トップ  >   プログラム  >   特別講義 -専門家に聞く-  >   コロナ禍と海外拠点におけるマネジメント人材

プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

コロナ禍と海外拠点におけるマネジメント人材

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

プロフィール詳細

グローバルマネージメント|グローバル|グローバル|2021年08月27日

 新型コロナウイルスの世界的流行によって海外子会社と本社の間の往来がいまだに制限されています。日本在外企業協会が2020年に実施した調査※1によれば、駐在員を一時帰国させた企業は8割に上ったようです。私のクライアント企業でも、メーカーA社は駐在員を呼び戻す代わりに、役員クラスの管理者が赴任し、役員から現地社員へのトップダウン体制を敷くことでなんとかしのいでいます。短期ビザで行ったり来たりを一年以上続けていてお気の毒ですが、他に方法がないとのこと。また、メーカーB社はゴーグル式の遠隔モニターを現地社員に装着させて工場内を巡回させ、日本から現場を監督しているが、細かい観察ができないので不安を抱えています。現地に経営を任せる準備ができていない例と言えます。
 渡航制限がいつまで続くかは別として、マネジメントができる現地社員の確保とガバナンスの体制づくりが必要です。後者については、これまでも本サイトで何度も説明しているので、本稿では前者、とくに人の採用についてお話します。

「経営幹部は日本人」に大きな変化なし

 ちなみに「海外子会社の経営幹部は日本人」という状況は、ここ数十年大きく変わりません。日本在外企業協会の同調査によれば、日本人社長比率は現在48%だそうです。日本人以外の社長登用の壁として、34%が「社内に優秀な外国籍人材がまだ育成されていない」のを理由にあげています。優秀で上昇志向もある現地社員のためにキャリアパスをつくったり、教育訓練制度を充実させたり、考え得る限りの手をうってきた割には「効果が出ていない」という恨み節が人事部から聞こえてきそうです。
 実際に現地の経営幹部育成はどこまで進んでいるのか・・・私自身がコンサルタントとして日本企業の海外拠点のプロジェクトに関わる中で感じたことをお話しします。

次世代リーダー候補者は「サポータータイプ」

 メーカーC社のアジアの子会社で、2018年に次世代リーダー育成プロジェクトに携わったときのことです。部門責任者(全員が日本人)に頼んで、各部門一人ずつ、合計で10人ほど将来の幹部候補をリストアップしてもらいました。この候補者10人に能力・資質を把握するためのアセスメントを受けてもらったところ、なんと10人中9人が「サポーター」(人を補佐する役回りを好む)タイプでした。日本国内で日本人社員を対象にアセスメントをすれば、リーダーとして組織を率いたり、自分で何かを構築したり、専門分野をつきつめたいタイプがほどよいバランスで混在しているものですが・・・。
 実は日本企業の海外拠点は、それがどの国であれ、オフィスをのぞかせてもらうと「日本企業の匂い」がします。いいか悪いかは別として、「日本人の指示のもとに動く組織」を前提にした体制なり風土なりが出来上がっている、といつも感じます。現地社員に経営幹部がいないのは、長年勤務している間に別のタイプから「サポーター」に矯正されていったか、会社を辞めずに残ったのがサポータータイプだったか、そもそもサポータータイプばかりを採用してきたか、といったところが理由でしょう。この状況に風穴をあけるには、制度や体制を変えるのも重要ですが、手っ取り早く、外の血を入れることも有効です。

採用という「入り口」戦略の見直し

 ではリーダーシップやチャレンジ精神がある(経営幹部の資質がある)人を採用するにはどうしたらいいのでしょうか? クライアント企業の海外拠点立ち上げ時の例を紹介しながら、採用活動で重要なことをお話しします。

「スペック」~日本語をとるか、マネジメント経験をとるか~

 採用プロセスで最も大事なのは、人材のスペック決めです。「日本語が話せて、マネジメント経験がある人」がいればベストですが、実際のところ、日本語が話せることと、マネジメント経験は反比例しがちです。日本語を条件にすると、日本企業で働いてきた人が応募してきますが、彼らはマネジメントに携わった経験がない。よしんば組織図上は部門長であっても、非公式には日本人の監督のもとに部分的な責任を負った経験しかありません。日本語を話すことを必須条件とすると、マネジメント経験が不足します。では、そのマネジメントについては採用してから経験させればいいかというと、そう簡単にはいかないことはこれまでを振り返ればわかることです。他にも採用基準はあるでしょうが、その中で何を重視するかのプライオリティーをよくよく議論して決めておくことが重要です。

どこに釣り糸を垂れるか

 日本語を必須としなければ、候補者の選択肢は一気に広がります。新しい考え方やノウハウを社内に取り入れたいと思ったら、日本企業だけでなく欧米や現地企業の経験者も視野に入れるべきです。また、同じ業界から採用するだけではなく、どうせなら優秀な人材を採用したいので、優秀な人材が就職する花形産業なり業界なりに網をかけるのも一法です。また、経営幹部ポジションならば、将来的に域内で異動できるよう、候補者の居住地を近隣国にまで広げて募集します。

エージェント選びの重要性

 このような多様な候補者プールにアクセスするには、どのエージェント(人材紹介会社)をパートナーに選ぶかも大事になってきます。日系のエージェントの強みはなんといっても、日本企業経験者を紹介してくれることです。他方グローバル系人材会社は、日系以外の外資系企業のマネジメント人材へのアクセスがあります。採用したいポジションによって使いわけるのも一法ではないでしょうか。

オーバースペック問題

 実際に日本企業経験者と日系以外の外資系や地場企業経験者を、それぞれ数十人単位で面談してみるとわかることがあります。後者の候補者の中には、自由度の高い環境でマネジメントを行った経験があり、自分の考えをクリアに主張し、態度も堂々としている人に出会うことがあります。面談者である日本人駐在員よりも優秀で経験もある候補者も多く、正直、オーバースペックであきらめたケースもありました。
 近年、日本人社員をグローバル人材に育てるためのキャリアパスとして、海外拠点の幹部ポストが利用されることがあります。日本国内では部長未満の人が、海外では社長に就任するなどです。この駐在員社長のレベルが、現地の優秀人材採用時のオーバースペック問題を引き起こしていることもあるので、駐在員の選抜は慎重に行わなければいけません。

難しい「経営幹部は日本人」の解消

 経営幹部は日本人である必要はないのか、やはり日本人による経営を維持したいのか。多くの日本企業では、基本的なところがきちんと議論されないままグローバル人事制度や次世代リーダー育成が行われていると私は感じています。「優秀であれば国籍は関係ない」といいつつ、感情面では支配を手放したくない。そんな状況が続く限り、「経営幹部は日本人」状態を解消することはできないように思うのです。

出典

・※1 一般社団法人 日本在外企業協会「新型コロナウイルス感染拡大による海外駐在員への影響」および 「第 11 回 日系企業における経営のグローバル化に関するアンケート」調査結果報告、2021年2月1日

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

銀行シンクタンク、外資系コンサルティング会社、日系メーカーの人事部長を経て、現在、オフィス・グローバルナビゲーター代表。海外人事に関するコンサルティングを行う。

 
PAGETOP