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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

技術革新と人材戦略

佐々木 亮輔

PwCコンサルティング合同会社 組織人事・チェンジマネジメント パートナー

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グローバルマネージメント|グローバル|日本|2016年11月11日

 技術革新が目まぐるしい勢いで進む環境において、最も成功する企業は、古いモデルや思考方法をかたくなに守った企業ではなく、新たな道を開拓した企業だといえます。こうした先進企業は、企業活動の透明性が大幅に向上したデータ主導の環境において重要となるスキルセットや新しい思考方法、そして最新テクノロジーを活用した、より優れたコラボレーションを実現する新たなワークスタイルを模索し始めています。

企業マネジメントにおけるテクノロジー利用の現状

 デジタル時代の経営者は、最新テクノロジーが顧客をはじめとした企業とステークホルダーとの関係に対してどのような影響を及ぼすのかに細心の注意を払っています。言い換えれば、テクノロジーを最大限に活用しない限り、今後ステークホルダーを満足させることはできないと考えています。特に、顧客の複雑で日々進化する要求をもっと深くタイムリーに理解できるようテクノロジーを駆使するようになっています。最近のPwCの調査においても、半数以上のグローバル企業のトップは、顧客が何に価値を見出しているのか理解することを重要な経営テーマとして捉え、その推進力として、データ・アナリティクスや顧客取引情報管理(CRM)システムに対するさらなる期待が高まりつつあります。

 このように企業がステークホルダーや社会の複雑なニーズにこたえようとする時、テクノロジーに強く、イノベーションを起こすことのできる、起業家マインドを持った新しい世代の人材が必要になります。特に順応性が高く、専門性を持った人材が最優先に捉えられています。PwCの調査に回答したCEOの48%が2017年に増員を予定していると回答した一方、72%が鍵となる人材の調達に懸念を抱いています。つまり、先述のようなテクノロジーを駆使するにしても、最終的には人材のスキルが重要であると広く認識されているのです。

 このような課題を感じる一方で、その準備が全く追いついていない現状も明らかになりつつあります。新しいスキルセットを持った人材の獲得が重要であるにも関わらず、その採用や育成の改革に着手を始めている企業は全体のわずか30%にすぎず、テクノロジーを活用した生産性の向上という観点についても、人材マネジメント面でのアナリティクスの活用はほとんどの企業で実施されていません。(グラフ参照)

将来成功するリーダーシップスキル

 技術革新が進み、しかもビジネス環境が変動する時代に必要な人材要件にはどのようなものがあるでしょうか。ますます不安定化する経済状況の下、複数のステークホルダーや異なる価値観が存在し、法規制も様々に異なる環境で事業展開する資質が期待されています。また、データやアナリティクスなどの多くの最新テクノロジーを容易に使いこなせなければなりません。そもそもスキルセットの変化は社員レベルにとどまりません。リーダーは、ますます複雑化する環境に身をおき、社外における国境やセクターをまたいだ協働が標準化しつつあり、その推進をけん引しなければなりません。また、社内でも在宅勤務や短期契約で働くなど労働力はより機動的になりつつあります。そういった意味で、リーダーの、社員をまとめて共通の目標に向けてモチベーションを与えるリーダーシップのエネルギーに、組織の成否が左右されるようになっています。

 将来成功するリーダーシップスキルには、ビジョン提示力、決断力、謙虚さといった従来のリーダーとしての資質も含まれますが、目的意識を育み、内外のステークホルダーと信頼関係を構築し、瞬時に変化に順応し、激しい競争に備え、重大なリスクに対応する、といった多岐にわたる能力が重要性を増しています。インダストリーを超えた協働やテクノロジーベースの提携といった最近のトレンドをも勘案すれば、リーダーがITリテラシーを超えてテクノロジーの将来の可能性を理解する重要性も極めて高くなっています。まさに、変革期に求められるリーダーシップの姿です。企業は、そうしたスキルを備えた将来のリーダーを輩出するしっかりとしたパイプラインを構築する選抜と育成の仕組み作りに注力することが求められます。

自動化した事業環境で人材が果たす役割

 また現場においても、テクノロジーを活用した業務効率の向上や、多様な人材をミックスしてイノベーションを起こす役割が期待されています。職場の自動化を拡大するトレンドは、どの役割が自動化可能で自動化されるべきであるかという戦略的判断から、リスク管理、業績評価および従業員のエンゲージメントに対してテクノロジーがもたらす影響の把握まで、広範に考えられています。最大の課題は恐らく、自動化した事業環境で人材が果たす役割を理解することではないでしょうか。これからの優秀人材には、現場でそのような変革のニーズを把握して、自ら新しいスキルセットに順応する力が求められるようになっています。過去にも、労働力が担ってきた作業の一部が自動化されることはありましたし、産業機械は既に数多くの手作業に代わって役割を果たすようになっています。しかし近年では、高度化した技術や先進的アルゴリズムの出現、人工知能の発達によって、知識に基づく意思決定の役割にも進出する可能性が急速に高まっています。だからといって単純に知識労働がテクノロジーに置き換わるわけではなく、人材に求められる役割はさらにその先の高度化したデザイン力や企画力にあります。つまり、技術革新による代替手段を脅威に感じるよりむしろ、本当の利益は人と技術の協働によりもたらされると考えておくべきで、そんなロードマップを描ける現場のことをよくわかった人材に大きな期待が集まっています。

人材の獲得競争を勝ち抜くために

 人口減少の影響をふまえれば、こうした能力を持った、あるいはポテンシャルのある若手の優秀人材の獲得競争が非常に激しくなることが容易に予想されます。この競争を勝ち抜くためには、将来必要となる人材の要件を早期に明確化して、様々なスキルセットを持った専門家や異なる価値観や就労観をもった社員層を活用する受け皿となる職種や役割を企業が再考・整備する必要があります。現在はある意味、そうした大きな変革へ向けた移行期に位置づけられるため、今から着手するのでも決して遅くはありません。いまこそが動き出す好機なのではないでしょうか。

佐々木 亮輔

PwCコンサルティング合同会社 組織人事・チェンジマネジメント パートナー

過去20年以上にわたり日本企業のグローバル化をテーマとした組織変革コンサルティングに従事。シンガポールとニューヨークでの駐在経験があり、日本だけでなく、海外のベストプラクティスに精通。現在もアジア諸国のタレント変革プロジェクトを多数実施。日本と海外の双方の観点から本社のグローバル化のロードマップを提言している。

 
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