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第2期ジョコウィ政権発足、経済課題を強調

川村 晃一

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アカデミック|アジア・オセアニア|インドネシア|2019年12月10日

 4月の大統領選挙で再選を果たしたジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領の第2期政権が発足した。今回は10月20日に行われた就任演説の中身と、10月23日に発表された新内閣の陣容を通して第2期ジョコウィ政権の行方を考える。

就任演説で政治・外交課題に触れず

 ジョコウィ氏は就任演説で「インドネシアが2045年の建国100周年に世界5大経済大国となることが夢である」と述べ、そのためには勤勉に、素早く、生産的に働くことを国民に呼びかけた。とくに、公務員に対して手続きではなく結果を優先するように求めたことは、第1期政権で官僚主義的手続きを打破しようとしながらなかなか結果の出なかったジョコウィ氏の苛立ちが示されていた。
 そのうえで第2期政権が取り組むべき優先課題を5つあげた。第1に科学技術に精通した人材を育成するため人的資源を開発する。第2にインフラを開発することで生産・流通網を改善し、観光の振興や中小企業の育成につなげる。第3に規制を緩和するため、雇用機会創出法と中小企業法を新たに制定する。第4に行政職を削減し専門職を増やすことで行政手続きを簡素化する。第5に経済改革を進めて資源依存体質から脱却し、産業の競争力を強化するとともに新サービス産業を育成する。
 これらの課題は「デジタル経済化の推進と、そのための人材育成」というジョコウィ氏の選挙公約に基本的に沿うものであるが、その多くは第1期政権の時からすでに取り組んできたものである。その意味で、この5年間で積み残された経済的な課題に引き続き取り組むという大統領の意志が表明されたものであった。

 一方で今回の就任演説でジョコウィ氏は政治課題や外交課題について一言も触れなかった。イスラム保守派と世俗派の間の社会的分断が深刻化したり、暴力によって民主主義を否定する動きが見られたり、地方での暴動など国家統一を揺るがすような事件が発生したり、汚職撲滅の取り組みを逆行させる法律が成立したりした。
 こうした「この国のかたち」を揺るがすような出来事が大統領選挙から政権成立までの半年間に数多く発生したにもかかわらず、これらの点について何ひとつ言及しなかった。経済が優先課題であったとしても、政治や社会でさまざまな問題が噴出しているなかで、国家指導者として何らビジョンを示さなかったことは、ビジネスマンとしての同氏の性格をよく表しているとも言える。

バランスをとった閣僚人事

 大統領就任から3日後に閣僚が発表され、内閣が発足した。第1期政権の内閣は「働く内閣」と名付けられたが、第2期は就任演説で触れられた2045年の5大経済大国入りを目指すという意味で「先進インドネシア内閣」と名付けられた。
 今回任命されたのは、閣僚34人と大臣級ポストの4人からなる38人である。このうち政党政治家には18ポスト(47%)が配分され、政党出身閣僚の内閣における割合は第1期とほぼ同程度に維持された。ただし、大臣級ポストを除く閣僚ポスト34だけでみると、政党政治家は17人で半数となる。これは、第1期政権で野党から与党に鞍替えした2政党に閣僚ポストを配分した後の数値と同じである。
 インドネシアでは、連立政権に参加する政党に閣僚ポストを配分するだけでなく、イスラム団体などの社会組織、出身民族、出身地など国の多様性に配慮して組閣される。それは今回の組閣においても同様である。なお、閣僚の平均年齢は約58歳で、第1期から5歳ほど上がった。女性閣僚は5人で、第1期から3人減った。
 閣僚任命の2日後には12人の副大臣が任命された。副大臣の人数が第1期の3人から大幅に増えたのは、閣僚ポストの配分だけではバランスが取れなかった部分を補うという意図があったと思われる。大統領選でジョコウィ氏を支持・支援しながら、議会選では議席獲得のための最低得票率をクリアできずに敗退した政党の政治家や、出身地のバランスに配慮したと思われる人物が副大臣に任命されている。

