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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

技術的優位性への闘い~米国、新たな投資規制「FIRRMA」導入

末冨 純子

弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)、 早稲田大学法学部非常勤講師、日本国際経済法学会所属、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、財務省関税・外国為替等審議会専門委員

プロフィール詳細

アカデミック|北中南米|米国|2018年12月25日

はじめに

 安全保障における技術的優位性は、逆転してしまったらそれまで。米国が待ったなしでこの課題に取り組んでいる。

 それはこれまでのマネー・ロンダリング規制やテロ規制、輸出規制、経済制裁という枠組みにとどまらず、米国が広く受け入れてきた外国からの投資にも及んできた。The Foreign Investment Risk Review Modernization Act of 2018(FIRRMA=外国投資リスク審査近代化法)が2018年8月に署名され、成立した。FIRRMAは米国の国家安全保障の観点から、外国資本による米国企業の買収等を審査するThe Committee on Foreign Investment in the United States(CFIUS=対米外国投資委員会)の権限を強化するものである。以前に比べて審査対象が拡大し、重大インフラ及び重大技術に関する投資の事前審査が義務づけられるとともに、同盟国との情報交換が可能になる等の重要な改正が行われている。

 FIRRMAの内容とその成立の背景を探る。

FIRRMAの主な内容

 FIRRMAの主な内容は以下のとおり*1。

(1)CFIUSの権限拡大
 FIRRMAはCFIUSの権限を拡大し、特に次の4つの取引が新たに加わった。

 (i)機微な政府施設の近隣に位置する不動産を外国人によって、もしくは外国人に対して、購入、賃貸、利権設定すること
 (ii)米国のビジネスが保持し、役員会の一員となり、もしくは議決権付き株式以外の方法で意思決定権限を有する重大な非公開の技術情報に外国人がアクセスすることを可能にする「その他の投資」
 (iii)米国のビジネス、もしくは特定の米国ビジネスにおける「その他投資」が外国によって支配される結果となる外国投資家の権利の変化
 その一部を外国政府が所有する外国投資家の場合、一定の状況においてCFIUSの審査が必要となる。具体的には①外国投資家が米国企業の議決権持分の25%以上を取得し、かつ②取得者である外国投資事業体の25%以上を外国政府が所有している取引は届出が必要
 (iv)CFIUSの管轄を潜脱するように計画されたその他の取引、譲渡、合意もしくは設定

(2)申告
 新しい「申告」手続きによる簡略化した申立てもしくは「簡易申立」が規定されることで、審査の期間が短縮化された。これにより、CFIUSは取引を締結する前に当事者がCFIUSに申告をすることを求める裁量を認められた。

(3)CFIUSの審査日程の延長
 CFIUSの審査期間を30日から45日に延長し、例外的な状況においては審査期間の追加15日の延長を認める。

(4)和解
 和解合意を利用する要請の強化。これには、このような合意の利用を通知するためのコンプライアンス計画の追加も含まれる。

(5)特別な雇用権限と基金
 CFIUSに特別な雇用権限を認め、新しいCFIUS申立費用の徴収のための基金を確立する。

(6)発効日とパイロット・プログラムの延期
 FIRRMAの成立(2018年8月)の後18カ月後(2020年2月まで)、もしくはこれらの規定を統括するのに必要な法令、組織的構成、人員、及び財源の準備ができてから30日後のいずれか早い時期まで、法案の最も重要な規定の施行を延期することができる。また、CFIUSはこの法律に規定されている権限を執行するためのパイロット・プログラム*2を実行することができる。

高まるサイバーセキュリティー上の懸念

 CFIUSは関連者間の取引が米国においてサイバーセキュリティーに関する脆弱性を生じさせる、または悪化させる可能性があるか否かを評価しなければならない。CFIUSは取引により米国民の個人を特定できる情報その他極秘データが国家安全保障を脅かすような態様で、外国政府または外国人に漏洩する可能性がないかについても検討しなければならない。
 また、当該取引が米国に対して悪意あるサイバー活動(連邦政府機関の選挙結果に影響を与えるよう設計された活動等)を行う能力を新たに得ることを外国政府に認めるものか否かを評価しなければならない。

