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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

分断と統合の狭間で-米国の対ファーウェイ規制強化と半導体業界等に及ぼす影響-

末冨 純子

弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)(ベーカー&マッケンジー法律事務所)、 早稲田大学法学部非常勤講師、日本国際経済法学会所属、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、財務省関税・外国為替等審議会専門委員

プロフィール詳細

アカデミック|北中南米|米国|2020年10月09日

はじめに

 2018年ころから言われ始めた米中の「貿易戦争」は、このコロナ禍にあっても、さらに加速し、「分断」が進んでいるように映る。輸出規制、外資規制、技術移転規制、香港における人権侵害を対象とした制裁、と手を変え品を変え、米中の分断が進行しているように思われる。
これを捉えて、「米国側につくか、中国側につくか、判断に迫られる企業」というような題目を唱える向きもある。
 そこで立ち止まる。そもそも分断や統合を進める背景には何があるのか。一つには、5Gをはじめとする中国の急速な技術発展を脅威と感じる米国の焦りがあるであろう。また、米国大統領選挙等が控える選挙年である今年、分断による「仮想敵」を作り出すことによる政治利用の可能性も否定できない。そして、個々の措置の積み重ねに過ぎないものが、次第に十羽ひとからげに論じられるようになり、「分断」が演出される。
 このような状況を踏まえて、サプライ・チェーンの再構築の動きが見られるようになってきた。個々の措置に柔軟に対応し、新たな選択肢を求め、動きは加速する。
 2020年8月後半からの米国の対ファーウェイ規制強化の動きと、これに対する中国の反応、そしてこれらが半導体業界をはじめとする様々な業界に及ぼす影響を追う。

米国商務省、ファーウェイ等への輸出規制を強化

 2020年8月17日、米国商務省産業安全局 (The Bureau of Industry and Security (BIS) in the Department of Commerce)は、Entity Listに掲載されているHuawei Technologies Co., Ltd. (ファーウェイ)とその非米国関連企業の、米国技術とソフトウェアから国内外で生産された産品へのアクセスをさらに制限した。加えて、BISは、Entity Listにファーウェイの関連会社38社を新たに追加した。このことにより、輸出管理規制(Export Administration Regulations)(EAR)の対象となる全ての産品について輸出許可を取得することが必要になる。
 BISはまた、Entity Listに掲載されている当事者が関わっている商務省の輸出規制の管轄に服する産品を含むあらゆる取引に許可取得の義務を課した。例えば、ファーウェイや他のEntity Listに掲載されている関連企業が購入者である場合も、仲介者である場合も、最終需要者である場合も、許可の取得が必要になる。直ちに発効するこれらの措置は、ファーウェイが、米国の技術を用いて開発・生産した電子部品を取得することによって米国の輸出規制を潜脱することを防止しようとするものである。

 2020年5月、BISは、長年通用している外国産品直接製品ルール(foreign-produced direct product rule)を改正して、米国のソフトウェアや技術の直接生産品ある半導体をファーウェイが取得することを規制しようとした。今回の改正は、外国産品直接製品ルールを以下のような取引にも適用することによってさらに精錬する:

 1) 米国のソフトウェアもしくは技術が外国産品の基礎になっていて、その外国産品がEntity Listに掲載されているファーウェイ企業が生産、調達、もしくは発注する「部品(part)」、「コンポーネント(component)」もしくは「装置(equipment)」の「生産(production)」もしくは「開発(development)」に組み込まれ/用いられている場合; もしくは
 2) Entity Listに掲載されているファーウェイがそのような取引において、「購入者(purchaser)」、「仲介業者(intermediate consignee)」、「最終業者(ultimate consignee)」もしくは「最終利用者(end-user)」等の当事者として関わっている場合。

 対象となる技術のECCN (Export Control Classification Numbers)コードは、以下のとおりである。
 ECCNs: 3D001, 3D991, 3E001, 3E002, 3E003, 3E991, 4D001, 4D993, 4D994, 4E001, 4E992, 4E993, 5D001, 5D991, 5E001, and 5E991.

