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シンガポールの差別化戦略(第一回):ホームストラテジー

中村  有希

ビジネスプロデューサー(シンガポール・アジア新興国)

プロフィール詳細

ビジネス全般|アジア・オセアニア|シンガポール|2014年11月13日

外務省によると、シンガポールは人口約540万人の小さな国だが、一人当たりGDPは約US$52,000と東南アジアでは突出して豊かな国だ。1965年の建国から僅か49年で急成長を遂げてきたが、これは東南アジアを中心にアジアパシフィック域内ひいては中東等にもアクセスの良い立地、英語国であること等、既得条件による優位性もさることながら、EDB(経済開発庁)を中心とする主要政府機関の明確な戦略と確実なアクションが原動力となっている。

初期の戦略:優遇税制による大企業誘致

シンガポールでは比較的最近まで、製造業・サービス業を中心とする欧米および日系大手企業の“誘致”が戦略の柱だった。建国直後から“経済拡大奨励法”を施行、都度改定を重ねて常に魅力あるものにしてきた。中でもシンガポールにとって特に有益な事業に対して新規参入と投資を促進するために設けられた「パイオニア企業」という仕組みは、最長15年は全額租税免除という適用企業にとっては極めて有利なものだ。こういった思い切った取り組みが功を奏し、消費財のP&G、医療機器メーカーのメドトロニック等々、多くの大手企業がアジア本社機能をシンガポールに移管。戦略が確実に機能し、一定以上の成功を収めてきた。

更なる飛躍に向けた戦略

近未来的な佇まいのバイオポリス

近未来的な佇まいのバイオポリス

成功を収める一方で、シンガポールと言えば有利な税制というある意味画一的なレーベルが付いてしまった側面もある。しかし国としては、持続的な成長に向けて着実に次の一手を打ちだしてきている。その一つが「ホームストラテジー」だ。

これは従来の「企業を誘致する」というポジションニングから、ビジネスおよびイノベーションを育む「企業の本拠地」へと進化を促すものだ。特にイノベーションを育むという側面では、科学技術行政がシンガポール西部にバイオポリス、フュージョンポリスといった研究開発拠点を次々と創出し、世界中から優秀な科学者を呼び寄せ、科学知の集積地を目指している。科学全般の幅広い分野がカバーされているが、傾向としては素材や情報テクノロジー等、開発期間とコストが比較的少なく成果が早めに出やすい分野に積極的に注力しているようにみえる。

東南アジアのサイエンスハリウッド

ここで生み出された技術・商品をビジネス面でも行政が支援し、シンガポールをテストマーケットとして東南アジア域内、そして更にはグローバルに展開していく方法論はさながら科学におけるハリウッドスタジオの感がある。御存知の通り、ハリウッドは映画を中心とするエンターティメントの中心地だが、そのビジネスモデルは端的に言うとディズニー、ワーナーブラザース等の「スタジオ」が生み出した作品・コンテンツを配給会社(映画)、TV局等メディアがチャネルとなって世界中に流していく仕組みである。

今までのシンガポールは地の利を活かした中継貿易、ロジスティックを強みとしていたが、いよいよ実際に生み出す活動に本腰を入れたわけだ。ハリウッドが長い歴史を持つように、生み出す活動で実績をあげるにはある程度の時間が必要だ。来年記念すべき建国50年を迎えるシンガポールの次なる50年がR&Dハブとして新しいマイルストンを刻めるかどうか、注視を続けたい。

出典

・“シンガポール共和国(Republic of Singapore) 基礎データ”.外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/singapore/data.html#01.

中村  有希

ビジネスプロデューサー(シンガポール・アジア新興国)

米系大手企業(消費財、メディア・エンターティメント、サービス関連中心)にてセールス&マーケティング、新規事業企画に15年以上の経験を持つエキスパート。慶應義塾大学文学部卒業、UCLA Anderson School of Management、シンガポール国立大学 経営学修士。

<直近の講演・寄稿>
●バンコックポスト(取材) “The Innovation Edge”
●シンガポール日本商工会議所 会員講演会 2013年4月 “アジア新興国におけるトランスポーテーションビジネス”
●同上 月報(翻訳・監修) 2012年5月“ヘルスケア・イノベーションハブとしてのシンガポール”

 
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