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シンガポールの差別化戦略(第四回):人財・テクノロジースカウティング

中村  有希

ビジネスプロデューサー(シンガポール・アジア新興国)

プロフィール詳細

ビジネス全般|アジア・オセアニア|シンガポール|2016年02月23日

 シンガポールの近年の経済成長ドライバーは幾つかあるが、アジアの国として特に他国に差をつけているものに、①注力産業の明確化と②人財およびテクノロジーのアグレッシブな招聘がある。前者は前稿までの本連載で取り上げてきたように、建国から現在まで一貫したプロビジネスの姿勢の元、近年ではとりわけナレッジ集約型産業がその中心となっている。本稿では特に後者を中心に論述したい。

シンガポールの人財戦略

 人財の中でも特に世界的にも著名な科学者等“頭脳人財”の獲得競争は、米国に一日の長がある。日本からも青色発光ダイオード発明者の中村修二氏がカリフォルニア大学サンタバーバラ校にヘッドハントされたのは今でも記憶に新しいが、アメリカでは大学教授が企業のコンサルティングやベンチャー立ち上げを行うことが定着していることから、これら頭脳流入は産業界とも緊密にリンクしている。

 一方、欧州は国内景気・産学連携等の劣勢からアメリカへの流出が目立っており、日本はモビリティの低い風土に加えてR&D自前主義から、海外からの誘致は遅れている。

 対象的にシンガポールは国家戦略として、世界中から国の発展に必要と判断される頭脳誘致には極めて積極的だ。国立研究機関、大学、製薬会社・バイオテクノロジー企業等のビジネスハブとなる西部地域のバイオポリス、フュージョンポリスの開発と中核産業の振興施策は2000年前後から打ち出され現在に至るが、同施策検討の段階から誘致したい人財がA*Star(科学技術研究所)やEDB(経済開発庁)等の政府機関主導でリストアップされていたと言われている。こういった高度人財の就労ビザ申請や移住に係る各種手続きは担当省庁が一括して行う等、一般企業以上にビジネス的だ。

テクノロジースカウトとは

 必要と判断された高度人財の獲得に非常にアグレッシブなシンガポールだが、技術そのものにも近年特に注力している。

 Ministry of Trade and Industry(通商産業省)の傘下に設立されたIPI(Intellectual Property Intermediary)が専業で技術ソーシングを行っている。この「技術ソーシング」という業態は特にR&D自前主義の強い日本には馴染みが極めて薄いと思うが、必要なものが自国に無ければ、それが何であれ獲得に動くシンガポールらしいものだと思う。運営委員会にはEDB、IE(国際企業庁)、A*Star、IPOS(知的財産庁)、SPRING(規格・生産性・革新庁)、Ministry of Education(教育省)等の政府機関と南洋工科大学のトップ層が名を連ね、諸外国の技術系アカデミア等と緊密に連携しながら、国のプライオリティテクノロジーを日々、サーチ&スカウトしている。シンガポールは“テストベット”と称して、国が大小のプロジェクトに幅広く入札を呼びかけ、そこから周辺国に拡大し規模の経済を享受する手法を取っている。近年、これに加えて助成金を付けての政府主導実証プロジェクト実施で技術を呼び込むことも増加している。こういった入札・助成金情報もIPIにかなりの部分が集約されており、ホームページに設けられたOnline Market Placeでは政府・民間企業双方の必要技術ニーズが開示されるなど、政府機関とは思えないほどビジネス的に活動している。2012年からは毎年秋に“TechInnovation”という技術商談に特化したイベントを開催しており、日々の活動との相乗効果をあげている。更に、本年1月8日に首相府直属の国立研究財団(National Research Foundation)から出されたプレスリリースによると、シンガポール政府は今後5年のR&D予算を直近5年比18%増のS$19億とし、より一層、同分野に注力していくことを約束している。

昨年度のTechInnovationには、15カ国から出展社が集い、270以上の技術商談の場となった

昨年度のTechInnovationには、15カ国から出展社が集い、270以上の技術商談の場となった

遅れをとる日本

外資大手企業、ベンチャー、高度人財、そして技術そのものと、必要と判断したものは何であれ経済メリットを最優先に呼び込むことでアジアの奇跡ともいわれる成長を短期間に遂げてきたシンガポールと比較して、日本はやや伸び悩み領域が目立つ。既に持てる者ならではの「自国で出来るはず」という考え方と歴史的にヒト・モノともに外からの受け入れが極めて少ない文化が相まって内部完結型ともいえる日本だが、外部環境の変化に合わせて変えるべきところは変えていかないと、競争力の維持は困難と思われる。文化に根ざしたビジネスプラクティスを変えるのは簡単では無いが、成長国のサクセスファクターを謙虚に学び、取り入れていくことを期待したい。

昨年度のTechInnovationを来訪する首相府のS. Iswaran大臣

昨年度のTechInnovationを来訪する首相府のS. Iswaran大臣

出典

・A*Star (Agency for Science, Technology and Research)
http://www.a-star.edu.sg/

・IPI Singapore
https://www.ipi-singapore.org/

・Housing and Development Board
http://www.hdb.gov.sg/cs/infoweb/homepage

・National Research Foundation
http://www.nrf.gov.sg/

中村  有希

ビジネスプロデューサー(シンガポール・アジア新興国)

米系大手企業(消費財、メディア・エンターティメント、サービス関連中心)にてセールス&マーケティング、新規事業企画に15年以上の経験を持つエキスパート。慶應義塾大学文学部卒業、UCLA Anderson School of Management、シンガポール国立大学 経営学修士。

<直近の講演・寄稿>
●バンコックポスト(取材) “The Innovation Edge”
●シンガポール日本商工会議所 会員講演会 2013年4月 “アジア新興国におけるトランスポーテーションビジネス”
●同上 月報(翻訳・監修) 2012年5月“ヘルスケア・イノベーションハブとしてのシンガポール”

 
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