 この改正は、ファーウェイが米国製の半導体を取得することを制限しているのと同じレベルで、米国のソフトウェア/技術から開発/生産された外国製の半導体を取得することをさらに制限するものである。
 米国商務省のWilbur Rossのコメントによれば、米国政府は、ファーウェイが中国共産党の政策目標を遂行するために米国産ソフトウェア/技術から開発/生産された高度な半導体を取得しようとしていると考えているようである。そして、ファーウェイがその関連企業を使い、第三者を介在させることによって、米国産ソフトウェア/技術を取得し、米国の安全保障や対外政策を阻害しようとしていることを阻止するのが今回の改正の目的であることを明言している。
 この改正により、外国産品直接製品ルール(foreign-produced direct product rule)は、変容し、Entity Listに掲載されているファーウェイ関連企業が取引の当事者(購入者、仲介受託者、最終受託者、最終利用者、等)として関わっている場合には、制限を受けることになる。
 この改正は、2020年8月17日付で発効、2020年8月20日付のFederal Registerにて公表されている。なお、同年8月17日よりも前に製造が開始された製品については同年9月14日まで新規規定の適用が免除されているため、同年9月15日から適用が及ぶことになる。
 対ファーウェイの米国の規制には一連の流れがある。2019年5月、BISは、国家安全保障を理由に、ファーウェイとその68の非米国関連企業をEntity Listに追加した。 2020年5月、米国技術/ソフトウェアを使う外国製品のファーウェイ向け輸出が禁止された。今般、ファーウェイから直接受託していない場合でも、ファーウェイ向けに生産される製品への米国技術/ソフトウェアの使用を禁止するものである。ここに至って、米国技術/ソフトウェアを使った半導体とファーウェイ製品の分断が図られることになった。

業界の反応

 上記改正が発表されると、ファーウェイ及びその関連企業から直接受注している企業のみならず、ファーウェイに半導体等を納入している企業から受注している企業や、ファーウェイに製品を納入していると考えられる企業から受注している企業が、早速、規制の対象にならないかを検討する必要に迫られた。
 そして、早くも、韓国の半導体メーカーは、米国商務省への許可申請を提出したと報じられている。
企業が規制の対象になるか否かを検討するにあたって、問題となる点もいくつかある。
まず、米国の輸出管理規則(EAR)の管轄に服するか否かを検討するにあたり、矮小ルールというルールがあり、当該矮小ルールの基準(対中国向け輸出については、規制対象である米国産品割合が25%)を超えなければ、EARの対象にならないと考えることが出来る。 しかしながら、矮小ルールとは独立して、外国産品直接製品ルール(foreign-produced direct product rule)が適用されることから、たとえ矮小ルールではEARの対象にならないという基準を充たす場合にも、上記改正された内容の外国産品直接製品ルールに従って、米国のソフトウェアや技術が用いられている場合には、対象になる。
 また、用いられている技術が対象技術に該当するかについては、上記ECCNコードの内容に照らして、その検証が必要である。
 さらに、「米国外にある工場の主要なコンポーネント」("A major component of a plant located outside the United States")の意味として、上記最終改正法に先立つ、Interim final Rule においては、指定企業(ファーウェイ等)向けに生産・開発される製品の仕様(specification)を充足するのに必要(essential)な装置がこれに該当すると規定されていた。しかしながら、仕様(specification)を充足するのに必要(essential)か否かの判断は難しいというパブリック・コメントを受けて、この仕様(specification)の部分は削除され、指定企業(ファーウェイ等)向け生産・開発される製品に必要(essential)な装置は、これに該当すると整理された。
また、最終規定には、Interim final Ruleでは規定されていなかった、「外国産品には、完成品か仕掛品であるかを問わず、外国産品のウエハーを含む」("A foreign-produced item includes any foreign-produced wafer whether finished or unfinished")という規定が加わった。これにより、ウエハーの供給は認められる余地があるのではないかという解釈が封じられた。
上記のような点からも、米国当局は、米国の技術・ソフトウェアとファーウェイに供給される半導体との分断を図っていることが理解でき、その範囲は広範に及ぶと考えられる。
この点をいち早く捉え、許可申請手続きを開始したのが、上記の韓国半導体メーカーのような例であろう。
 問題は、許可を取得する際に、最終利用者証明、最終用途証明を取得することが出来るか、という点である。各メーカーにとっては、どこからどのような技術を調達しているかということは、重要な企業秘密でもある。これを開示してまで、米国の技術/ソフトウェアから開発・生産された半導体を必要とするか、反対に、ファーウェイ向けに供給するか、一つの判断のしどころであろう。
しかしながら、許可申請をしても、許可を取得することが出来るかということについて楽観視は出来ない。米国政府がファーウェイのことを中国共産等の目的達成のために活動をしている団体とみなしている限り、これへの半導体関連技術の提供について国家安全保障上の問題ありとすることは、十分考えられるところである。

