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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

目的別グローバル人事制度

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

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グローバルマネージメント|グローバル|グローバル|2016年03月15日

 日本企業は海外進出先の現地の人々、とりわけ若者やホワイトカラーからの評判が芳しくない。頑張ってもキャリアの先行きがない、評価が不透明、教育機会が少ない、と思われている。ところがここ数年こうしたステレオタイプのコメントを以前ほど聞かなくなってきた。日経リサーチによる『グローバル版組織活性化診断ベンチマーク取得調査』(※)でも、日系企業で働いている人の人事施策関連への満足度は、欧米企業や地元企業で働いている人に比べて低くないという結果が出ているようだ。先行組企業による人事制度の整備や教育投資が実を結び始めているのは吉報だ。他方、人事制度構築にかかる外注コストの大きさから、いまだ、設立当時に本社からもってきたものに増改築を加えてやりくりしているケースも少なくない。本稿では世界共通の人事制度(「グローバル人事制度」)を目的に応じてコンパクトに導入する方法を紹介する。

※日経リサーチ【グローバル版組織活性化診断ベンチマーク取得調査】
2014年12月に日経リサーチがアジア・欧米の11か国で実施した、働きがいとコンプライアンスに関する意識調査。

国際異動インフラとしてのグローバル人事は必要か

 グローバル人事制度は、国境を超えた異動のためのインフラと言われることがある。日本から海外拠点に駐在員を赴任させるだけでなく、海外拠点から日本への逆出向、海外拠点から他の海外拠点への三国間出向を活発に行う場合、各ポジションの業務内容と給与が拠点間で比較できるようになっていれば、異動計画をたてやすいだろう。もっとも現状、逆出向・三国間出向を頻繁に行う日本企業は稀だ。拠点間の連携の必要性が高まり、かつ各拠点にグローバルアサインが可能な人材がいるという状況でなければ、育成のためだけの異動を想定したフルスペックのグローバル人事制度は、正当化されにくいのではないだろうか。グローバル人事制度の導入を検討する場合は、目的を明確にした上で、共通化の対象を絞って制度設計を行うという方法もある。以下に導入目的と制度設計のポイントを述べる。

人員構成・人件費の管理・統制を目的としたグローバル人事制度

 第一の導入目的としてあげられるのは、海外拠点の人員構成・人件費の管理・統制である。職位やグレードと呼ばれる階層の共通化がポイントとなる。どこの国の企業でも、課長や部長といった正職位の他に、副、代理、補佐などさまざまな呼称のポジションが存在するが、整理すればだいたい5~7の階層に落ち着くことが多い。この共通の階層構造があれば、人員構成や組織構造の歪みを把握し管理することができる。例えば自社の知名度が低い国の拠点では、管理職比率が他所よりも高くなっているというケースはないだろうか。これは採用オファー時の職位インフレが起きている可能性を示す。グローバル階層研修の担当者であれば、同じ階層でも拠点間でこれほどまでに年齢や経験に差があるものかと感じたことがあるのではないか。このような現象が見られた場合は、例えば人事考課を実施したタイミングで階層ごとの昇格者数を調整する、人件費の高い上位階層の新規採用や毎年の給与レンジ改定を日本本社の承認事項とするなどで、海外拠点の人員構成・人件費の膨張に一定の歯止めを設けることができる。自前で設立した海外拠点だけでなく、買収によりグループ入りした海外拠点を管理する上でも、最低限、共通の階層構造を導入しておくべきである。

優秀人材の把握と育成にフォーカスしたグローバル人事制度

 第二の目的は、優秀人材の把握と育成であり、ポイントは人事考課と昇格の決定プロセスの共通化である。拠点間異動が現実的でない段階では、各国・各拠点の中でパフォーマンスを挙げられる人材か否かがわかればよいため、必ずしも評価項目自体を共通化する必要はない。それよりも重要なのは、重要な人事プロセスへの介入である。各拠点で最終評価まで行った後、各階層の高評価者を選びだし、人事考課・昇格の妥当性とその後の配置計画について、現地幹部と本社の管轄部署・本社人事が一堂に会して話し合うのである。

