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プログラム|特別講義 -専門家に聞く-

ASEANにおける人事課題

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

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グローバルマネージメント|アジア・オセアニア|タイ|2018年11月08日

 ASEANは過去10年間で高い経済成長を見せてきた。2015年のASEAN経済共同体(AEC)の発足により投資や人の流れが自由になったことで、「開かれた成長センター」となる潜在力が世界各国から注目されている。日本にとっても、ASEANは米国、EUに次ぐ重要な直接投資先である※1。
 ただ人件費の急激な上昇により、これまでの低賃金をベースとした戦略から、R&Dのローカライズや地域全体をカバーするバリューチェーンの構築へと戦略の転換が必要になっている。そうした背景からASEAN域内の外資系企業だけでなく、ローカル企業も経営管理、ガバナンス、人材マネジメントの近代化を急いでいる。本稿では、人材マネジメント面での昨今の重要テーマをいくつか紹介する。

拠点間人事異動のインフラ必要に

 ASEAN域内にある企業(ローカル、外資系とも)にとっての最重要テーマは、域内での人材活用であると言っていい。販路開拓や市場調査、技術移転などに従事するための営業、マーケティング、技術、マネジメントに携わる社員の異動が活発になっている。シンガポールやタイのような経営資源が蓄積された拠点の社員が、販路開拓や工場設立の責任者としてベトナムやカンボジアに赴任するといったようなケースだ。このような人事異動に対応するインフラの整備が急務となっている。
 国境をこえた人材活用で一歩先んじている欧米企業をモデルとして取り組む企業が多い。欧米企業は1980~1990年代から地域統括拠点を構え、域内異動を前提とした人事管理の仕組みや、拠点間の人事交流をはかってきた。こうした取り組みが結実し、欧米企業のASEAN拠点では、本社国籍の社員(つまり駐在員)でも拠点所在地のローカル社員でもない、第三国の国籍の社員が経営トップになっている割合が日系企業よりも多くなっている。ローカル社員を活用する能力をもっていなければ、都度、本国(本社)から人を派遣しなければならず、コストやスピードで後れをとることになるため大変重要なテーマである。

企業内教育から産官学ネットワークによる教育へ

 人材の育成も、ASEAN域内の企業にとっては最重要テーマの一つだ。特に近代的な経営管理ノウハウを有するマネジメント人材の需要は大きい。企業内の教育訓練では時間がかかるため、多くの国で産官学による人材育成のコンソーシアムが立ち上がっている。このような産官学のネットワークに参加すると、企業の知名度が高まり、優秀な学生に接触できるというメリットもある。欧米のグローバル企業や現地の優良企業の中には、自社用の教育プログラムの共同開発、寄付講座、インターンシップ受け入れなどを通じた関係構築に熱心だ。このような動きに乗り遅れると、今後、キャンパスリクルートだけでは学生を獲得するのが一層難しい状況になると思われる。なお、日系企業のうち大学と連携して採用活動を行う企業は3割未満であり、今後より積極的に取り組むべきだと考える※2。

一律処遇から個別処遇へ

 希少価値の高い人材、例えばマネジメントができる人材、技術者などの専門職、海外で働ける人材に対する需要が一気に高まってきていることは前述の通りだが、需要が供給を上回っているため、報酬水準が高騰している。転職が頻繁で、社員の人脈やヘッドハンティング会社の紹介による中途採用が一般的な国で、欲しい人材を一本釣りするためには、個別処遇が必要になってくる。既存の人事制度の柔軟な運用で対応するか、人事制度を複線化する、といった対応が必要になっている。日系企業では、社内の公平性を重視するため、職種や部署に関係なく同じ処遇体系をとる。処遇における特別扱いを嫌うが、それでは即戦力の採用は一層難しくなると思われる。

重要性高まるパフォーマンスマネジメント

 適材適所の配置や相応の報酬を提供するために、パフォーマンスマネジメントが非常に大事になっている。優秀な社員の確保のためばかりでなく、技術進歩やマネジメントの近代化についていけない社員も出てきており、そういった社員の意識改革や退職を促すケースも踏まえて(ただし解雇が実質禁止されている国もある)、個々人の能力や適性を的確に把握するための技術やスキルの向上が求められている。評価やフィードバックに関する研修や適性アセスメント、多面評価、チーム評価といった様々な手法が検討され導入されている。

 人材マネジメントの基本は必要な人材を確保し、教育し、配置し、モチベーションを高めて社員の意欲・能力をフルに引き出すことで、現場の人材ニーズに迅速にこたえることだ。しかし、それだけでは不十分である。ASEANでは環境変化のスピードが速く、かつ、グローバル企業同士がしのぎを削る。日系以外のグローバル企業の動きを目の端にとらえながら、一歩先を考えて布石を打っておく意識が不可欠だ。

※1 『目で見るアセアン』平成30年7月、アジア大洋州局地域政策参事官室
※2 『在アジア日系企業における現地スタッフの給料と待遇に関する調査』2018年版、日経リサーチ

関連ページ

・タイ現地法人でのコンプライアンスの進め方
https://gmc.nikkei-r.co.jp/features/column_detail/id=991

・【世界の統計局】タイ
https://gmc.nikkei-r.co.jp/stat_area/?search_ext_col_01=01&topics_ext_options_search=1#area243

森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表

銀行シンクタンク、外資系コンサルティング会社、日系メーカーの人事部長を経て、現在、オフィス・グローバルナビゲーター代表。海外人事に関するコンサルティングを行う。

 
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