半導体業界に及ぼす影響

 半導体業界は、原材料から部品、生産技術、生産機械、ソフトウェア、等をそれぞれ調達し、前工程といわれる拡散工程と後工程と言われる組立工程を経て、完成品となっていく。原材料から完成品まで全てを一国で賄うことはほとんどなく、クロスボーダーで、調達が行われ、生産が行われ、物流を経て、販売をされる。いわば全世界的な協同作業が必要になる。技術開発にも莫大な投資を必要とする。その中にあって、日米半導体摩擦や、韓国・台湾等のメーカーの台頭、等を経て、米国は、一貫して半導体産業に力を注ぎ、しのぎを削ってきた。米国の技術・ソフトウェアを完全に排除して半導体を生産することは、難しい。
 新しい改正法を、全世界の半導体関連企業が遵守した場合、ファーウェイの生産は大きな痛手を被ることになり、またそれが米国の狙いでもあると考えられる。
 半導体は産業のコメである。半導体の調達に支障をきたした場合、ファーウェイ、ひいては中国の5G技術の展開は大きな影響を受けると考えられる。
 他方、長い目で見た場合、米国が自国の技術やソフトウェアを囲い込むという手段を一旦とった以上、ファーウェイや中国企業側、あるいはその供給網に参画する企業は、米国の技術・ソフトウェアに依存しないかたちでの生産を今後目指していくことになるであろう。
 まさに、半導体をめぐる米国の技術・ソフトウェアとそれを組み込んだ中国製品の「分断」が生じようとしている。その間で、あるいは周辺で、関連する企業は、米国輸出規制法の改正に右往左往することになる。
 では、果たして、そのような周辺の企業は、米国の技術・ソフトウェアか、もしくは中国製品への供給か、の二者択一の選択をしなければならないのであろうか。
 2020年9月15日、国内の半導体メーカーは、相次ぎファーウェイ向け出荷を停止した。

中国の反応―TikTokをめぐる対応―

 半導体をめぐる米国と中国のテクノロジー競争と期を同じくして、中国のByteDance(北京字節跳動科技)(バイトダンス)社が開発運営しているモバイル向けショートビデオプラットフォームであるTikTok(ティックトック)をめぐって米国と中国が対立を深めている。
 TikTokについて、米国政府は、中国の運営企業であるバイトダンス社にその米国事業の閉鎖か売却を迫っている。2020年8月6日、トランプ大統領は、大統領令(Executive Order)で、TikTokについては、検閲やプライバシー侵害が疑われており、国家安全保障やプライバシー保護の観点から、その利用を制限する必要があるとする。米国政府は、既に国土安全保障省(The Department of Homeland Security)、運輸保安庁(Transportation Security Administration)、 及び米軍(the United States Armed Forces)によるTikTokの利用を禁止していた。当該大統領令は、2020年9月20日を期限として、米国企業などのバイトダンス社との「取引」(transaction)を禁止する措置をとる。 また、これに先立つ2020年8月3日、トランプ大統領は、ホワイトハウスで記者に対して、TikTokは、2020年9月15日ころまでに、マイクロソフト社もしくはその他米国に拠点を有する企業に売却されない限り、米国の事業を終了することを求めると述べた。 禁止の根拠は、国家緊急権限法(the International Emergency Economic Powers Act (50 U.S.C. 1701 et seq.)) (IEEPA)、 国家緊急法(the National Emergencies Act (50 U.S.C. 1601 et seq.))、 及び 合衆国法典section 301 (section 301 of title3、 United States Code)である。
 これに対し、中国当局は、2020年8月28日、「輸出禁止・制限技術リスト」の改訂を発表し、 そこには、人工知能(AI)も含まれていた。 TikTokが米国企業に売却された場合でも、AIが売却対象に含まれていないことになれば、買う側としては、旨味がなくなる。中国当局による対抗手段と言われる所以である。 TikTokは、米国での利用者も多く、その売却については買い手として複数の米国企業が名乗りを上げている。それだけ、魅力があるのだと考えられる。そのようなプラットフォームが国家安全保障上の脅威と考えられ、そこにもテクノロジー競争、さらにはデータをめぐる競争が繰り広げられる。

