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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

したたかな韓国のグローバル戦略~縦走して分かった地域のプロモーション

石原 昇

国際経営コンサルタント サイコム・ブレインズ監査役

プロフィール詳細

ビジネス全般|アジア・オセアニア|韓国|2014年11月27日

日韓関係の悪化から、一時の韓流ブームが去り、韓国人気は大きく減退している。実際、韓国観光公社によると、昨年、韓国を訪れた日本人は前年比22%減の275万人、これに対して中国人は53%増の433万人と逆転した。この傾向は今年も続いている。

ただ減っているのは日本人だけで、中国人に限らず他の国の観光客は増えている。また韓流の映画やドラマの人気はアジアを中心に今だ衰えていない。映画「SNOW PIERCER(雪国列車)」は韓国人監督により欧州で撮影され、167か国へ輸出されている。ドラマ「星から来たあなた」は中国で54億回再生され28億ドルの経済効果をもたらした。昨年の韓国におけるコンテンツ産業の輸出高は、9%増の52億3200万ドルと高い成長が続いている。韓国は国策として、これらのソフトを強みに、衣料や化粧品、家電や自動車などのハードの製品を拡販し、外国企業の投資を呼び込む。

今回、10月末から2週間にわたり、ソウルから釜山まで10都市を訪問した。視察した大規模プロジェクトやキーパーソンへのインタビューからは、日本からは見えない、世界を見据えた韓国各地のプロモーション戦略があった。

ソウルで開業した2つの新たな文化発信拠点

開業した複合施設と建築中の超高層タワー

開業した複合施設と建築中の超高層タワー

まずは首都のソウル。南部にある蚕室(チャムシル)では、開業25周年を迎えたテーマパークの「ロッテワールド」に隣接して、この10月14日から、複合商業施設の「第2ロッテワールド」がオープンした。延べ床面積が約7万7000平方メートルの百貨店と約2万6000平方メートルの免税店は韓国最大、4600席を誇る映画館はアジア最大の規模となる。水族館のほか、来年秋にはコンサートホールも開業する。

特徴的なのは、単なる物販ではなく体験型消費を前面に押し出し、アジアの韓流人気を最大限に取り込んでいる点だ。スター映像などを楽しめる体験空間も設け、アベニューにはバッグのMCMや化粧品のアモーレパシフィックなど、海外の一流ブランドと共に韓国ブランドのショップが並ぶ。2016年には、高さ555m(123階)の超高層タワーも完成する。今年3月に横浜のランドマークタワーを抜いて、日本一となった、あべのハルカスの300m(60階)を圧倒する。ロッテグループが投じる金額は3兆5000億ウォン(約3850億円)。将来的には年間売上高目標の1兆5000億ウォン(約1650億円)のうち、海外からの集客150万人で、2割を獲得することを見込んでいる。

レッドカーペットで演出したSIA授賞式

レッドカーペットで演出したSIA授賞式

ソウルの不夜城として知られるファッションタウンの東大門。この中心部に、今年3月21日、「東大門(トンデムン)デザインプラザ(DDP)」が満を持してオープンした。かつてあった東大門運動場の撤去から丸7年、約4,000億ウォン(約440億円)を投じ、幾度もの開業延期を経て、今や毎日3万人が訪れる新たなランドマークとなった。女性建築家ザハ・ハディッド氏が設計した世界最大規模の柱のない三次元非定形建築物には、1~4階 にDESIGN LABが設置され、「デザイン・創造産業の発信地」としての機能を担う。

コンベンションやコンサート、ファッションショーなどのイベントも常時開催され、10月28日の夜には、「スタイル・アイコン・アワード(SIA)2014」の本授賞式が開催されていた。SIAは、内外のオンラインサイトを通して世界5.7億人が視聴する名実ともにアジア最大級のライフスタイルフェスティバルとなっており、韓流に勢いがあることを強く印象付けられた。

