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海外子会社のコントロール -緊急事態時に駐在員を戻せるか-

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

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グローバルマネージメント|グローバル|グローバル|2020年10月28日

 世界的な新型コロナウイルスの感染拡大で封鎖されていた国境がようやく開かれ、海外との往来制限も徐々に緩和され、ほっと一安心というところでしょうか。
 今回の経験を通じて、自社の海外子会社の自立と、地理的に離れた場所をコントロールすることの難しさを改めて自覚することになったという声を聞きます。渡航制限の間、短期出張は中止しても、駐在員は置き続けなければいけなかった。そのような状況にあった企業のために、本稿では海外子会社のコントロール方法について、ある会社の例を紹介しながら説明します。

ケース:海外子会社G社について

 当該子会社をG社としましょう。G社は十数年前にゼロから設立された海外製造拠点ですが、短期間のうちに売上も社員数も本社のマザー工場を凌駕する規模になっています。顧客(日本企業)の現地開発に歩調をあわせ、G社でも数年前に開発部門を立ち上げました。
 ローカル社員数千人(期間工含む)に対し、日本人駐在員は20人程度で、社長、管理部長、工場長、生産技術部長、この他短期出張者が常時20~30人います。ローカル社員の役職者は、人事総務部長、生産技術部長代理、工場業務課長、営業課長で、営業課長を除く全員が設立メンバーで、日本語が理解でき、通訳出身者もいます。日本人社長にとって、労働組合に睨みがきき、現地社会の人脈もある人事総務部長は最も頼りになる存在です。営業職と技術職については近年、大卒採用を強化しています。

 初代社長も今の社長も、技術部次長級のベテランの駐在員で、ローカル社員をそばで指導しながら製造と開発の立ち上げにあたってきました。現地の風習・祭事も大事にし、ローカル社員から慕われています。しかし社長は、情報漏洩が怖いので、投資計画、新製品、顧客情報については現地に知らせてこなかったということです。重要課題について検討するときは、ローカル社員が帰宅してから駐在員だけで会議をするか、そこまで重要でないテーマについては、昼食堂に集まったときに話して決めています。現地には実質的に決裁権限を渡しておらず、都度、駐在員が許可をします。ローカル社員は課題をリストアップすることはできても、原因究明や解決策を考えることができないので、能力面でも積極性の面でも信用が置けないそうです。

 そんなG社社長に、ある日突然、3年以内に駐在員を全員引き上げて完全現地化せよとの号令がかかったと考えてください。G社社長は「到底、無理だ」と頭から拒否する姿勢なのに対し、ローカル社員の反応は二通りありました。役職者は「問題ありません!」と自信をのぞかせる一方、下の階層からは、技術面や現地の役職者のマネジメント能力を不安視する声も聞かれます。

 「このような状況のもとであなたが社長ならどうしますか?」と問われたとき、日本人は即座に「現地社員を早急に育てる」と答えます。「誰に次の社長職を任せますか?」と重ねて聞くと、「信頼のおける人事総務部長」と答える人もいます。日本人は「信頼できる人」を介したコントロールを重視しますが、しかしそれだけに頼っていては、人の流動性が高く、社員が会社の他にも大事にするコミュニティーをもつような土地で、経営を現地化することは永遠に無理でしょう。

海外子会社のハードコントロール

 海外拠点のコントロール手法には、「人」や「組織文化」を介した方法(ソフトコントロール)だけでなく、以下にあげる各制度もコントロール(ハードコントロール)としての側面があります。ひとつの方法に偏らないコントロールが日本企業には必要です。ハードコントロールについてその考え方と、G社の対策例を紹介します。

●組織編成
 組織の境界線が「内と外」意識を生み、レポートラインで忠誠心の対象が定まることを踏まえて、組織図を引き直す。新組織の主要ポストの人材スペックを組織図にあわせて見直す。
<対策例>
・社内の優秀な人を至急把握するためにアセスメントを実施する
・各主要ポストにつき、社内から2名、外部採用2名(日系だけでなく外資系企業からの転職者)を候補とし、3年で競わせる
・グローバル機能別組織にして部門長が本社に直接レポートするようにし、現地社長の権限を制限する

●責任権限の規定
 本社が意思決定を握っておきたい程度と現地組織の能力に応じて、人・モノ・金・情報の管理権限をどの程度現地組織に委譲するのか、ルールを明示的に決める。
<対策例>
・設備投資等、重要事項の決定は本社の専管事項とする
・当面は現地決裁が可能な事項を細かく明記し、それ以外は本社伺いとする
・情報へのアクセス権限を規定する
・イレギュラー発生時のエスカレーション・ルールを設定しておく
・ジョブディスクリプションや雇用契約書に個々の業務内容・責任権限を明記する
・採用人数枠を設定、部長以上の採用は本社役員による面談を必須とする

●業務プロセスの標準化
 社員のイレギュラー対応力・経験に応じて、業務プロセスとアウトプットを標準化する。細かく標準化するほど対応のバラつきが減るが、創発を阻害するリスクもあるので注意。
<対策例>
・作業手順をマニュアル化する
・ローカルマニュアルを許さない、または許可制にする
・承認プロセスにITを導入し、人為的な操作の余地を残さない
・個々の作業が達成しなければならない目標と評価基準を設定する

●モニタリング
 駐在員の目視による監督に代わるモニタリングの仕組みを入れて、現地の幹部社員を経由せずに直接取ることのできる情報ルートを確保する。
<対策例>
・年度計画を現地に策定させ、何度もレビューする
・業績報告会議、技術会議などの会議を定期的に開催し、状況を報告させる
・営業報告書、日報などのレポート作成を義務付ける
・タイムリーに管理系情報を把握するためのIT化
・コンプライアンスに関する通報制度、不正アクセス探知システム等の設置
・従業員意識調査を行い、組織末端までの状況を把握する

大事なのはバランス

 本稿ではソフトコントロールの説明を割愛しましたが、ソフトツールは導入後効果がでるまでに時間がかかることと、操作がしにくいというデメリットがある点には注意が必要です。いずれの方法をとるにせよ、大事なのは、組織の柔軟性を担保しつつ統制もきかせる、自発性を発揮させながらも放任しない、モチベーションを損なわずに規律を守らせる、といったように2つの価値観の間でほどよいバランスをとることです。

 読者の企業はG社よりもっと高度なマネジメントをしているという場合は、本稿の内容には既視感があるでしょう。ただ海外子会社が立地する国によっては、いまだこのような状況というケースもあるはずですので、参考になれば幸いです。

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

オフィスグローバルナビゲーター代表として、グローバルビジネスの組織・人に関するコンサルティングを提供。

 
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