安定・治安重視の布陣、経済閣僚は継続重視

 今回の閣僚人事から見えるのは、ジョコウィ氏の安定・治安重視と経済運営の継続性重視の姿勢である。一方で、同氏が重要政策と考えている分野には、自らと関係の近い若手実業家が多く任命された。
 治安重視の姿勢は内務相と宗教相人事に表れた。内務相に任命されたティト・カルナフィアン氏は直前まで国家警察長官を務めており、ジョコウィ氏の信頼も厚い。以前は対テロ部隊を率いるなどイスラム過激派によるテロ事件の捜査で辣腕を振るってきた。一方、退役軍人のファフルル・ラジ氏が任命された宗教相人事も、イスラム過激派対策を目的としている。
 経済関係の閣僚は、留任や他のポストでの再任となった人物が多い。財務相はスリ・ムルヤニ氏が留任し、引き続きマクロ経済と財政運営を担当することになった。ルフット・パンジャイタン海事・投資担当調整相をはじめ、公共事業や運輸といったインフラ関連の閣僚は軒並み留任した。
 第2期政権の重点政策分野については、ジョコウィ氏と近しい実業家が目立つ。経済開発やインフラ開発における戦略的主体と見なされている国営企業を束ねる大臣には、メディア企業家のエリック・トヒル氏が任命された。今後の経済発展の柱となる創造経済と観光開発を担当する省庁の大臣にも、メディア企業家のウィシュヌタマ・クスバンディオ氏が登用されている。
 教育・文化相にはオンライン配車・配送サービス会社ゴジェックの社長ナディム・マカリム氏を起用した。同氏は高校時代からシンガポールに暮らし、アメリカの大学に進学、さらにハーバード・ビジネススクールの大学院を卒業した。これらの経験を教育改革に活かし、デジタル時代に求められる人材を育成することが期待されている。

レームダック化回避、国民の支持がカギ

 今回の組閣でジョコウィ氏は2014年と2019年の2回の大統領選を戦った相手であるプラボウォ・スビアント氏率いる野党第1党のグリンドラ党を与党に引き入れ、2人を閣僚として迎え入れた。しかも、プラボウォ氏に対しては国防相という重要ポストがあてがわれた。
 これによって、連立与党は国会の74%を占める巨大勢力となった(図参照)。ジョコウィ氏は安定した政治基盤を手に入れたことになる。これで2期目のジョコウィ政権は安泰となるだろうか。
 たしかに連立与党は国会の約4分の3を占める安定勢力となったが、連立政権には6政党が参加しているため、連立内での意見や利害の調整にかかる手間は大きくならざるをえない。また、ジョコウィ氏は所属政党で議会第1党の闘争民主党(PDIP)内では一党員でしかないため、メガワティ・スカルノプトゥリ元大統領ら同党幹部の意向には常に気を配らなければならない。
 連立に参加する各政党から常に協力が得られるともかぎらない。憲法の規定でジョコウィ氏には3選がないため、連立を組む与党各党としても任期最後まで大統領に協力し続ける動機はないからである。各政党とも、2024年の大統領選に向けて、2022年の後半にはすでに選挙モードに突入する。政権のレームダック化は意外に早くやって来るかもしれない。
 政権のレームダック化を押しとどめられるのは、ジョコウィ氏に対する国民世論の支持しかない。しかし、4月の大統領選以降、ジョコウィ氏の支持率は低下する傾向にある。特に、グリンドラ党の政権加入とプラボウォ氏の国防相任命や、汚職取り締りに対する後ろ向きな姿勢は、ジョコウィ氏を強力に支持してきた市民グループの間に大きな失望を生んでいる。
 世論の支持が上向かなければ、ジョコウィ氏の求心力も低下する。次の大統領選を見据えている各政党にとって、人気のないジョコウィ氏にいつまでも付き合う義理はない。内閣のまとまりが欠けたままでは、政策遂行もままならない。第2期ジョコウィ政権の展望は決して明るくはない。

関連ページ

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川村 晃一

日本貿易振興機構アジア経済研究所 学術情報センター 主査
主な著書に、『新興民主主義大国インドネシア-ユドヨノ政権の10年とジョコウィ大統領の登場-』(編著、アジア経済研究所、2015年)、『東南アジアの比較政治学』(共著、アジア経済研究所、2012年)など。

 
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