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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

対韓輸出規制-輸出規制と通商紛争

末冨 純子

弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)、 早稲田大学法学部非常勤講師、日本国際経済法学会所属、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、財務省関税・外国為替等審議会専門委員

プロフィール詳細

アカデミック|アジア・オセアニア|韓国|2019年08月08日

はじめに

 2019年7月1日、経済産業省は対韓輸出規制についての2つの改正を発表した。1つは、3つの半導体材料の対韓輸出について、包括許可はもう適用せず、個別許可の申請が必要になるということ。もう1つは、韓国をいわゆる「ホワイト国」から外して、対韓輸出許可の必要性の検討をより厳格化するというものである。
 これに対して、韓国は国を挙げて日本を批判している。2019年7月24日に開催されたWTOの一般理事会において、韓国は日本政府の対韓輸出規制を議題とし、その撤廃を求めた。これに対して日本政府は、WTO協定違反にはあたらないという立場である。
 早期の解決は可能であるのか、長丁場になるのか。この輸出規制が市場にもたらす影響と、通商紛争の新たな局面に焦点を当てる。

対韓輸出管理厳格化の概要

 (1) 包括許可から個別許可へ
 経済産業省は2019年7月1日、「輸出貿易管理令の運用について」(昭和62年11月6日付け62貿易第322号・輸出注意事項62第11号)、「外国為替及び外国貿易法第25条第1項及び外国為替令第17条第2項の規定に基づき許可を要する技術を提供する取引又は行為について」(平成4年12月21日付け4貿局第492号)、「包括許可取扱要綱」(平成17年2月25日付け平成17.02.23貿局第1号・輸出注意事項17第7号)及び「輸出許可・役務取引許可・特定記録媒体等輸出等許可申請に係る提出書類及び注意事項等について」(平成24年4月2日付け平成24.03.23貿局第1号・輸出注意事項24第18号)の一部を改正することを発表した。
 2019年7月4日発効で、フッ化水素、フッ化ポリイミド及びレジスト並びにその関連技術の対韓輸出については、包括許可は適用されず、個別許可の申請が必要となる。
 また、韓国向けの輸出許可申請窓口は、経済産業局及び通商事務所から、本省安全保障貿易審査課に変更になった。

 (2) 「ホワイト国」からの除外
 2019年7月1日、経済産業省は輸出貿易管理令別表3のいわゆる「ホワイト国」から韓国を除外するという改正の手続きの開始を発表し、同年7月24日まで、この改正についてパブリック・コメントを募集した。政府発表によれば、4万件を超えるパブリック・コメントが寄せられた*1。同年8月2日、政府は韓国の「ホワイト国」からの除外を含む改正を閣議決定し、改正は2019年8月7日公布され、同月28日に発効する。

市場への影響~取引遅延の可能性も

 (1) 包括許可から個別許可への切り替えについて
 フッ化水素、フッ化ポリイミド及びレジスト並びにその関連技術の包括許可を取得して韓国に輸出している輸出者は、包括許可を適用することができなくなり、取引ごとに個別輸出許可を申請する必要がある。
 これら対象産品・技術を韓国に頻繁に、もしくは大量に輸出している輸出者は、個別輸出許可を取得する必要があることによって、取引に遅延が生じる可能性がある。
 フッ化水素、フッ化ポリイミド及びレジストは、半導体製造に不可欠な材料であり、本件改正によって半導体の全世界的な供給網に影響が及ぶ可能性がある。半導体は様々な原料及び部品から構成されており、互いに密接に結びついている供給者間のネットワークなしには成り立たないビジネスだからである。

 (2) 「ホワイト国」からの韓国の除外について
 仕向地が「ホワイト国」である場合、輸出許可の必要性についての判断を簡便に行うことができ、いわゆる「リスト規制品」という仕向地がどこであるかに関わりなく輸出許可が求められる機微な製品・技術の輸出・移転でない限り、輸出許可の取得を求められることは稀である。
 仕向地である韓国が非ホワイト国になると、輸出品・技術が「リスト規制品・技術」でない場合でも、輸出許可が求められることがある。軍民共用の製品・技術について韓国に輸出する場合、最終使用者、最終使用目的等を特定した上で、輸出者は輸出許可の必要性を判断することになる。
 当該改正によって、日本から韓国への関連製品の輸出・技術の移転に遅延が生じる可能性があり、供給網に影響を及ぼす可能性がある。

