トップ  >   プログラム  >   特別講義 -専門家に聞く-  >   外為法改正の出資規制

プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

外為法改正の出資規制

末冨 純子

弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)、 早稲田大学法学部非常勤講師、日本国際経済法学会所属、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、財務省関税・外国為替等審議会専門委員

プロフィール詳細

アカデミック|グローバル|2020年03月13日

はじめに

 外為法改正案は2019年11月の臨時国会で成立した。同改正案は外国の投資家が日本企業に投資する際の事前届け出基準を持ち株比率で10%から1%に引き下げるとともに、新たに届出免除制度を導入する等投資家の負担軽減策を講じることが柱である。
 2020年5月の施行を目指している同改正法について、具体的な運用を定める政省令案や告示案が検討されてきた。
 具体的な施行内容及び施行による経済や産業への影響について検討する。

改正の背景

 対内投資規制を含む今回の改正にはいかなる背景があるのか。
 本件外為法改正は産業構造審議会通商・貿易分科会安全保障貿易管理小委員会中間報告(2019年10月8日付)を受けて行われる。同中間報告は対内直接投資管理について以下の背景を指摘する。*1

(1) 対内直接投資を巡る安全保障の観点からの国際的な懸念の高まり
 2019年3月にOECDが公表したレポート("Acquisition -and ownership-related policies to safeguard essential security interest") において、安全保障上の利益を保護するため、会社の資産買収を管理する伝統的な領域から投資を通じた会社への影響力の行使(技術やデータへのアクセス等)を管理する領域へと投資管理の対象範囲の拡大に対応する動きについての指摘がある。この中では、対内直接投資に関する新たな懸念事項領域として、①重要インフラ(Critical Infrastructure。鉄道、水、電力等)支配に対する懸念の増大、②デジタル化の進展による個人情報の安全保障上の重要な資産への変容、③先進技術へのアクセス増加、④サイバーセキュリティ懸念の増大、⑤サプライチェーン条の重要企業に対する支配の増大――が挙げられている。

(2) 欧米諸国における対内直接投資管理の強化の動向
 ①米国における対内直接投資管理強化の動向
 2018年8月13日、2019年国防授権法が成立したことにより、国防予算の投入による最先端技術のR&Dの推進だけでなく、FIRRMAの成立に伴う対米外国投資委員会(CFIUS)による対内直接投資管理の強化が決まった。*2
 ②欧州諸国における対内直接投資管理強化の動向
 EUでは、加盟国間で対内直接投資管理に有益な情報を交換するため、情報交換枠組みの規定を盛り込んだ新規則が2019年4月に発効した。また、EU各国でも共同管理対象の追加・株式等取得数に係る閾値の引き下げ、違反の場合の制裁強化、対内直接投資管理の強化が進められてきた。

(3) 対内直接投資を巡る日米欧連携
 2018年5月の日米欧三極による第3回三極貿易大臣会合では、技術及び知的財産の獲得や(投資実施国の)国内企業への技術移転を目的とした外国企業及びその資産への投資・買収を阻止するための投資管理等に関するベストプラクティスの共有及び、必要に応じて、協調するための枠組み構築の必要性について、議論が行われた。その後の三極貿易大臣会合でも、国の安全等に係る対内直接投資を効率的かつ確実に捕捉するため、先進国政府間の密な情報交換の必要性が確認された。*3

改正の概要

 上記背景に鑑み、今回の改正の趣旨は安全保障の観点からの投資規制であり、安全保障上問題のない投資まで制限する趣旨ではない。よって、安全保障上問題とない投資の一層の促進を図りつつ、国の安全等を損なうおそれのある投資への適切な対応を行うものである。

