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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

海外拠点のコンプライアンスマネジメント

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

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グローバルマネージメント|グローバル|2020年02月05日

 海外拠点におけるコンプライアンス・マネジメント(コンプライアンス状態を適切に管理すること)の留意点について述べる。人が不正を行うときは、「動機」と「機会」の両方が同時に存在する。この動機と機会は「社会」という環境の影響を受ける。というのも、社会は社員の価値観やその優先順位、組織の成り立ちやマネジメントスタイルに影響を与え、その結果、その国特有の動機と機会のパターンが生じるからだ。日本と海外では、不正の動機と機会は同じではないと言える。

全拠点共通の研修に限界

 グローバル共通のコンプライアンス方針を設け、共通のコンプライアンス研修を行い、通報制度を設ける企業は多い。しかし、上述の点を十分に考慮せずに行うものは、効果を過大に期待して失望したり、「やるだけはやった」という本社の自己満足で終わったりする。

 本稿ではコンプライアンス後発国を例にとり、どのような動機に注意すべきか解説する(機会については本稿では触れない)。なお、コンプライアンス(compliance)の意味は「法令を守ること」であるが、広義にはこれにビジネスエシックス(business ethics)を含むことが日本では多い。しかし本稿では、まずは基本となる法令遵守、つまり「不正」(財務報告書の不正、現金・在庫・情報など資産の不正流用、利益相反・賄賂などの汚職)の防止に焦点を絞ることとする。

コンプライアンス後発国に共通する不正の動機

 コンプライアンス後発国と本稿で呼ぶ場合は、社会全体に不正が蔓延しており、人々の不正に対する意識も低い国を意味する。アジアや中南米の一部の国を念頭においているが、その限りではない。断っておくが、後発という状況は現時点でのものであり、特定の国が未来永劫コンプライアンス後発国である、と言っているのではない。

 コンプライアンス後発国にある海外拠点の社員が不正を行うときの動機の特徴が4つある。以下順に述べていく。

 まず、多くのコンプライアンス後発国で共通しているのが、急速な経済発展による格差の拡大である。しかも圧倒的な富は、不動産価値の高騰や社会や組織内での地位をテコにして得られたものであり、こつこつ働いた結果得られるものではないことが多い。
 そのような環境下では、他人が享受する豊かさを目にすることが不正への引き金になることがある。社員が高級車に乗っている、高価な宝飾品を身に着けたりしている、出退勤状況が悪い――など社内で噂があるので調べた結果、会社の金品横領等の不正が発覚することがある。豊かさへの憧れが不正の動機になるケースは少なくない。

 2つ目の動機は、社会保障制度の不備に起因する困窮状態である。アジアでは、正規雇用か非正規雇用かという雇用形態によらず企業に社会保障制度への支出を義務付ける国が多い。他方、中南米では非正規労働人口の割合がアジアと同じかそれ以上に大きく、その非正規労働者は社会保障制度が適用されないことが多い。世帯メンバー全員が社会保障制度で守られている日本からはあまり想像できないかもしれないが、これらの国では家族の病気治療費を捻出する必要性が不正の動機になり得る。

厳しい業績主義、不正の温床に

 3つ目は厳しい業績主義である。語弊があるかもしれないが、日本でも、コンプライアンスに多少目をつぶっても業績をあげることが重要だと考えられてきた。しかし、コンプライアンス後発国における業績主義は日本の比ではない。経営層の報酬は株価連動型であり、業績目標未達は解任を意味する。また、一般社員であっても営業社員などノルマを課されるホワイトカラー職種では業績主義は厳しく、ノルマ未達でクビとなることも珍しくない。自分のノルマを達成するために顧客に押し込み営業を行い、後で「お礼」として個人の財布からキックバックを行う、といったことが起こり得る。

ロイヤルティー、会社より身内により高く

 家族や出身コミュニティーへのロイヤルティーが強く、相対的に会社へのロイヤルティーは低い、というのもコンプライアンス後発国の特徴である。社会階層意識がそのまま職場に持ち込まれるため、「同じ組織の一員」としての共通認識をもつことが難しい。親族が経営する会社に便宜をはかったり、友人のノルマ達成に協力したりすることは今働いている会社での部長や課長としての役割よりもはるかに重要である。仕事で苦楽を共にし同じ釜の飯を食えば、会社という一つの家族ができる、と考える日本人とは違うのである。転職しやすい環境にある場合、不正が見つかったらやめればよい、といったノリで不正を行う人もいる。

 コンプライアンス後進国で働く社員の動機について述べたが、重要なことは、本社が各拠点の社員を取り巻く社会環境を理解し、社員の価値観や優先順位、組織の成り立ちやマネジメントスタイルを踏まえてコンプライアンス対策を講じることである。

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森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

オフィスグローバルナビゲーター代表として、グローバルビジネスの組織・人に関するコンサルティングを提供。

 
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