韓国、WTO紛争解決機関への協議要請も視野

 上記改正の発表は全世界に衝撃を与えた。
 2019年7月12日、経済産業省で日韓両政府間の事務レベルの説明会がもたれたが、議論は平行線に終始したもようで、解決には至らなかった。
 韓国は2019年7月23、24日にジュネーブで開催されたWTO(世界貿易機関)の一般理事会で、日本の対韓輸出規制を議題に挙げた。
 韓国政府はこのような措置がWTO協定違反であると主張した。
 これに対して、日本政府は輸出管理政策は各国の裁量で行わるものであると主張し、WTO協定違反には当たらないと説明した。
 本件措置の背景については、様々な憶測を呼んでいる。国家間の関係はそもそもが複雑で、一筋縄ではいかない。ただ本件においては、最も通商上の関心が高い製品・技術がその対象となり、世界的な供給網の重要な一翼を担う二国間での貿易への支障が懸念されることにより、通商問題と安全保障の問題が結びついてしまった。

 今後については、韓国政府はWTO紛争解決機関への協議要請も視野に入れていると報道されている。詳細は不明だが、考えられる主張としては、GATT第1条の最恵国待遇違反、同第11条1項の輸出数量制限の禁止の違反等の主張が考えられる。これに対して、日本政府はそもそもWTO協定で議論される問題ではないとしつつ、仮にこれがWTOで争われるとしても、今回の措置は国家安全保障上の理由に基づくものであり、韓国のWTO協定違反の主張に対してはGATT21条の安全保障例外等を主張することが考えられる。
 WTO上の貿易措置の安全保障例外に関して、その例外が認められるかという議論について、安全保障例外の抗弁が誠実に(in good faith)に行使されていることや、問題となっている措置が安全保障上の利益を守るための措置として非現実的ではない(not implausible)といえるのか等について、証拠の十分性も含めて検討することを肯定するのが、最近のパネル報告書の判断である(Russia - Measures Concerning Traffic in Transit (DS512)、 Panel Report、 paras. 7.132-7.135 and 7.138-7.139)*2。実際に本件の輸出規制が通商紛争として争われる場合、そのような機微な事項までが詳細に検討されることにならないだろうか。

求められる紛争解決の知恵

 今回の輸出規制によってビジネスの供給網に影響を受ける企業は、調達の手配が必要となる。粛々と個別許可申請を行う輸出者もあれば、供給網自体の変更を余儀なくされる製造者もあるであろう。かつて中国がレアアースの輸出規制を行った際に、中国への依存度の高さに改めて驚いた輸入者は調達先の多様化を試みた*3。今後の動きを見守りたい。
 その後、包括輸出許可が認められなくなった後の初めての上記半導体材料に対する韓国への個別輸出許可が2019年8月7日に発出された。申請から約1か月後のことである。日本政府は、本件は禁輸措置ではないという立場を貫く。
 他方、韓国政府は半導体材料の調達先の多様化について支援を行うことを発表した。また、韓国政府は同月12日、軍事転用の恐れがある戦略物資の輸出手続きを簡素化する優遇措置の対象国から、日本を除外すると発表した。意見公募を経て、9月中に関連制度を改正する。
 安全保障カードが切られると自由貿易は非常に脆弱なもののように映る。しかし、このような場合こそ、多彩な紛争解決のための知恵や技術の動員によって、早期に問題が解決することが望まれる。

出典

・*1 輸出貿易管理令の一部を改正する政令案 に関する意見公募の結果について
https://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000191010

・*2 Russia — Measures Concerning Traffic in Transit (DS512), Panel Report, paras. 7.132-7.135 and 7.138-7.139, (WT/DS512/R).
https://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/512r_e.pdf

・*3 塚越康記「日本のレアアース政策とWTO提訴-中国の輸出規制問題に対する意思決定の変遷-」,海幹校戦略研究 2015 年 12 月(5-2)
https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/review/5-2/5-2-5.pdf

・経済産業省、「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」:
https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190701006/20190701006.html

・WTO紛争解決事件:Russia - Measures Concerning Traffic in Transit (DS512)、 Panel Report、 paras. 7.132-7.135 and 7.138-7.139、
https://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/cases_e/ds512_e.htm

関連ページ

・米国輸出管理改革法(ECRA)とファーウェイ規制
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=1089

・ニューヨークの子供の夏休み、高額のサマーキャンプに驚く
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/overseas_detail/id=1091

・【世界の統計局】米国
https://gmc.nikkei-r.co.jp/stat_area/?search_ext_col_01=02&topics_ext_options_search=1#area248

・【アメリカ編】最新版(2019年版)レポート発売のお知らせ
https://gmc.nikkei-r.co.jp/salary/news_detail/id=1023

末冨 純子

弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)、 早稲田大学法学部非常勤講師、日本国際経済法学会所属、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、財務省関税・外国為替等審議会専門委員

国際通商法、経済法、商取引法等を中心に実務に携わる。

<主要著作>
『Q&A FTA・EPAハンドブック』(民事法研究会、2013)
『国際投資仲裁ガイドブック』(中央経済社、2015)
『書式 会社非訟の実務』(共著、民事法研究会、2008)等多数

 
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