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インドネシア ジョコ・ウィドド政権2年間の成果と課題

川村 晃一

プロフィール詳細

アカデミック|アジア・オセアニア|インドネシア|2017年01月10日

 2016年10月で政権発足2年を迎えたインドネシアのジョコ・ウィドド(通称、ジョコウィ)大統領は、民間機関の世論調査で69%の支持率を記録するなど、国民の強い人気に支えられている。2014年の大統領選挙で、これまでのエリート出身大統領とは一線を画す庶民出身の候補者として得た有権者の評価は、いまだに継続している。この高い支持率の背景には何があるのだろうか。今回は、ジョコウィ政権の2年間を振り返りながら、その成果と今後の課題を考えてみる。

政治的安定を背景に高い支持率を維持

 有力新聞社コンパスが実施している世論調査は、ジョコウィ大統領の政権運営について分野別の満足度を聞いている。その結果は、この2年間のジョコウィ政権の成果を示していると言っていい。多数の国民が満足していると答えたのが政治(回答者の73%)と社会福祉(同69%)の分野であるのに対して、その割合が少ないのが法の確立(同51%)と経済(同51%)の分野である。

 政治の分野で満足度が高いのは、政局の安定の反映である。ジョコウィ政権は、政権基盤が非常に弱い状態からスタートした。ジョコウィの出身政党、闘争民主党(PDIP)は議会第1党でありながら過半数にはほど遠い20%の議席しか持っていない。その他に4政党が政権に参加したが、与党連合の合計議席数も過半数には届かなかった(44%)。大統領制の国で、政府と議会の与野党が逆転する「分割政府」の状態は政治的停滞につながりやすいことが知られているが、ジョコウィ大統領も,政権発足直後から議会による激しい攻撃にさらされ、思うような政権運営を行えなかった。しかも、政権を支えるべき与党・闘争民主党とジョコウィ大統領の関係も、政府高官人事をめぐる対立から、まるで野党との関係かと見まがうほど悪化した。
 そこで、ジョコウィ大統領は、政権基盤を強化することをまずは目指した。閣僚や政府高官ポストと引き替えに野党陣営から2政党を与党陣営に引き込むことに成功し、その結果、与党連合の議席は国会の69%を占めるまでに拡大した。とくに、議会第2党として野党による政権攻撃を主導してきたゴルカル党を寝返りさせることに成功したことは、政権基盤の安定に大きく寄与した。
 また、ジョコウィ大統領は、内閣官房長官に闘争民主党の元幹事長を任命し、与党との意思疎通を円滑にすることを努めた。一方では、側近を次々と内閣の主要ポストや大統領補佐官に任命し、大統領が指導力を発揮しやすいような環境整備を進めた。
 こうしてジョコウィ大統領は、2016年の8月までには、政局の安定を図ることに成功したのである。その一方で、既存の政治エリートに取り込まれたという印象を与えないように、彼が地方首長だった時から続けている現場視察(インドネシア語では「ブルスカン」=未知の場所に入るの意)を、大統領に就任して以降も積極的に続けている。庶民派大統領として、自分の目で現場を見、自分の耳で庶民の声を聞くという政治スタイルを、ジョコウィは貫いているのである。

