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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

環境や社会への配慮が尊重される時代へ~関心高まるESG投資とSDGs経営

末冨 純子

弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)、 早稲田大学法学部非常勤講師、日本国際経済法学会所属、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、財務省関税・外国為替等審議会専門委員

プロフィール詳細

アカデミック|グローバル|その他|2018年11月12日

 世界中の至るところで自然災害が発生し、各国はその対応に追われている
 貿易戦争と保護主義の動きにより、経済の流れに停滞感が広がっている
 自国第一主義を民衆が支持し、移民を排除するという閉塞感が漂う

 このような状況下、より高い視野と視点に立った考え方やリーダーシップによって突破口を見出すことができないかという衝動に誰もが駆られる。ESG投資はその急先鋒に立つ。その可能性を探る。

国連主導で普及したESG投資

 ESG投資とは、企業に投資する際に利益率やキャッシュフローといった数値目標だけで判断せず、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の3つの要素に照らして、優れた企業を選び出そうという投資の仕方である。
 2006年に国連が「責任投資原則(Proponent of Responsible Investment(PRI))」の考えを提唱したことで、ESG投資が普及した*1。PRIは、この原則に署名した機関による国際的ネットワークと協力して6つの責任投資原則を実践に移すことを目的にしている。ESG投資への影響を理解し、署名機関がESG要因を投資及び所有者の意思決定に組み込むための支援を提供している。
 6つの原則は投資家によって策定され、国連から支持を受けている。署名機関は50カ国超から約2000が集まり 、その合計資産は約90兆米ドルに相当する*2。日本では、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年9月にPRIに署名した*3。 GPIFの運用資産額は158兆5800億円(2018年度第1四半期末現在)に上る。

 PRIが提唱する6つの原則とは、以下のとおりである*4。
1. 私たちは投資分析と意思決定のプロセスにESG課題を組み込みます
2. 私たちは活動的な所有者となり、所有方針と所有習慣にESG問題を組み入れます
3. 私たちは投資対象の企業に対してESG課題についての適切な開示を求めます
4. 私たちは資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるよう働きかけを行います
5. 私たちは本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します
6. 私たちは本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します

期待されるESG投資の意義と成果

 ESG投資にはいかなる意義と効果が期待されるのか。

(1) 投資を仲介とする重要な意思決定
 2011年の東日本大震災後、エネルギー政策は各国において重要な争点となっている。しかしながら、理想と現実、理論と実態は容易には噛み合わず、議論の進展は遅い。このような中、ある大手製造業が2018年9月、現在7%の再生エネルギー比率を2040年までに段階的に引き上げ、世界111拠点において全電力をすべて再生可能エネルギーに切り替えると発表した。環境対策の優れた企業に投資や調達を集中させる動きがあり、企業価値に直結すると判断したのだ。同社は太陽光発電設備の買収も進める。
 政治の場面における意思決定が遅々として進まない場合でも、ESG投資によって、より環境保護になる手段が選ばれ、それが社会全体の意思決定へとつながっていく可能性を見出すことができる。このような動きの背景として、世界でESG投資へ巨額の資金が向かっている現実がある。世界持続可能投資連合(Global Sustainable Investment Alliance=GSIA)の2016年の年次報告によると、世界でESG投資に向かった資金は2016年には22.89兆ドル(約2540兆円)に達し、2014年から25%増加した。持続可能な投資(sustainable investment)が世界の金融市場において大きな力を形成している、と同報告書は分析する*5。

(2) 社会の一員としての役割
 高度経済成長期の日本も経験したように、経済発展の副産物として発生する公害を巡って国家・企業と市民が対立する場面はよく見られる。水俣病然り、イタイイタイ病然り。しかしながら、そもそも国家も企業も市民によって成り立っており、これを対立構造として捉え続けては発展性も持続の可能性も見出せない。
 数年前、TEDカンファレンスで、小学生の女の子がプラスチック製の袋によって海岸が汚染されたり生態系が影響を受けたりしていることに衝撃を受けて、プラスチック製の袋をできるだけ使わないようにしようという運動を立ち上げたことを紹介していた。この話は、投資家を含む聴衆から大いに注目を浴びた。
 最近では、プラスチックの破片や化粧品、洗顔料に用いられるプラスチックの粒がかなりの分量で海に流れ、魚がそれを食べて体内にプラスチックの粒を溜め、それを食べた人間の身体に有害なプラスチックの粒が溜まっているということが問題になっている。コーヒー飲料などを提供する会社が、プラスチックのストローを2020年までに全廃し、紙のストローで代替すると発表した。多くの企業や自治体がこれに続く。
 数年前の小学生の女の子のレベルに、漸く企業が追い付いてきた。社会の一員としての役割を果たしていることが、その企業の価値を上げる時代になってきた。
 反対に、暴力団と関係がある、贈収賄に関与している、法令違反行為をしているといったマイナスのイメージは、企業にとって命とりであり、「商慣習」「しがらみ」「必要悪」などの言い訳はもはや通用しない。個人のレベルで許されないことを、企業を守るために嫌々ながらにやらされるという悲劇は、少しずつでも減ってきているはずである。

