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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

シンガポールの差別化戦略(第三回):アクセラレーターとイノベーション

中村  有希

ビジネスプロデューサー(シンガポール・アジア新興国)

プロフィール詳細

ビジネス全般|アジア・オセアニア|シンガポール|2015年09月17日

 建国以来、一貫して人民行動党が議席大半を占め一党優位であるシンガポールは開発独裁国家と言われ、他の先進国と比較すると政策・方針が短期間に極端に変わることも多い。最近の顕著な事例としては、約数年前までは永住権も簡単に取れた外国人に対する扱いの変化がある。既に一定の経済成長を遂げた今となっては、自国民雇用を守る政策に急転換し、現在のシンガポールが注力する分野以外への労働許可証取得すら年々厳しくなっている。そのような中、優遇されているのは前稿「シンガポールの差別化戦略(第二回):スタートアップ業界のトレンド」で触れたスタートアップに係る業種である。

アジア有数の投資額

 シンガポールのベンチャーキャピタル(VC)資金は昨年1億ドルを超えた。プライベートエクイティ(PE)を加えると、シンガポールを拠点とするファンドマネージャーは東南アジアの55%以上にのぼる。VCによるスタートアップ資金調達案件数もアセアン域内では抜きん出て多いが、インドネシア、マレーシアがそれぞれ2倍近い伸びになるなど、周辺国でも急速に増えている(表1)。案件規模でもMatahari Mallが$500mil(1位)、Eleveniaが$23.4mil(3位)と特にインドネシアのEコマース関連企業の台頭が著しい。一方、シンガポールでは、ある程度分野ごとにバランス良く中規模案件が創出されていると言えよう(表2)。産業育成の観点からは国の注力産業とディール分布が一致するのが望ましいが、このためにシンガポールが講じている施策の一つとして、欧米からの“アクセラレーター”の招聘・起用がある。

(表1)VCによるスタートアップ資金調達案件数<br />
(出典:5月6日付けTech In Asiaより)

(表1)VCによるスタートアップ資金調達案件数
(出典:5月6日付けTech In Asiaより)

(表2)スタートアップ資金調達案件規模トップ10(2015年第一四半期)<br />
(出典:5月6日付けTech In Asiaより)

(表2)スタートアップ資金調達案件規模トップ10(2015年第一四半期)
(出典:5月6日付けTech In Asiaより)

アクセラレーター: インキュベーターとVCへの橋渡し

 スタートアップ支援のインフラは起業直後の所謂アーリーステージにおいては、大学・研究機関、公的支援機関、エンジェルが相互に機能補完する形でインキュベーターの役割を果たしている。元々アントレプレナーシップカルチャーの強いアメリカではビジネススクール(MBA)を中心とする民間主導型だが、シンガポールでは政府機関がある意味エンジェルの側面を持ち、アカデミアおよびR&D機関との緊密な連携のもと、技術の芽をビジネスに繋げる努力をしている中で、ここ1-2年で顕著な動きとしては欧米からのアクセラレーター輸入である。


 シンガポールでは特に注力セクターであるFinTech(金融テクノロジー)分野に強いヨーロッパ最大のアクセラレーター“スタートアップブートキャンプ”をiDA(総務省相当省庁)傘下の政府系VCであるInfocomm Investmentsがパートナーとして招聘し今年から共同事業を開始。今後は国家施策として取り組んでいる“Smart Nation”の実現に向けて、クリーンテック等関連分野のプログラムを立ち上げる予定と聞く。

脱インターネットのベンチャー創出が鍵

 アクセラレーターとは、端的に言うと、極めてアーリーステージのベンチャー投資リスクを軽減すべく約10年前にアメリカで登場したモデルである。合格率1-3%の公募によって有望スタートアップを募り、通常は3ヶ月程度の期間限定にて集中的なトレーニング、メンターシップ他支援を提供し、卒業時に投資家にアピールするデモ・デーを以って修了する。元々成果が出る場合には早く出やすいこともあり、広義のモバイル、インターネット関連が対象となることが多かったため、シンガポールで今後取り組みが進もうとしている“Smart Nation”に関係する幅広い技術分野で、このアクセラレーションを手法として活用したイノベーション創出が進むとしたら、発祥地のアメリカより進化したモデルと言える。実験国家シンガポールの新たなチャレンジを注目していきたい。

出典

・Tech In Asia
https://www.techinasia.com/

・Start-up BootCamp
http://www.startupbootcamp.org/

・Infocomm Investments
http://www.infocomminvestments.com/

中村  有希

ビジネスプロデューサー(シンガポール・アジア新興国)

米系大手企業(消費財、メディア・エンターティメント、サービス関連中心)にてセールス&マーケティング、新規事業企画に15年以上の経験を持つエキスパート。慶應義塾大学文学部卒業、UCLA Anderson School of Management、シンガポール国立大学 経営学修士。

<直近の講演・寄稿>
●バンコックポスト(取材) “The Innovation Edge”
●シンガポール日本商工会議所 会員講演会 2013年4月 “アジア新興国におけるトランスポーテーションビジネス”
●同上 月報(翻訳・監修) 2012年5月“ヘルスケア・イノベーションハブとしてのシンガポール”

 
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