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ジョコウィ氏再選へ~インドネシア大統領選分析

川村 晃一

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アカデミック|アジア・オセアニア|インドネシア|2019年05月13日
膨大な作業に追われた投開票現場

膨大な作業に追われた投開票現場

 4月17日にインドネシアで国政選挙が行われた。投票は朝7時に始まり、午後1時に終了した。投票が終わると、そのまま各投票所で住民が監視する中で開票作業が始まった。この日は、大統領選に加えて、下院にあたる国会、上院にあたる地方代表議会、地方議会の州議会、県・市議会の各議員選挙も同時に実施されたため、投票所での開票作業は深夜・早朝まで続けられた。その後、開票結果はひとつひとつ上の自治体のレベルに集計されていき、総選挙委員会(中央選管)から最終の公式結果が発表されるのは5月下旬になる予定である。

勝利宣言控え、国民融和を呼びかけ

 ただし、各メディアと世論調査機関は出口調査や投票所での開票結果を独自に集計して速報を発表した。いずれも現職大統領のジョコ・ウィドド氏(通称ジョコウィ)の得票率が約55%、対するプラボウォ・スビアント氏の得票率が約45%とほぼ同じ値を示しており、公式の結果もこれに近い数字が出るだろう。
 ただし、ジョコウィ氏は「公式の結果が発表されるのを待つ」と述べて勝利宣言を控え、選挙後の国民の融和を呼びかけた。一方、プラボウォ陣営は独自集計で62%の得票率だったとして「勝利宣言」を行うとともに、「ピープル・パワー」を準備すると述べて支持者の動員をちらつかせるなど、敗北を認めていない。
 5年前の選挙の時も、プラボウォ氏は独自の開票速報にもとづいて勝利宣言を発表し、中央選管から公式の結果が発表された後も、投票や集計に不正があったとして法廷闘争に打って出ている。しかし、前回は選管関係者や司法が中立性を保って問題を処理した。なにより国民が落ち着いて問題の所在を理解し、選挙の結果を受け入れたことでプラボウォ氏も負けを認めざるをえなかった。今回も、選管の公式発表が覆る可能性は小さいだろう。

接戦に持ち込んだプラボウォ氏

 ジョコウィ氏は半年間にわたる選挙戦を優位に戦い、早い段階から「再選確実」とも言われてきた。しかし、同氏の得票率は5年前の得票率53.2%とほとんど変わらないという結果になりそうである。60%以上の得票率での勝利を目指していたジョコウィ陣営にとっては、決して満足のいく結果ではない。それどころか、州別の得票率の予想値をみると、同氏の勝利が決して「楽勝」だったわけではないことが分かる。
 プラボウォ氏は選挙戦中に20%以上もジョコウィ氏に支持率を引き離されていた。それがこれだけの接戦を演じることができたのは、前回の選挙でジョコウィ氏の得票率を上回っていた州でさらに支持を伸ばすことができたからである。特に、スマトラ島の主要な州でプラボウォ氏の得票率は10ポイント以上伸びている。さらに、前回ジョコウィ氏が勝利したスマトラ島の1州とスラウェシ島の2つの州ではプラボウォ氏が逆転したようだ。
 これらの州に共通するのが、敬虔なイスラム教徒が多く住み、イスラム教組織の影響力が強いという点である。ジャワ島でも、保守的なイスラム教徒が多い西ジャワ州とバンテン州では、やはりプラボウォ氏が上回ったようだ。