(3)資本主義社会における多様性の推進
 利潤追求の中で見過ごされてきたことが、日の目を見る可能性が期待されている。労働環境の改善、ダイバーシティーの推進、社会貢献などにおいて、企業が常に評価の対象になる。この点においては、まさに企業側が提示する数字の問題ではなく、各現場の実践及びそこから醸し出される雰囲気そのものが大きな違いを生み出す。
 ある打ち合せの場面で、顧客側のチームは全員が女性、提供者側のチームは一人を除いて男性であり、唯一の女性はいつも一番端に座っていた。打ち合せにおいて占める発言の量は多いにもかかわらずだ。顧客側のチームの女性の一人が、提供者側の唯一の女性に呟く。「あなたが真ん中に座るのは、いつかしら」
 役員名簿が企業のホームページで閲覧可能である昨今、役員が全員男性である場合、その企業の体質がいかなるものであるかということが、関心を引くことになる。
 2018年9月30日、米国カリフォルニア州は上場企業に対して女性取締役の選任を義務付ける法律を施行した。 このような法律は米国内では初めてだが、欧州各国では施行されているところも多い。
 このような点において、法整備のみならず実態としてもさらに遅れる日本の産業が、投資対象として世界各国から後れをとることにならないか懸念される。

(4)共存共栄による持続性のある社会へ
 国連は「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals=SDGs)」を2015年9月の国連サミットで採択した*6。 国連加盟193カ国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標である。その具体的な内容は以下のとおりである。

1. 貧困をなくそう
2. 飢餓をゼロに
3. すべての人に健康と福祉を
4. 質の高い教育をみんなに
5. ジェンダー平等を実現しよう
6. 安全な水とトイレを世界中に
7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに
8. 働きがいも経済成長も
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
10.人や国の不平等をなくそう
11.住み続けられるまちづくりを
12.つくる責任 つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
14.海の豊かさを守ろう
15.陸の豊かさも守ろう
16.平和と公正をすべての人に
17.パートナーシップで目標を達成しよう

 簡単なスローガンとカラフルなロゴで様々なテーマを幅広くカバーするこの理念が、EGS投資にも企業の経営にも反映されている。環境問題について言えば、国連加盟国が手を携えて取り組まなければ地球の環境破壊を止めることができない段階に至っての窮余の策でもある。

コンプライアンスから企業の魅力向上へ

 ESGの考え方は、ややもすればコンプライアンスの一環として企業をさらに拘束することになりかねない。企業によっては、ESGを統括する部門を立ち上げて取り組んでいるところもある。他方、これをより積極的な機会として捉えることもできる。価格競争、サービスの質の競争、法令遵守などで神経をすり減らす中、社会貢献という理想を達成しつつ差別化を図るまたとないチャンスでもある。スタートアップ企業にとっては、自らのカラーを打ち出す機会でもある。SDGの目標やESGによる組織再編も、今後起こってくるであろう。

 最近、上場を目指さない企業が増えているという報道があった。ESG投資の場合、企業の趣旨に賛同する投資家の行動は、株式の取得に限定されるものではない。ESGに関連する企業の活動が、単に投資を呼び込む手段としてだけではなく、むしろ企業の目標ともなっていくとき、企業や起業家も多様化していくことが考えられる。

多様化するESG

 Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)という要素にも多様化がみられる。日系の半導体産業に従事していた技術者が、リーマン・ショック後に転職を余儀なくされ、その後同じような技術者を集めて再び半導体産業で一旗揚げるべく起業し、世界を目指す。そのような企業も登場した。技術者の潜在能力に気づき、これを生かし、そして世界を目指すというその心意気は、顧客のみならず、投資家の関心を引くはずである。
 プラスチック・バッグの減少に向けて活動を始めた小学生の女の子のように、誰もが純粋に夢見る世界を目指す人々が、正当に評価され、伸び伸びと活動できるような世界の実現を一押しする力としてのESG投資に期待したい。

出典

・*1 About the PRI
https://www.unpri.org/about-the-pri

・*2 PRI Annual Report 2018
https://www.unpri.org/Uploads/z/b/u/pri_ar2018_761642.pdf

・*3 年金積立金管理運用独立行政法人 第111回運用委員会 資料
https://www.gpif.go.jp/operation/committee/pdf/kanri02iinkai1112.pdf

・*4 PRI 責任投資原則
https://www.unpri.org/download?ac=1541

・*5 Global Sustainable Investment Review
http://www.gsi-alliance.org/wp-content/uploads/2017/03/GSIR_Review2016.F.pdf

・*6 国際連合広報センター
http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/

末冨 純子

弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)、 早稲田大学法学部非常勤講師、日本国際経済法学会所属、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、財務省関税・外国為替等審議会専門委員

国際通商法、経済法、商取引法等を中心に実務に携わる。

<主要著作>
『Q&A FTA・EPAハンドブック』(民事法研究会、2013)
『国際投資仲裁ガイドブック』(中央経済社、2015)
『書式 会社非訟の実務』(共著、民事法研究会、2008)等多数

 
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