世界最長の防波堤が完成し、国土の拡張が進むセマングム

防波堤が完成し干拓が進むセマングムの航空写真

防波堤が完成し干拓が進むセマングムの航空写真

韓国では今、日本の諫早湾干拓の10倍以上の大規模プロジェクトが進行している。場所は全羅北道の群山市と金堤市の河口一帯に広がる干潟でセマングムと呼ばれる。1986年、韓国政府はこの地に防波堤を建設し、湾内を干拓して農地を造成する事業を発表した。1991年11月に着工し19年を経て、長さ33.9km、平均道路幅290m(最大535m)、平均高さ36m(最大54m)の世界最長の防波堤が2010年4月に竣工した。

ギネスブックに登録されたこの防波堤の完成により、干拓が可能となり、401㎢の新たな国土が生み出される。その規模はソウル市の約3分の2(東京のお台場の90倍)にもなり、韓国の国土面積は10万140㎢から10万541㎢へと0.4%拡大する。総事業費は、防波堤の建設費の3兆ウォンを含めて25兆ウォン(約2兆7500億円)と巨額である。

当初計画にあった農地としての用途は3割以下となり、代わって、東アジアにおける戦略的生産拠点、さらには新産業の誘致、世界最大規模のゴルフ場や国際海洋レジャー基地としての開発が浮上している。韓国が期待をかけるのが外国企業。日本企業では、東レが初めて海外でのPPS樹脂の生産を決め、2016年4月の工場稼働を予定している。また「チャイナ・バレー」と呼ばれる韓中経済協力団地の開発により中国企業も多数、進出する見込みである。

慶尚北道の亀尾で進む企業誘致と先端融合研究

モバイルの開発成果を集めたサムスン展示館

モバイルの開発成果を集めたサムスン展示館

韓国南部の慶尚北道にある亀尾(グミ)。韓国で最大規模の5つの内陸型産業団地があり、サムスン電子やLGディスプレイ、シーメンスなどが集積し、ハイテク・クラスターを形成している。それぞれの対象業種と開発面積は、第1団地が電機・電子、機械、繊維で10.3平方km、第2団地が通信機器、半導体で2.3平方km、第3団地はモバイル、ディスプレイで5.1平方km、第4団地は部品素材、再生可能エネルギーで6.8平方km、第5団地はハイテクバレーとして9.3平方kmとなっている。

東レや旭硝子などの日本企業も20社以上が進出している。その優遇条件は破格で、50年間は賃貸料が無料、法人税や所得税は5年間全額免除(その後2年間は50%減免)、韓国初の企業支援本部でワンストップのサービスを提供するなど、日本の自治体とは比較にならない。

このエリア一帯には、官民含めて200近い研究機関があり、周辺大学の学生を含め3万人の人材を擁する。世界トップクラスのモバイル、ディスプレイ、精密機器の技術が集積していることから、バイオや医療が集積する、同じ慶尚北道にある大邱(テグ)や原州(ウォンジュ)とも連携し、医工連携の新産業創出を加速している。

今回、亀尾のバイオメディカルIT融合センターでディレクターを務めるサン・ヒー・キム博士から話を聞けた。「高齢化により増え続ける医療費の問題を解決するために、病気の予防や早期診断、疾患の有効な治療は必須だ。これに資する医療機器産業は世界で2800億ドル、韓国内でも4兆ウォンの巨大市場となっている。韓国政府の助成も得て、亀尾では、2011~2017年の7年間で、医療機器の部材開発に1.2億ドルの予算を確保した。この一環で、2011~2014年にかけてバイオメディカルIT R&Dセンター、2014~2017年にかけて医療産業コンプレックスセンターを建設する。そこで技術を融合した最先端の医療機器を開発していきたい。」

港湾と観光・映画で世界に名をなす釜山

韓国第2の都市の釜山(プサン)。中国の港湾都市が物量を大きく増やすなかでも、コンテナ取扱量は世界第5位をキープする。シンガポールや香港と同様、国内市場が小さいため、外から荷物を集めてくる必要があり、このため、積荷港から荷卸港まで、同一船舶で運送せず途中港で積み替えをするトランシップ港として成長してきた。

現在 釜山港は169隻の船舶が接岸できる26.8kmの岸壁施設と年間9,100万トンを処理できる荷役能力を備えている。1995年から始まった新港建設は、コの字型に囲んだコンテナ対応のターミナルの総延長が10㎞にもなり、2015年までに30バース(船席)に拡張する計画だ。