イスラム組織が再選の立役者

 一方で、ジョコウィ氏の勝利の鍵となったのは、自らの地盤で大きく支持が伸びたことだったと思われる。インドネシアの東部にあり、ヒンドゥー教徒やキリスト教徒などが多く住む5つの州では、ジョコウィ氏の得票率が前回から10ポイント以上伸びている。少数派宗教や民族に属する有権者は、多宗教・多民族の共存を唱える世俗派の代表として同氏に投票したのである。
 さらに、勝利を決定づけたのが、もう1つの地盤である中東部ジャワにある3つの州での勝利であろう。この地域は、住民の95%以上がイスラム教徒であるが、世俗派の教徒が多く、前回の大統領選でもジョコウィ氏は60%前後の得票率で勝利していた。今回同氏は、これら大票田の州でさらに10ポイント以上の得票率の上積みに成功したようだ。この地域には、ナフダトゥル・ウラマー(NU)というインドネシア最大のイスラム教組織に所属するイスラム教指導者が多く住んでいる。ジョコウィ氏が副大統領候補に選んだマアルフ・アミン氏は、そのNUの議長を務めた人物である。NUが自らと強いつながりのあるマアルフ氏を当選させるために組織力を活かして票の動員を行ったことで、ジョコウィ氏はジャワで大きく勝ち越せたと思われる。
 こうしてみると、プラボウォ氏の善戦にも、ジョコウィ氏の勝利にも、宗教ファクターが効いていることが分かる。保守的なイスラム有権者がプラボウォ氏を支持するという傾向は、前回に増して強まった。一方、イスラム保守派の台頭を懸念する少数派宗教の有権者は、その防波堤としてジョコウィ氏の勝利を望んだ。ただし、同氏再選の真の立役者は、やはりイスラム組織であった。
 結局のところ、今回の大統領選は、イスラム保守派と世俗派の間の社会的分断がきわめて深いことを如実に示す結果となった。それと同時に、イスラム教徒が多数派のインドネシアでは、選挙に勝つために、世俗派の政治家といえどもイスラムにすり寄らざるをえない現実を突きつけた。

(出所)2014年大統領選挙については総選挙委員会(KPU)の公式発表、2019年大統領選挙については各種世論調査機関から発表された開票速報の平均値から筆者作成

(出所)2014年大統領選挙については総選挙委員会(KPU)の公式発表、2019年大統領選挙については各種世論調査機関から発表された開票速報の平均値から筆者作成

連立内の利害調整難しく

 同じ日に投票が行われた国会議員選挙では、16政党が575議席をめぐって争った。世論調査機関の開票速報によると、ジョコウィ氏が所属する闘争民主党(PDIP)が第1党の立場を維持したようである。プラボウォ氏が率いるグリンドラ党は1つ順位を上げて第2党となった。議席を獲得できた政党は1つ減って9になる見込みである。
 ジョコウィ氏擁立に参画した9政党のうち、議席を獲得する可能性があるのは5政党である。得票率の合計は55%前後になるため、国会の議席も6割弱確保できると思われる。5年前のジョコウィ氏は少数連立政権として発足したため1年半にわたり政局の混乱に悩まされたが、今回はスムーズに政権を発足させることができるだろう。
 ただし、同氏は再選を果たすために多くの借りを作った。特に大統領選で重要な役割を果たしたイスラム教組織NUや、早くからジョコウィ氏再選を支持して組織を動員させた連立政党などには閣僚ポストをはじめとする論功行賞が必要だろう。闘争民主党もジョコウィ氏に対して、第1党に相応しい扱いを要求してくるだろう。連立内のさまざまな利害を調整しながら政権を運営していく必要があることは1期目と変わりがない。
 さらに、インドネシアの大統領には2期10年という任期制限がある。各政党は大統領が交代する次の2024年大統領選を視野に入れながらの政権参加になる。各政党に5年後の選挙を犠牲にしてまでジョコウィ氏に協力する義理はない。連立を組む政党が同氏に無条件に協力してくれるとは考えない方がいいだろう。

関連ページ

・4月のインドネシア大統領選挙の行方を占う
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=1044

・2019年インドネシア大統領選 ジョコ氏がイスラム保守派と組んで出馬するわけ
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=1002

・今が旬、果物の女王マンゴスチン
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/overseas_detail/id=1056

・【世界の統計局】インドネシア
https://gmc.nikkei-r.co.jp/stat_area/?search_ext_col_01=01&topics_ext_options_search=1#area244

川村 晃一

日本貿易振興機構アジア経済研究所 学術情報センター 主査
主な著書に、『新興民主主義大国インドネシア-ユドヨノ政権の10年とジョコウィ大統領の登場-』(編著、アジア経済研究所、2015年)、『東南アジアの比較政治学』(共著、アジア経済研究所、2012年)など。

 
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