(1)事前届け出免除制度の導入
 一定の基準を遵守し、国の安全等を損なうおそれがないとみなされる対内直接投資について、事前届出を免除する制度を新設した。
 対内直接投資案件の大半を占めるポートフォリオ投資等は、免除の対象となる。
 免除対象明確化と負担軽減のために以下のような対応をする。
 ▷外国証券会社が自己勘定で行う取引は対象銘柄に関わらず、事前届出免除の対象とする。(顧客勘定で行う取引は引き続き当該顧客が届出義務を負う。)
 ▷外国銀行、外国保険会社及び外国運用会社が行う取引は、対象銘柄に関わらず、事前届出免除の対象となる。
 ▷外国証券会社、外国銀行、外国保険会社及び外国運用会社が行う免除後の事後報告の閾値は、現状(10%)より加重しない。
  国の安全等を損なうおそれがある投資は、免除の対象外として政令・告示により外形的に明確化した。以下のものは対象外となる。
 ▷次に該当する投資家
 ・過去に外為法違反で処分を受けた者
 ・国有企業等
 ▷指定業種のうち、国の安全等を損なうおそれが大きいもの(主要例)
 ・武器製造、原子力
 ・電力、通信

 対内直接投資等が国の安全等に係る投資等に該当しないための基準の遵守義務を課す。届出免除を受ける投資家が守るべき基準として以下を定める。
 ▷外国投資家自ら又はその密接関係者が役員に就任しないこと。
 ▷従業事業の譲渡・廃止を株主総会に自ら提案しないこと。
 ▷国の安全等に係る非公開の技術情報にアクセスしないこと。

 上記基準を遵守せずに無届無届けで投資等を行った場合には勧告、命令を行い、命令違反の場合には株式売却命令等の必要な措置をとることにより、免除基準の遵守を担保する。

(2)事前届け出対象の見直し
 事前届出対象となる上場会社の株式取得の閾値を10%から1%に引き下げた。1%は、会社法上の株主総会における議題提案権行使のために必要な総株式に占める議決権の割合と同じである。*4
 国の安全等に関わる技術情報の流出・事業活動の喪失につながる株式取得後の行為類型として、「役員への就任」や「重要事業の譲渡・廃止」を追加した。

(3) 「対内直接投資等」の定義の拡大
 以下の事項を「対内直接投資等」に追加することにより、「対内直接投資等」の定義を拡大した。
 ・会社の経営に重要な影響を与える事項に関し行う同意。
 ・居住者である法人からの事業の譲受け、吸収分割及び合併による事業の承継。

(4) 外国投資家の定義の見直し
 投資組合等であって、非居住者である個人等による出資の金額の総組合員による出資の金額の総額に占める割合が100分の50以上に相当するもの等を「外国投資家」の定義に追加した。*5

(5) 国内外の行政機関との情報連携の強化
 外国の執行当局に対し、その職務の遂行に資する情報の提供を行うことが可能となる。

事前届出対象業種

 事前届出が必要となる業種は以下のとおりである。

(1)「国の安全」に関するもの
 武器、航空機、原子力、宇宙関連、軍事転用可能な汎用品の製造業、サイバーセキュリティ―関連

(2) 「公の秩序」に関するもの
 電気・ガス、熱供給、通信事業、放送事業、水道、鉄道、旅客運送

(3) 「公衆の安全」に関するもの
 生物学的製剤製造業、警備業

(4) 「我が国経済の円滑運営」に関するもの
 農林水産、石油、皮革関連、航空運輸、海運

米国の対内投資規制FIRRMAとの関係

(1) FIRRMAの枠組みを踏襲―「支配を及ぼさない」投資、外国政府の影響下にある投資も審査対象に
 これまでみてきたように、今回の外為法改正による投資規制は、FIRRMAによる安全保障を理由とする、特に外国政府による防衛上重要な意味をもつ資産・技術への投資を規制する趣旨と軌を一にすると考えられる。
 従前米国の投資規制は、"US Business"(米国企業)に対する支配につながりうる投資のみを対象としていたが、支配を及ぼさない投資であっても、重要インフラ、重要技術等を有する米国企業への投資で非公開技術情報を獲得出来るもの等を審査対象に追加した。
 また、米国は事後介入方式を基本としているが、外国政府による相当程度の影響がある者が重要インフラ、重要技術等を有する米国企業に対して影響力を持ちうる投資を行う場合に、事前申告を義務づけた。
 さらに,FIRRMAは、外国政府との情報交換規定を新設した。
 このようなFIRRMAの特色は,上記のとおり事前届出義務を課し、その対象を拡張する本外為法改正にも反映されている。