港湾の熾烈な世界競争を勝ち抜くため、政府支援で入港料を免除するなど、東京港や横浜港と比べてコンテナ取扱料金は3割安く、荷卸し業務の自動化や交通アクセスの整備、倉庫の拡充や住居エリアの開発など、あらゆる施策を打っている。

この釜山港を東へ進むと、一転して海岸線が美しい国際リゾートが顔をみせる。目の前に架かる大きな橋が目を惹く広安里(クァンリ)とアートイベントが連日開催されている海雲台(ヘウンデ)だ。双方とも国際級の大型ホテルや高層のコンドミニアムが立ち並ぶ。

今注目の大型プロジェクトは、海雲台海水浴場前にある敷地6万5000平方mに建設される海雲台観光リゾートである。地上101階のランドマークタワーと84階ビル2棟の全3棟の超高層ビルを柱に、各棟を連結する7階建ての複合施設からなる。中国最大の建設会社のCSCEC(中国建築工程総公司 )が施工会社に決まり、韓中米日のグローバルプロジェクトとして2018年の完成を目指している。

釜山国際映画祭発祥のBIFF廣場

釜山国際映画祭発祥のBIFF廣場

釜山は映画の街としても有名だ。毎年秋に行われる釜山国際映画祭は、今年10月で19回目を数えた。始まりはダウンタウンの南浦洞にあるBIFF広場だったが、2011年からは海雲台エリアでの開催となり、メッセや大型商業施設もあるセンタムシティに「映画の殿堂」をオープンした。映画祭で開閉幕式場として、また野外映画館として4000席規模の劇場も併設している。韓国のコンテンツ産業育成の集大成がここで垣間見られる。

KOTRAが主催するソウルのFIWと東京の商談会

ソウルで開催された外国人投資ウィーク

ソウルで開催された外国人投資ウィーク

11月10日、韓国は、中国とのFTA(自由貿易協定)の合意を宣言し、来年初頭に正式署名することを発表した。既に発行済みの米国とEUと合わせて世界3大経済圏で自由貿易圏を築く。韓国は貿易総額が1兆ドルを超え、2020年までに2倍にする目標を掲げる。これを推進するのが日本の経済産業省に相当する産業通商資源部であり、JETROに相当するKOTRAである。

ソウルでは、10月29日から3日間、「外国人投資ウィーク2014(Foreign Investment Week 2014)」が開催され、22の国と地域から300人を超える外国人投資家が集まった。毎年参加しているシンポジウムでは、今年は特に、韓流を活用した文化コンテンツとファッション・ゲーム産業の紹介に力が入っていた。

11月18日には東京で「韓国部品・ICT産業商談会」も開催された。韓国の有望企業と日本企業とのマッチングを企図した商談会で、20回目となる今年は95社が参加する大規模なものとなった。韓国のスタートアップベンチャーによるピッチイベントも併催され、日本との連携や投資に期待をかける。

東京で開催された韓国部品・ICT産業商談会

東京で開催された韓国部品・ICT産業商談会

ベンチャーキャピタリストとして、日本で今最も活躍しているグローバル・ブレインの百合本安彦社長は語る。「財閥主導の韓国と見られがちだが、韓国の起業家には高いアントレプレナーシップがあり、海外志向で英語や日本語も流暢だ。スマホやゲームソフトの技術開発力は非常に高く、既に、5Rocks、VCNCなどの会社に投資している。さらに力を入れるため、12月にも韓国に拠点を開設するつもりだ。」

来年は日韓国交正常化50周年。政治の壁を乗り越え、偏見に寄らない日本と韓国によるWIN-WINの経済協力が望まれる。

※12月5日に一部内容を変更しております。申し訳ございません。

石原 昇

国際経営コンサルタント サイコム・ブレインズ監査役

野村総合研究所主任研究員、東京大学先端科学技術研究センター研究員、世銀グループコンサルタントを経て、シー・サポートセンター代表。複数の国際企業の役員、公職を兼務する。

著書は「ロボット・イノベーション」(日刊工業新聞社)「イノベーション・パラドックス」(ファーストプレス)ほか多数。コラムは日経ビジネス・オンライン 石原昇の「21世紀の黒船たち」http://bit.ly/hJInWy など。

 
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