 こうした議論の場をもつことは極めて重要である。なぜなら国内であれば、優秀な社員は多方面から自然と「聞こえてくる」ものだが、海外の場合は、情報源は駐在員だけということも多く、それも、駐在員と現地幹部による評価が食い違う場合も多いからだ。次世代リーダー育成の一環としてアセスメントをしてみたら、候補者のほとんどがリーダーよりもサポータータイプだった、ということはないだろうか。またリーダー候補者の中に通訳社員が入っていないだろうか。そのような場合は駐在員にとって使い勝手のよい社員が選抜された可能性がある。ポテンシャルの高い社員を幅広く把握し成長機会を与えることができれば、それだけ次世代人材のパイプラインは太くなるはずだ。

 ところで、世界共通の評価システムを導入している企業でも、社員のスキル・経験に関する情報を一元管理し配置や昇進の判断基準として活用するのは、相当難易度が高い。転職が一般的な社会では情報のメンテナンスが難しいことに加え、いかにデータベースを充実させたとしても人から人へ伝えられる情報の鮮度と密度には及ばない。フェース・ツー・フェースで行う人事会議は最も貴重な情報源となる。

企業ブランドを形成するグローバル人事制度

 第三の目的は、グローバル企業としてのブランディングの一環として行う人事制度導入であり、評価、等級(階層)、報酬だけでなく教育、配置、採用も含む人事制度・施策に、世界共通の一貫した「人事ポリシー」をもたせるものである。報酬体系や教育プログラムなど内容を全面的に統一する必要はなく、揃えるのは「考え方」であり、その考え方を代表するような制度を導入することが望ましい。例えば「国籍を問わない人材活用」という考え方を具現化する制度として、全世界でのジョブポスティングや海外派遣制度が考えられる。こうした人事ポリシー・人事制度についての情報をホームページで公開することで、社員や入社希望者に「雇用者としてのブランド力」をアピールする効果がある。

 制度設計にあっては重要ポイントがいくつかある。まず自社のミッション・ステートメント、社是社訓と人事ポリシー、人事制度が密接に結び付いていること明示しなければならない。また人事ポリシーは、普遍的価値観と自社独自の価値観のバランスをとることも重要である。日本企業の競争力の源泉ともなっている「計画」「部署間連携」「チームワーク」「部下育成」「ホウレンソウ」などの価値観・習慣は海外では必ずしも普遍的価値ではないため、現地の文化・習慣を踏まえた表現への置き換えが必要だ。

グローバル人事制度のホントウの難しさ

 最後に、実際にグローバル人事制度を構築するときに経験するハードルについて述べておきたい。それは日本本社の人事制度の特殊性である。例えば、日本ではこれまで昇格要件に滞留年数を設けることで昇進スピードの集団管理を行ってきたが、海外では個人ベースのパフォーマンスで昇進を決定するのが常識の国も多い。役職定年も集団管理のひとつだ。複線型人事制度、総合職・一般職や正社員・準社員といった区分もわかりづらい制度の一つである。何よりも属性にもとづく人事管理はアンフェアと受け取られる可能性がある。そのような日本の人事制度をベースにしてグローバル人事制度を設計しようとすると、どこかで祖語が生じる。現在日本国内では女性、シニア、非正社員などの多様な人材が活躍できる環境の必要性が叫ばれているが、こうした問いへの解を見いだせるか否かが、グローバル人事成功へのカギを握っている。

出典

・日経リサーチ【グローバル版組織活性化診断ベンチマーク取得調査】
http://www.nikkei-r.co.jp/

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

銀行シンクタンク、外資系コンサルティング会社、日系メーカーの人事部長を経て、現在、オフィス・グローバルナビゲーター代表。海外人事に関するコンサルティングを行う。

 
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