経済の停滞からは脱却できず

ジャカルタ市内。交通渋滞解消のために地下鉄工事が進められている。

ジャカルタ市内。交通渋滞解消のために地下鉄工事が進められている。

 一方で、経済分野の国民の満足度は高くない。スシロ・バンバン・ユドヨノ前政権期には6%前後を安定的に維持してきたインドネシアの経済成長率は、ジョコウィ政権発足後の2015年には4.8%にまで低下してしまった。その背景には、中国経済の減速や資源ブームの終焉といった外的要因が作用したことが大きいのだが、それに適切に対処できなかったジョコウィ政権の責任が国民に問われている。
 ジョコウィ政権の目指す経済政策は、インフラの開発と投資の振興、ならびに産業・貿易構造の高度化を通じて経済成長を実現するとともに、村落、外島(ジャワ島以外の地域)、東部地域といった周辺地域の開発を通じて国土の均衡ある発展と経済格差を是正することである。しかし、いずれも一朝一夕に解決できるものではないし、構造的障壁を取り除くのも容易ではないため、目立った成果は上がっていないのが現状である。
 ジョコウィ政権が最優先課題として取り組んでいるインフラ開発は、外島での道路・鉄道建設や空港・港湾整備などが徐々に進みつつあるが、土地収用や資金調達の難しさといった以前から抱えている問題に悩まされ、必ずしも順調とは言えない。目玉政策のひとつだった3万5000メガワット発電所建設計画も、1万9000メガワットに縮小することが発表された。政府は、インフラ開発に回す予算を増やすため、ガソリンなどに対する補助金の全廃や租税恩赦(Tax Amnesty)法の制定による歳入基盤の拡大といった努力を進めているが、インフラ開発を加速する決定打にはなっていない。
 投資環境整備のための許認可手続きの簡素化や規制緩和策も、ジョコウィ大統領が主導して次々と打ち出されてはいるが、ひとつひとつのインパクトは必ずしも大きくなく、その実効性を疑問視する声もある。ジョコウィ大統領が掲げる「海洋国家構想」も、外国違法漁船の拿捕と爆破というセンセーショナルな側面に注目が集まっているが、水産資源の有効利用や海洋インフラの整備といった取り組みは端緒に着いたばかりである。
 外交面でも、ジョコウィ大統領は、これまでのインドネシア外交のテーゼであった国際協調主義を捨て、二国間の経済外交を積極的に展開することで投資や貿易の促進につなげようとしている。中国の設立したアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加も、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加意向の表明も、国益のためであれば手段は問わないというジョコウィ流外交を反映したものだが、一方では国内産業の保護政策が打ち出されるなど、諸外国政府からはジョコウィ政権の方針に対する困惑が表明されることもある。

急激な変化は難しい

 このようにジョコウィ大統領の経済運営は、赤点ではないが合格点にも達しないという、微妙な評価にならざるをえない。しかし、これもインドネシアという大国では致し方ないとも言える。人口2億5000万人、東西5100キロ、南北1700キロの大国は、大統領の鶴の一声では動かない。民主政治の下で議会の力は強く、多様な利害の調整は必須であるし、多党連立政権ゆえ閣僚や官庁をまとめていくのも容易ではない。地方分権化で強い権限と財源を持つ地方政府を中央政府が力でコントロールすることもできない。大統領が強力なリーダーシップを発揮して国を急速に変化させていくことは、政治制度の面からも、社会構造の面からも困難であるし、おそらく望ましくもない。インドネシアの政治的安定は、さまざまな利害関係を調整しながら漸進的に進められてきた改革の上に成り立っているのである。
 その政治的安定も、常に調整が必要である。連立与党間の協力関係は恒常的なものではなく、政策や利害が一致しなければ連立参加政党はいつでも単独行動をとりうる。また、2019年が近づけば近づくほど、次の大統領・議会同時選挙をにらんだ動きが活発化するだろう。2017年2月のジャカルタ州知事選挙を前に、中国系キリスト教徒の現職候補がイスラームの聖典を侮辱したとしてイスラーム急進派から強く非難されているが、これはインドネシア社会がイスラーム化していることを表した動きというよりも、2019年大統領選挙を見据えた政治的策動と理解した方がいい。今後、宗教や民族といったアイデンティティを悪用した扇動的な動きが強まることはないか、注視していく必要がある。

出典

・Saiful Mujani Research and Consulting, Dua Tahun Pemerintah Jokowi-JK Evaluasi Publik Nasional, Survei Nasional Oktober 2014-Oktober 2016.

・“Survei KOMPAS: Melewati Titik Kritis Pemerintahan,” Kompas, 20 Oktober 2016.

・“Target Rasio Tak Tercapai: Hingga 2019, Tambahan Pasokan Listrik Hanya 19.700 Megawatt,” Kompas, 15 November 2016.

川村 晃一

日本貿易振興機構アジア経済研究所 地域研究センター東南アジアI研究グループ長
主な著書に、『教養の東南アジア現代史』(編著、ミネルヴァ書房、2020年)、『新興民主主義大国インドネシア-ユドヨノ政権の10年とジョコウィ大統領の登場-』(編著、アジア経済研究所、2015年)、『東南アジアの比較政治学』(共著、アジア経済研究所、2012年)など。

 
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