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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

米国輸出管理改革法(ECRA)とファーウェイ規制

末冨 純子

弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)(ベーカー&マッケンジー法律事務所)、 早稲田大学法学部非常勤講師、日本国際経済法学会所属、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、法務省司法試験考査委員、財務省関税・外国為替等審議会専門委員

プロフィール詳細

アカデミック|欧州・ロシア・CIS|米国|2019年07月03日

はじめに

 米国で2018年8月に成立した2019会計年度の国防予算とその執行方針を定める国防権限法の2019年法(National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019=NDAA)*1には2つの大きな特徴があった。FIRRMA(Foreign Investment Risk Review Modernization Act=外国投資リスク審査現代化法)法案及びECRA(Export Control Reform Act=輸出管理改革法)法案の内容が改訂されて挿入・規定されたこと。もう1つは、米国政府機関に対し特定5社を含む一定の中国企業の通信・監視関連の機器・サービスの購入、利用その他を禁止する規定が設けられたことだ。
 FIRRMAについては、拙稿「技術的優位性への闘い~米国、新たな投資規制「FIRRMA」導入」で紹介した*2。
 ECRAについては、制定時の規定が対象の定義も含めて漠然としていたこともあり、パブリックコメントの収集を経て、今年中により詳細な内容が発出される予定である。ただ、米国政府が禁輸措置の対象とする企業を掲載したEntity Listにはファーウェイが新たに追加され、その影響が急速に広がっている。
 このような状況を捉えて、サプライチェーンや調達先の変更を余儀なくされる動きもある。しかし、より深刻なのは、最近の景気の減退感と相まって市場そのものが縮小することへの懸念である。ECRA及びEntity Listへのファーウェイ(華為)の追加という、米国輸出規制の現状を整理し、今後の展開を考える。

ECRA(輸出管理改革法)の概要

 (1) 法的枠組み
 ECRAは長きにわたって失効していたExport Administration Act of 1979(EAA=輸出管理法1979)を廃止し、EAR(Export Administration Regulations=輸出管理規則)に恒久的法的権限を付与する法律である。EARはEAAが失効してから、International Emergency Economic Powers Act(IEEPA=国際緊急経済権限法)にしたがって、大統領令(executive order)によって効力を付与されてきた。EARは核となる米国の商取引上のデュアルユース(軍民両用)、軍事物資、ソフトウェア及び技術の、輸出、再輸出及び国内輸送に対する規制を確立している。
 一方、ECRAは米国の国家安全保障上、特に中国によってもたらされる潜在的脅威に関して、必要な新興技術(Emerging technologies)と基盤的技術(Fundamental technologies)に対する追加規制を指定し賦課する、新しい国家機関における手続きを確立する。このような規定は、NDAAに含まれる別の規制(FIRRMA)に規定されているCommittee on Foreign Investment in the United States(CFIUS=対米外国投資委員会)に対する変更を補足するように設定されている。
 ECRAは、輸出許可要請及び輸出許可手続きに関する追加措置も含む。

 (2) 米国輸出規制の恒久的法的根拠
 ECRAはEARに恒久的な法的根拠を提供する。EARは米国商務省の産業安全保障局(U.S. Commerce Department's Bureau of Industry and Security=U.S. DOC BIS)によって管理されている現存の輸出管理法制である。EARは商取引上のデュアルユース(軍民両用)、軍事物資、ソフトウェア、及び技術の輸出、再輸出、及び国内輸送並びに、武器開発に関連する米国人の活動を規制する。商業ベース及び非商業ベースの機微な利用の軍民両用の製品は、通常、EARの商業管理リスト(Commerce Control List=CCL)の輸出管理分類番号(Export Control Classification Number=ECCN)で分類され、ECCN、仕向地、最終使用者、及び最終使用目的によって、輸出、再輸出、輸送についてBISの許可を要求される。2001年にEAAが失効してからは、IEEPA下の大統領施行令(Presidential executive orders)がEARの継続について権限を付与してきた。
 ECRAはEAAのほとんどを廃止し、EAA、 IEEPA、 あるいはEARの下で発行される輸出管理関連の規制緩和、ルール、規制、決定もしくは許可の新しい法的基礎を提供する。しかしながら、米国及びロシアやその他東側ブロックの国を含む特定の非米国連盟国の輸出規制に違反した外国人に対する制裁やミサイル開発、化学・生物兵器規制に違反する商業取引に関与する米国人及び外国人に対する制裁に関しては依然として効力を有する。これらEAAの制裁は、IEEPAの下、執行を継続する。
 さらに、ECRAはEARの反ボイコット規定に対する新しい法的基礎も提供する。EARの反ボイコット規定は米国人がイスラエルのボイコットのように、非制裁対象外国のボイコットに対して支援をすることを禁止し、このような外国のボイコットへの支援の要請については、米国商務省に報告をすることを義務づける。

