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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

途上国市場を攻略するためのカギは 「トライセクター・パートナーシップ」

中村 俊裕

コペルニク 共同創設者 CEO 

プロフィール詳細

ビジネス全般|グローバル|2016年03月01日

途上国ビジネスへの関心の高まり

 ここ10年ほどで、援助の対象としか見られていなかった発展途上国がビジネスの対象としてもみなされるようになった。500兆円と言われるその市場規模に可能性を感じ、多くの企業が途上国への進出に乗り出している。欧米企業にだいぶん遅れた感はあるが、多くの日本企業も新興国・途上国への進出に向けて動き出している。

社会的企業に流れるインパクト投資

 途上国に進出する企業の増加と同時に、途上国でのビジネスに適したファイナンシングの仕組みも出てきた。その一つに、インパクト投資と呼ばれるものがある。これは一般のビジネスセクターに投資をするベンチャーキャピタルとは一線を画し、貧困やインフラ、水の供給、ファイナンスといった途上国の大きなニーズを解決すべく設立された社会的企業に対して、長期的視点から投資を行うという特徴を持っている。

 例えば、このインパクト投資の先駆けとされている「アキュメン・ファンド」は2001年に設立され、アフリカ諸国、アジアの国々で製品やサービスを提供する会社を支援している。
 

アキュメン・ファンドが支援するソーラーライト会社 D.lightの製品を使って勉強する子供たち

アキュメン・ファンドが支援するソーラーライト会社 D.lightの製品を使って勉強する子供たち

 インパクト投資の流れは世界中に広がり、2013年G8サミット議長国の英国・キャメロン首相の呼びかけのもと、インパクト投資をグローバルに推進することを目的としてG8インパクト投資タスクフォースが創設され、日本にも諮問委員会が出来、インパクト投資への関心が高まっている。

(表1)インパクト投資の規模とトレンド<br />
(出典:Latin America Private Equity & Venture Capital Association, Global Impact Investing Network and J.P. Morgan, May 2012)

(表1)インパクト投資の規模とトレンド
(出典:Latin America Private Equity & Venture Capital Association, Global Impact Investing Network and J.P. Morgan, May 2012)

途上国ビジネスの3つの課題

報告書「パイオニアを超えて(Beyond the Pioneer)」

報告書「パイオニアを超えて(Beyond the Pioneer)」

 
 途上国への関心の高まり、新たなお金の流れといったトレンドにもかかわらず、実際の途上国ビジネスは多くの課題に直面している。

 2014年にモニターデロイトが発表した「パイオニアを超えて(Beyond the Pioneer)」という報告書では、途上国ビジネスが規模を拡大する際、企業単独で解決できない課題に直面することが多いとし、主な課題を以下の3つにまとめている。

● バリューチェーンに関する課題:
ディストリビューションチャネル構築の難しさ、消費者への金融サービスの欠如

● 公共財に関する課題:
道路の未整備、新しい製品に対する理解の欠如

● 政府の課題:
消費者保護などの法律の欠如、政府政策の不備など

 このような課題は、企業だけで解決できる範囲を超えており、うまくビジネスを拡大させるには、トライセクター・パートナーシップが大きなカギとなる。
 

トライセクター・パートナーシップで、長期的に市場を開拓

 トライセクター・パートナーシップとは、政府、企業、市民セクターという3者の間のパートナーシップを指す。

 2006年のノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行に代表される小口融資ビジネスの例を見てもこの必要性がよくわかる。小口融資ビジネスは年々拡大の傾向で、現在までに世界中で1億5000万人以上の顧客がいるとされている 。しかし、貧困層を対象とした小口融資が開始当時からすぐにビジネスとして利益を出していたわけではない。融資ビジネス全体としては、20兆円以上の援助のお金が過去20年で流れたとされている 。政府からの莫大な援助のお金があったからこそ、ビジネスとして長期的に成り立つようになった。また、国際機関から途上国政府への働きかけによって、小口金融が運営しやすいような法整備が整い、現在の小口融資ビジネスの爆発的な拡大につながったのだ。

 「社会企業家」という言葉を生み出したアショカ財団も、民間企業と非営利団体とのパートナーシップを「ハイブリッド・バリューチェーン」と称し、その必要性を説いている。とくに貧困層の人々とのネットワークを構築している非営利団体が、企業が開発した製品やサービスを、ラストマイルまで届けるなど大きな役割を期待している。

 また、コカ・コーラインドでの事業が大量の水を消費していることから、インド政府とNGOからの反対を受け、飲料水の製造を禁止されたことがあった。このことから、コカ・コーラは政府機関であるアメリカ開発庁とNGOである世界自然保護基金とのパートナーシップを組み、何百ものコミュニティレベルの水プロジェクトを立ち上げ、地元で水不足の課題の解決に取り組んだ。その結果、本業である飲料水事業も順調に進むようになった。

 途上国進出に興味を持つ企業の方々は、一企業だけで課題のすべてを解決しようとするのではなく、政府・非営利団体などの機関からの資金やネットワークをうまく活用し、トライセクター・パートナーシップで足掛かりを作っていただきたい。

出典

・Innovations for Poverty Action (IPA)
http://www.poverty-action.org/study/group-versus-individual-liability-microfinance-borrowers-philippines

・From Blueprint to Scale, April 2012, Harvey Koh, Ashish Karamchandani and Robert Kat, Monitor Institute
http://acumen.org/content/uploads/2013/03/From-Blueprint-to-Scale-Case-for-Philanthropy-in-Impact-Investing_Full-report.pdf

・Why the World Needs Tri-Sector Leaders, Nick Lovegrove and Matthew Thomas Harvard Business Review, FEBRUARY 13, 2013

中村 俊裕

コペルニク 共同創設者 CEO 

マッキンゼー、国連などを経て、2009年に途上国の貧困層にテクノロジーを届け、自立を支援するコペルニクを創設。世界経済フォーラム ヤング・グローバル・リーダー。 京都大学法学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 政治学修士。大阪大学国際公共政策研究科招聘准教授も務める。

<主な論文>
・‘Subsidizing Impact’, Stanford Social Innovation Review, Winter issue 2014, with Tomohiro Hamakawa and Ewa Wojkowska.
・‘Entrepreneurship, Technology and Innovation in Poverty Reduction’, Japan Social Innovation Journal, Hyogo University, Japan, January 2011
・‘UNDP’s Initial Response to Tsunami in Indonesia’, with UNDP, April 2005
・‘Reflections on the State Institution Building Support in Timor-Leste: Capacity Development, Integrating Mission and Financial Challenges’, Oslo Governance Centre, UNDP, February 2005

 
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