外国の支配、国を挙げて予防

 FIRRMAの内容を概観すれば、米国政府の意図が浮かび上がる。「ある日気がつけば、重要な場所や技術情報、ビジネスが外国政府に支配されていた」ということを事前に防ぐという趣旨を見て取ることができる。
 特に一党支配の中国を想定した場合、国を挙げての協力体制で先端技術を含む有力ビジネスに投資が行われた場合、投資先国としても国を挙げて対応しなければとても太刀打ちできない、ということであろう。

 そのためにCFIUSの権限を強化することによって、単に市場に任せるのではなく、政府自らが予防に乗り出しているという印象を受ける。

技術的優位性が前提の国家安全保障

 最も懸念されているのは、重要な技術が外国政府に支配されてしまうことであると分かる。この点について議論をした米国の専門家のコメントには説得力があり、印象的であった。

 圧倒的な技術的優位性があって初めて国家安全保障は成り立つ。言い換えれば、圧倒的な技術的優位を保てなくなった場合、国家安全保障は脅かされ、国家間の緊張が高まることを意味する。
 さらには、現在のところ米国が技術的な優位性を保っていることにより核兵器を含む軍事力の抑止力になっているが、これが崩れた時に何が起こるのか、この点を国を挙げて防ごうというのが米国政府の意図であろう。

 最先端技術の流出については、特に研究機関における技術の流出等を中心に懸念されており、いかなる対応が必要か議論されてきた。FIRRMAをはじめとする米国の最近の法制化の動きは、事態はもう議論をしている段階ではなく、実行の段階にあることを示している。

 2018年12月5日、カナダ司法省は、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ、Huawei)の孟晩舟(Meng Wanzhou)最高財務責任者(CFO)をバンクーバーで逮捕したと発表した。米政府が身柄の引き渡しを求めているが、中国政府は逮捕は不当だと猛反発し、即時釈放を要求している。ファーウェイについては米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が2018年4月、対イラン制裁に違反した疑いで米当局が調査に乗り出したと報じていた。また、ニューヨーク・タイムズ(New York Times)は、ファーウェイが対イラン制裁と対北朝鮮制裁に違反した疑いで米商務省に召喚されていたと伝えている。ファーウェイは、中国政府との密接な関係から安全保障上のリスクが懸念されるという理由でも、米国で厳しい視線にさらされている。世界屈指の通信機器大手だが、米企業との競争や同社の携帯電話や通信機器が中国のスパイ活動に利用されているとの懸念から、米国内での事業は厳しく制限されている*3。今回のCFOの逮捕劇は、米国の技術に対する防衛体制が個人レベルの身柄拘束にまで及ぶ深刻度を見せつけた。

慎重な対応求められる企業

 米国に投資をする企業、投資家はこれまでにも増して慎重な対応が必要となる。あらぬ嫌疑をかけられないよう関係者について内部審査をした上で投資決定をしなければ、CFIUSでの審査で足止めを受ける可能性は否定できない。

 翻って、我が国の情報管理は大丈夫だろうか。長年の懸念がより鮮明なかたちで我々に迫る。

出典

・*1 Federal Register
https://www.federalregister.gov/documents/2018/10/11/2018-22187/provisions-pertaining-to-certain-investments-in-the-united-states-by-foreign-persons

・*2 U.S. Department of the Treasury Office of Public Affairs, Interim Regulations for FIRRMA Pilot Program
https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm506

・*3 AFPBBニュース 2018年12月6日
http://www.afpbb.com/articles/-/3200724

関連ページ

・環境や社会への配慮が尊重される時代へ~関心高まるESG投資とSDGs経営
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=1026

・【世界の統計局】米国
https://gmc.nikkei-r.co.jp/stat_area/?search_ext_col_01=02&topics_ext_options_search=1#area248

末冨 純子

弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)、 早稲田大学法学部非常勤講師、日本国際経済法学会所属、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、財務省関税・外国為替等審議会専門委員

国際通商法、経済法、商取引法等を中心に実務に携わる。

<主要著作>
『Q&A FTA・EPAハンドブック』(民事法研究会、2013)
『国際投資仲裁ガイドブック』(中央経済社、2015)
『書式 会社非訟の実務』(共著、民事法研究会、2008)等多数

 
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