「新興技術」(Emerging Technologies)と「基盤的技術」(Foundational Technologies)

 ECRA制定による最も重大な変化は、「米国の国家安全保障にとって必要不可欠である(essential to the U.S. national security)」が輸出の観点からは規制されていない新興技術と基盤的技術(emerging and foundational technologies)を特定する公式な政府内の手続きを創設したことである。ECRAは新興・基盤的技術を下位規則であるEAR(米国輸出管理規則)で具体的に規定し、規制することを規定した。ECRAは新興・基盤的技術の詳細を明らかにしていないが、FIRRMAのデータベースや、国防総省の報告によれば、この技術には、人工知能(artificial intelligence)、ロボティクス(robotics)、拡張現実(augmental reality)や仮想現実(virtual reality)並びに金融工学(financial technology)等が含まれると予想される。
 ECRA、Section 1758は商務省、国防総省、エネルギー省、国務省及び他の関連連邦政府機関に対して、以下のような要素を考慮して、「米国の国家安全保障にとって必要不可欠である」新興・基盤的技術を認定する恒常的な手続き(regular process)を設立した。
 
 (i)他国における当該技術の発展
 (ii)米国における当該技術の発展における米国輸出規制の効果
 (iii)外国に対する技術開発の制限における米国輸出規制の効果

 この新興・基盤的技術の新規制の背景には、開発中の重要技術が、輸出管理規制を行うことができるようになる前に、外国の企業・団体に知られたり、外国からの投資の対象になったりしていることがある。従って、輸出管理当局は従前に比べ、技術のライフサイクルのより早い段階から建設的に関与し、新興・基盤的技術を早期に特定し、実効的な規制を行う必要性が高まっていた*3。

 ECRAは米国国家安全保障に必要不可欠である新興・基盤的技術の定義を規定していない。そこで、BISはECRAに基づき、2018年11月19日、規制制定案事前通知(advance notice of proposed rulemaking)において新興技術(emerging technologies)について以下の14のカテゴリーを例とともに挙げて、その定義、認定基準、特定のための情報源、特定方法等について、30日間、パブリック・コメントを募集した*4。

 (1) Biotechnology (バイオテクノロジー)
 (2) Artificial Intelligence (AI) and machine learning technology (AI・機械学習)
 (3) Position、Navigation、and Timing (PNT) technology (測位技術)
 (4) Microprocessor technology (マイクロプロセッサー)
 (5) Advanced computing technology (先進コンピューティング)
 (6) Data analytics technology (データ分析)
 (7) Quantum information and sensing technology (量子情報・量子センシング)
 (8) Logistics technology (補給関連技術)
 (9) Additive manufacturing (e.g.、3D printing) (付加製造技術(例:3Dプリンター技術))
 (10) Robotics (ロボティクス)
 (11) Brain-computer interfaces (ブレインコンピュータインターフェース)
 (12) Hypersonics (極超音速)
 (13) Advanced Materials (先端材料)
 (14) Advanced surveillance technologies (先進セキュリティ技術)

 本件パブリック・コメントの提出期限は、2019年1月10に延期され、多数のパブリック・コメントが寄せられた。
 BISはこれらのコメントを踏まえて、2019年夏の終わり頃に新しいルールについての提案を行い、2019年末以降に新しいルールが設定されるのではないかという予測もあるが、その時期については確定していない。

