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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

シンガポールの差別化戦略(第二回):スタートアップ業界のトレンド

中村  有希

ビジネスプロデューサー(シンガポール・アジア新興国)

プロフィール詳細

ビジネス全般|アジア・オセアニア|シンガポール|2015年04月28日

 昨年11月掲載の「世界シンガポールの差別化戦略(第一回):ホームストラテジー」でシンガポールの“ホームストラテジー”について触れたが、関連する最近の顕著なトレンドとして、産官学が三位一体となって強化している“スタートアップ促進支援”がある。大手企業に対する施策では以前の製造業誘致から研究開発拠点へのフォーカスシフトがEDB(経済開発庁)主導で進む中、このスタートアップ促進も独自のアングルでホームストラテジー実現に向けて一役買っている。

シンガポールスタートアップ黎明期

 シンガポールのスタートアップ促進への政策的取り組みは2011年のPlug-In@Blk71開始が契機と言える。Blk71とは1970年代に作られたシンガポール西部の小規模工業団地の一角を占めるビルで、番地がそのまま名称となっている。設立から40年以上が経過し当初取り壊し予定だったが、NUS Enterprise(シンガポール国立大学内インキュベーションセンター)、SingTelInnov8(シンガポールテレコムのコーポレートベンチャーキャピタル)、MDA(メディアデベロップメントオーソリティ)の3社協業にてデジタルメディア・ICT関連のスタートアップハブに生まれ変わった。Plug-In@Blk71とはNUS Enterpriseが運営しているスタートアップ支援プログラム名である。シリコンバレーの成功事例に倣い、“場”の提供、情報・コンタクトの共有流通促進、資金調達含む各種メンターシップと事業アクセラレーション支援をプログラム化して行っている。

Plug-In@Blk71 スタートアップワーキングスペース

Plug-In@Blk71 スタートアップワーキングスペース

なぜシンガポールにスタートアップが必要なのか

 スタートアップ促進の取り組みはEDBが掲げるホームストラテジーにも重要な貢献アングルとなっている。

 いくら優遇税制をフックに先進国の大企業を誘致したとしても、昨今の物価高・賃金高騰から、製造機能はレイバーコストの安い近隣アセアン国や業種によってはバングラディッシュやスリランカ等の南アジアへの流出が今後更に進んでいく。一方でホームストラテジーの柱であるR&D拠点化は着実に進んではいるものの、商品化まではどんなに短くても数年以上はかかるのが一般的だ。ポートフォリオ管理の観点から更なる柱が必要なのは自明である。

 金融、IT、ロジスティックスを中心とするサービス業種比率が高いシンガポールへの“スタートアップ”を組み込んだエコシステム構築は、1.既に進出している大企業を出口(M&A)としたビジネススケールアップ、2.アジア視点でのオープンイノベーションの観点からシリコンバレーに近しい持続可能な経済効果が期待できる。

今後の課題と可能性

 2011年創設時はBlk71のみだったが僅か4年で隣接するBlk73とBlk79も加わり、同エリアはシンガポールのスタートアップエンジンの代名詞となっている。インキュベーションフェーズから既にベンチャーキャピタルから資金調達し、ビジネススケールアップに邁進しているベンチャーも多い。着実に成果があがっている中で今後課題と思われる点は、1.今まで移植型の経済発展を遂げてきたゆえに、シリコンバレーのような“ディスラプティブ(全く今まで世の中に無かったもの)”な商品・サービスは無く、EC関連を中心とする“アダプテーション”が殆どでここでも移植型となっている点、2.歴史的にシンガポール人はエリート層ほど政府系や大企業志向が高く、起業カルチャーはまだ根づいておらず、シンガポール発である程度の規模感まで事業拡大している企業家はこの分野の税制優遇を活用している外国人が多い点が挙げられる。

 つまり、この分野もかつての大手外資誘致型成長のモデルに近しい外部からのノウハウ移植型で立ち上がっており、今後の持続可能な成長に向けては如何にローカルシンガポーリアンに浸透してゆくか、また外国人との調和が鍵になると思われる。注力分野であるIT関連は参入障壁が低く、他業種と比べ、早期に成果が出やすい分野である。シンガポール発のビッグアイデア創出、エコシステム構築を注視していきたい。

出典

・Plug-In@Blk71
http://www2.blk71.com/

・IDA
http://www.ida.gov.sg/

・Infocomm Investments
http://www.infocomminvestments.com/

中村  有希

ビジネスプロデューサー(シンガポール・アジア新興国)

米系大手企業(消費財、メディア・エンターティメント、サービス関連中心)にてセールス&マーケティング、新規事業企画に15年以上の経験を持つエキスパート。慶應義塾大学文学部卒業、UCLA Anderson School of Management、シンガポール国立大学 経営学修士。

<直近の講演・寄稿>
●バンコックポスト(取材) “The Innovation Edge”
●シンガポール日本商工会議所 会員講演会 2013年4月 “アジア新興国におけるトランスポーテーションビジネス”
●同上 月報(翻訳・監修) 2012年5月“ヘルスケア・イノベーションハブとしてのシンガポール”

 
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