有と意思決定の透明性に対する現地社員の不満が強いことがわかった。また、経営の現地化を進めるために採用したホワイトカラー層でキャリアの先行きに不安をもち、転職リスクが高まっていることがわかった。こうしたことは駐在員自身が気付いていないことも多い。前任者からの申し送り情報と客観的なデータをつきあわせて、赴任後に何をすべきか、あたりをつけておきたい。

赴任中のサポート

 一旦着任すると、本社からのサポートは実質、業務に関するものだけになりがちだが、次のような施策も駐在員の実務や成長を助けるものとして有効だ。

1.コーチをつける
 赴任地での困難な経験から効率よく学ぶために、自己観察は欠かせない。現地社員の視点からのコーチ、経営者の視点からのコーチ、社外の視点からのコーチ、の3タイプを公式または非公式に用意する。現地社員は上司である駐在員に率直なコメントをしづらい場合もあるだろうが、勤続の長い労使関係担当者や社内で人望のある社員が良いコーチとなる。経営者の視点は前任者や他社の経営幹部との交流を通じて得ることができる。可能なら日系企業にとどまらず広く交流しアドバイスを得たい。社外の視点としては専門のコーチや、現地の人の職業観や日系企業に詳しいヘッドハンティング会社の現地コンサルタントが有効なコーチとなる。ある企業では現地の次世代リーダー育成プログラムの一つとしてコーチングを導入したところ、上司側の問題についても指摘があり、駐在員にとっての気付きをもたらすという副次効果があった。

2.語学サポート
 語学は必要にならないと身に付きにくく、かつ時間を要するので、現地で習得できるようサポートする。いちど着任すると業務多忙で語学教育に時間が割けなかったり、ブロークン英語とボディーランゲージでなんとかやれている気になってくるが、言葉の問題を軽く考えてはいけない。中途半端な語学力では情報や意図が正確に伝わらず、オープンに議論するための基盤が損なわれるからだ。質問しにくい風土があればなおさらである。暗黙の了解が多く言葉を省略して話す、提案なのか依頼なのか指示なのかが不明瞭、といった自分の癖に気付くことが必要だ。議論をする際の感情の表し方にも気を付ける必要がある。また、経営幹部として、単なる業務連絡ではなく受け取る側の気持ちを鼓舞するような言葉でメッセージを発信したい。身近な社員だけでなく組織の末端にまでリーダーとしての意思を伝えるには、言語を介するほかないのである。ハードルが高いと思われるだろうが、当面の間は通訳を使うことで補えばよい。通訳はできればプロを使いたい。

長期的な準備

 間接的ではあるが、次のような長期的な施策もリーダーシップの発揮には重要だ。

1.キャリア初期の海外赴任
 キャリアの初期段階(20代)で海外拠点に配属し、現地社員のもとで部下として働く経験をさせる。買収した会社の拠点であればなおよい。顔見知りの多い海外拠点に配属されると、つい日本人駐在員の仲間内に安住して現地社員との接触が疎かになったり、現地社員である上司を最初から批判的に見てしまいがちだ。そこで、ある企業では入社オリエンテーション後すぐに海外拠点に1年間駐在させたり、別の例では「グローバルモビリティー」と呼ぶ将来の海外拠点統括候補者を20代、30代のときに数年単位で拠点間を異動させながら育てる会社もある。

2.ガバナンス体制
 リーダーシップを発揮しづらい外的要因としてガバナンス体制の問題がある。ガバナンス体制がしっかりしているところでは、思い切って駐在員に経営を委ねることができる。日本企業は意思決定が不透明、遅いと現地社員から指摘されることがあるが、これは責任権限を明確に規定せず比較的なんでも本社に伺いを立てる習慣が一因となっていることがある。責任権限の規定や本社による評価・監督の方法など、ガバナンスのための仕組みやルールをきちっと構築しておく必要がある。

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

オフィスグローバルナビゲーター代表として、グローバルビジネスの組織・人に関するコンサルティングを提供。

 
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