(2) 日本企業の投資に対するFIRRMAの重畳的適用の可能性
 FIRRMAにおける"US Business"の定義は,a person engaged in interstate commerce in the US (米国事業関与者)とされているが、その範囲は明確ではない。従前は"US Business"は、
 ①米国企業
 ②米国に子会社又は支店を有し、かつ、米国との取引がある非米国企業
とされていた。
 外為法の対内投資規制の対象となる日本企業が、上記"US Business"にも該当する場合、FIRRMAの適用も受ける可能性がある。その場合、その適用範囲の重なり具合を確認する必要がある。

日本の対内直接投資への影響

 今回の外為法の改正により、事前届出対象となる上場会社の株式取得の基準が持ち株比率の10%から1%に引き下げられたことをもって、外国投資家を遠ざけることにならないかと懸念する声もある。
 確かに、事前届出の対象にならないか、免除の対象にならないか、免除のための義務を遵守しているか等、確認すべき点は増えたとも考えられる。
 他方、上記みたとおり世界的な潮流に照らせば、対内直接投資の審査対象・権限の拡大は必要な動きであり、それを踏まえた上で、投資が委縮することがないように円滑に手続きを遂行することに意を払うのが合理的な対応であると考えられる。

出典:財務省「『外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案』について」2019年10月25日改訂

出典:財務省「『外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案』について」2019年10月25日改訂

業界の対応

 今後、改正法の施行までの間により特定されると見込まれる事前届出事業を絞り込み、その対象となった場合には、届出義務を看過しないようにする必要がある。
 事業が特定されるまでの間にはパブリック・コメント等で、その意見を提出することも出来る。
 対象や義務が確定した段階で、対象か否か、いかなる義務を負うのかを確定し、それを遵守した上で、対内直接投資に対処することになる。
 世界的潮流を踏まえることは避けては通れないことであるが、そのことが投資の委縮に繋がらず、むしろ、適正かつ活発な投資を喚起するように、市場で活躍する投資家に浸透することが望まれる。

*1 産業構造審議会 通商・貿易分科会「安全保障貿易管理小委員会中間報告」2019年10月8日、5-7頁
*2 FIRRMAについては、拙稿「技術的優位性への闘い~米国、新たな投資規制「FIRRMA」導入」(日経リサーチ・グローバル・マーケティング・キャンパス、2018年12月25日)ご参照
国防授権法の成立及び米国輸出管理改革法(ECRA)の成立については、拙稿「米国輸出管理改革法(ECRA)とファーウェイ規制」(日経リサーチ・グローバル・マーケティング・キャンパス、2019年7月3日)ご参照
*3 第4回三極貿易大臣会合共同声明
https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180925004/20180925004-2.pdf
*4 会社法上の公開会社において、議題提案権を行使できるのは、総株主の議決権の1%以上(定款で引下げ可)の議決権、または300個以上(定款で引き下げ可)の議決権を6カ月前(定款で短縮可)から引き続き有する株主に限られる
*5 従前、投資事業有限責任組合のように「法人格のない事業体」に拠出された投資ファンドによる投資は、外国投資家である組合員が届け出る必要があったが、上記の場合には、組合自体が外国投資家として届出が可能になる

出典

・財務省「『外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案』について」2019年10月25日改訂

・財務省「外為法改正案についてのよくある質問」2019年10月25日

・財務省「外為法改正について」(関税・外国為替等審議会 外国為替等分科会 配布資料)2019年12月26日

・財務省「対内直接投資審査制度について」(関税・外国為替等審議会 外国為替等分科会 配布資料)2019年8月22日

関連ページ

・機能不全のWTO紛争解決機関、改革が急務に
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=1136

・【世界の統計局】
https://gmc.nikkei-r.co.jp/stat/

末冨 純子

弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)、 早稲田大学法学部非常勤講師、日本国際経済法学会所属、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、財務省関税・外国為替等審議会専門委員

国際通商法、経済法、商取引法等を中心に実務に携わる。

<主要著作>
『Q&A FTA・EPAハンドブック』(民事法研究会、2013)
『国際投資仲裁ガイドブック』(中央経済社、2015)
『書式 会社非訟の実務』(共著、民事法研究会、2008)等多数

 
PAGETOP