Entities Listの拡大―ファーウェイ(華為)の追加-

 2019年5月21日付Federal Register(連邦官報)は、BISによるEARの改正を発表した*5。BISはHuawei Technologies Co. Ltd.(ファーウェイ、華為)をEntity Listに追加した。米国政府はファーウェイが米国の国家安全保障あるいは対外政策に反する活動を行ってきたと信じるだけの合理的な理由があると決定した。BISはファーウェイの非米国関連企業も米国の国家安全保障あるいは対外政策に反する活動に従事する危険性が高いとして、Entity Listに追加した。ファーウェイは中国向け輸出についてEntity Listに追加された。当該最終決定は以下の26仕向地に拠点を有するファーウェイの68の非米国関連企業もEntity Listに追加した:ベルギー、ボリビア、ブラジル、ビルマ、カナダ、チリ、中国、エジプト、ドイツ、香港、ジャマイカ、日本、ヨルダン、レバノン、マダガスカル、オランダ、オマーン、パキスタン、パラグアイ、カタール、シンガポール、スリランカ、スイス、台湾、英国及びベトナム。
 当該改正は2019年5月16日に発効した。
 Entity Listは米国の安全保障や対外政策に反する活動に関与していると信ずるに足る合理性が認められる団体、あるいは関与しているまたは今後関与する危険性が高い団体が掲載される。EARは掲載されている団体への輸出、再輸出、国内輸送に対して、追加的許可要求を賦課し、ほとんどの許可例外の許容性を制限する。
 米国政府はファーウェイのイラン関連の取引等を理由に、同社が米国の安全保障や対外政策に反する活動に関与していると信ずるに足る合理性が認められ、あるいは関与しているまたは今後関与する危険性が高いと判断した。

今後の対応

 今後、ECRAにおける新興・基盤的技術の内容が明らかになれば、今まで輸出規制の対象にならなかった技術が米国輸出規制の対象になる可能性がある。このことにより、米国の安全保障上の懸念に相当程度応えることになると考えられる。反面、技術の発展、国境を超えた技術発展・開発に対する阻害、ひいては、自由貿易に対する障壁になることが懸念される。
 ビジネスで活動するアクターとしては、米国輸出規制を遵守するというコンプライアンスの観点のみならず、より活動の自由度が制限される中で、いかにして自由な発想、開発、ビジネスの展開を確保するか、この点の戦略も先んじて検討する必要性に迫られるであろう。

出典

・*1 米国国防権限法2019 (National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019)
https://www.congress.gov/115/bills/hr5515/BILLS-115hr5515enr.pdf

・*2 末冨純子「技術的優位性への闘い~米国、新たな投資規制「FIRRMA」導入」(日経リサーチ グローバル・マーケティング・キャンパス、2018年12月25日)
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=1040

・*3 CISTEC、 「米国輸出管理改革法の新基本技術(Emerging and Foundational Technologies)新規制 及びCISTECパブコメ概要」2019年1月(2019年3月19日補足)
http://www.cistec.or.jp/service/uschina/2-0-cistec_pubcomme.pdf

・*4 Review of Controls for Certain Emerging Technologies - Advance notice of proposed rulemaking (ANPRM) (Federal Register、November 19、2018)
https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2018-11-19/pdf/2018-25221.pdf

・*5 Federal Register、2019年5月21日
https://www.federalregister.gov/documents/2019/05/21/2019-10616/addition-of-entities-to-the-entity-list

関連ページ

・日欧EPA発効とBrexitの行方
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=1053

・米ニューヨーク、自宅フィットネスに新潮流
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/overseas_detail/id=1076

・【世界の統計局】米国
https://gmc.nikkei-r.co.jp/stat_area/?search_ext_col_01=02&topics_ext_options_search=1#area248

・【アメリカ編】最新版(2019年版)レポート発売のお知らせ
https://gmc.nikkei-r.co.jp/salary/news_detail/id=1023

末冨 純子

弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)(ベーカー&マッケンジー法律事務所)、 早稲田大学法学部非常勤講師、日本国際経済法学会所属、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、法務省司法試験考査委員、財務省関税・外国為替等審議会専門委員

国際通商法、経済法、商取引法等を中心に実務に携わる。

<主要著作>
『Q&A FTA・EPAハンドブック』(民事法研究会、2013)
『国際投資仲裁ガイドブック』(中央経済社、2015)
『書式 会社非訟の実務』(共著、民事法研究会、2008)等多数

 
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