今後の方向性

 米国政府による、半導体をめぐる米国技術・ソフトウェアとファーウェイの「分断」により、中国半導体の脱・米国依存は進むことになるだろう。これは、これまで、輸出規制がとられた場合に導かれた帰結である。中国が希少金属の輸出規制を行った際には、各国は他の代替手段を模索・開発した。日本政府が半導体製造材料について対韓輸出規制を行ったことにより、韓国は自国産業も含めた代替入手先を開拓した。
 惜しまれるのは、半導体の開発・発展がまたしても、国際関係によって阻害されることである。半導体は産業のコメであり、かつ、開発に莫大な時間と費用がかかる。開発に成功した場合に特許を取得して、これを共有することにより、その技術は時間軸とともに発展してきた。また、生産・販売網がグローバルに展開されることにより、全世界的に技術が受け継がれ、雇用を生み、生活を発展させてきた。日本の半導体メーカーが英国に半導体の生産工場を建設した際には、エリザベス女王のご訪問を受けたほど、その国際的展開は、各国で歓迎されてきた。ここまで張り巡らされた半導体の開発・製造・販売の供給網が、米中テクノロジー競争によって「分断」されるのは忍びないが、米ソ冷戦下のココム規制で見た既視感も同時にある。
 米中当事国以外の立場としては、米国か、中国かで踏み絵を踏まされる状況を回避する道を探りたいところである。むしろ反対に、半導体やテクノロジーをめぐるダイナミズムが変容する機会に、これまで膠着状態に陥っていたことを進展させる機会とは出来ないだろうか。
 数値目標を設定してまで自国の半導体を売りつけていた米国が自国の技術・ソフトウェアをアジアの特定の企業に提供しないことによりぽっかり空いた穴は、状況は変化するとはいえ、誰かが埋めることになる。半導体の開発競争は、一旦脱落すれば、復帰するのは至難の業である。米国の技術・ソフトウェアに代わりうる技術を有する企業は、発展の余地を広げるであろう。
 短期間で終わるのか長期間に及ぶのかは現時点では不明であるが、仮に短期であれ、ファーウェイが米国の技術・ソフトウェアから分断されれば、ファーウェイの競争力への影響は避けられないと考えられる。5Gで先行するファーウェイの競争相手にとっては、追いつく機会が与えられるかもしれない。

「分断」とテクノロジー競争がもたらすもの

 市場は生ものであり、同じ事象も、いいようにも悪いようにも転びうる。
 テクノロジー競争それ自体が悪であるとは一概には言えない。健全な競争であれば、そこから新たな発展も生まれるからである。
 但し、それが「分断」とセットとなると、第二次大戦前のブロック経済を想起させる。囲い込みは仮想敵を作り、不毛な争いを惹起することは、我々が歴史から学んだことである。
 第三国あるいは第三国企業の立場としては、「米国・中国どちらにつくか」というような挑発には乗らずに、囲い込みの原因と疑われていることについて、透明性を高めることにより解消を促し、この「分断」を緩和する方向に進めたい。そこで、役割を発揮するためには、自らの競争力を高めることも重要な要素となる。日本及び日本企業の出番ももちろんあるはずである。半導体で世界一のシェアを誇っていた我が国の技術力の底力は消え去ってはいないはずだから。

出典

・*1 "Commerce Department Further Restricts Huawei Access to U.S. Technology and Adds Another 38 Affiliates to the Entity List"
https://www.commerce.gov/news/press-releases/2020/08/commerce-department-further-restricts-huawei-access-us-technology-and

・*2 Federal Register Vol.85, No.162/ Thursday August 20, 2020/ Rules and Regulations, at 51596
https://www.bis.doc.gov/index.php/documents/regulations-docs/federal-register-notices/federal-register-2020/2593-85-fr-51596/file

・*3 拙稿「米国輸出管理改革法(ECRA)とファーウェイ規制」(日経リサーチ グローバル・マーケティング・キャンパス、2019年7月3日)
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=1089

・*4 De minimis Rule and Guidelines
https://www.bis.doc.gov/index.php/documents/pdfs/1382-de-minimis-guidance/file

・*5 Interim Final Rule
https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2020-05-19/pdf/2020-10856.pdf

・*6 日本経済新聞 2020年9月16日朝刊

・*7 Executive Order dated August 6, 2020
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/executive-order-addressing-threat-posed-tiktok/

・*8 Washinton Post, August 3, 2020, "Speaking to reporters at the White House, Trump reiterated that he wants TikTok to be forced to cease operations in the United States by around Sept. 15 if it is not sold to Microsoft or another U.S.-based company."

・*9《中国禁止出口限制出口技术目录》调整内容
http://images.mofcom.gov.cn/fms/202008/20200828200911003.pdf

・*10 Wall Street Journal、 August 30、 2020
https://www.wsj.com/articles/china-tightens-ai-export-restrictions-11598703527

末冨 純子

弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)(ベーカー&マッケンジー法律事務所)、 早稲田大学法学部非常勤講師、日本国際経済法学会所属、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、財務省関税・外国為替等審議会専門委員

国際通商法、経済法、商取引法等を中心に実務に携わる。

<主要著作>
『Q&A FTA・EPAハンドブック』(民事法研究会、2013)
『国際投資仲裁ガイドブック』(中央経済社、2015)
『書式 会社非訟の実務』(共著、民事法研究会、2008)等多数

 
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